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2025.12.30

【連載】上田誠仁コラム雲外蒼天/第64回「駅伝とチームマネジメント~棄権を今後の糧に~」

チームメイトと思いをつなぐ

全国高校駅伝女子の1区の様子

すでに報道されている通り、女子はスタートを前にインフルエンザなどの体調不良者が出て、チーム内に感染拡大したことを受けて大会当日に棄権することとなった。

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まず個々が感染症対策を怠らないことは基本としつつも、感染症対策がいかに困難で人々の連携と協力がなければ完結しないことを私たちはコロナ禍で体験している。それはコロナ感染が拡大していた2020年9月の1回目コラムのテーマでもあった。

同様にインフルエンザの感染力の強さは言わずと認知されているはずである。地元・四国新聞では12月16日付で、香川県教委はインフルエンザの集団発生に伴い、計68校・園が学校・学級閉鎖などの対応をとると掲載されている。その波紋は当然学校内での感染者拡大につながり、大会直前には学級閉鎖の判断の可否が論ぜられるほどであったという。

しかしながら残念なことに、京都への出発前に1人が体調不良を申し出た。その後、京都での調整中の木曜日に2人目の体調不良者が出てしまった。

大会までのカウントダウンは容赦なく近づいてくる。そのような中、不安と緊張感はいかばかりであったろうか。女子長距離部員は7人。エントリーは短距離ブロックから協力してもらった選手を含め8人のエントリーであった。

大会前日の区間エントリー時点では、なんとか体調の良いもので出走をと、大会事務局の理解のもとエントリーを済ませてはいた。しかしながら、その後大会当日の朝までに2人の体調不良者が出ることとなり棄権を決断するにいたった――と話てくれた。

全国に視点を広げると、オンライン授業や別室での隔離授業など独自の対策を施しつつ、大会に向けコンディショニングをする学校もあったようだ。

私も香川・尽誠学園高校時代に部員7人で全国高校駅伝に初出場を果たした思い出がある。エントリーは男子マネージャーと短距離選手の2人を加えた9人でエントリーし、開会式のイスが一つ空席であったことを鮮明に思い出すことができる。

また、私自身が残念ながら箱根駅伝途中棄権を2回経験していることから、指導者や選手の心象風景を少しばかり垣間見れば、胸が締めつけられる思いを抱いていた。棄権する喪失感と失望は、とてつもなく深く暗い海の底へ沈んでゆくような感覚に襲われるからだ。

棄権の決断を大会本部に届け、そのことを選手に通達。応援に駆けつけている保護者にも伝えねばならない。辛い時間の流れの中にあって、それぞれ向き合わねばならず、背を向けるわけにはいかない。

大会本部への棄権届けは事務手続きではあるが覚悟が必要。保護者への説明はこの決断への納得が必要だ。選手とチームメイトには現実を受け止めたうえで理解が求められる。

指導者が棄権の決断と覚悟を決め、応援位駆けつけた保護者に対する説明責任を果たし、選手たちにその現実を受け止めるように語りかけ、理解するには駅伝を戦おうとするチームマネジメントをいかに丁寧に指導してきたかにかかっている。

部員たちは涙しながら指導者の決断を静かに聴いてくれたそうだ。昨年は県大会で敗れ2年越しの夢を叶えて駆け抜けるはずであった都大路。彼女たちの足跡はリザルトには残すことはできなかった。

けれども、駅伝チームとして一番醸成されなければならない、“チームメイトと思いをつなぐ”ことは参加したどのチームと同様に達成されたのではないだろうか。

私が2回目の箱根駅伝途中棄権をした際、大会終了後の大手町で集まった全部員に「人生において何が起こるかかが問題ではなく、そのことをどのように受け止めるかが重要です。人生をリセットすることはできないが、リスタートを切ることはできます。過去を変えることはできないけれども、その受け止め方次第で自分の未来を大きく変えることはできると思います。であれば、1年後の未来を君たちとともに変えてみようではありませんか!」と、語りかけたことを思い出す。

卒業する選手は進学や就職をした先の人生において糧としていただきたい。在校生は新たなチーム作りの礎として生かしていただきたい。

そのように年の瀬を越える途中で立ち止まり思いを馳せてみた。真剣に頑張って積み重ねた時間が無駄になるはずはない!

上田誠仁 Ueda Masahito/1959年生まれ、香川県出身。山梨学院大学スポーツ科学部スポーツ科学科教授。順天堂大学時代に3年連続で箱根駅伝の5区を担い、2年時と3年時に区間賞を獲得。2度の総合優勝に貢献した。卒業後は地元・香川県内の中学・高校教諭を歴任。中学教諭時代の1983年には日本選手権5000mで2位と好成績を収めている。85年に山梨学院大学の陸上競技部監督へ就任し、92年には創部7年、出場6回目にして箱根駅伝総合優勝を達成。以降、出雲駅伝5連覇、箱根総合優勝3回など輝かしい実績を誇るほか、中村祐二や尾方剛、大崎悟史、井上大仁など、のちにマラソンで世界へ羽ばたく選手を多数育成している。2022年4月より山梨学院大学陸上競技部顧問に就任。
山梨学大の上田誠仁顧問の月陸Online特別連載コラム。これまでの経験や感じたこと、想いなど、心のままに綴っていただきます!

第64回「駅伝とチームマネジメント~棄権を今後の糧に~」

年の瀬が迫り、その先には箱根駅伝が待ち受ける。 久石譲さんの箱根駅伝テーマソングが、定番のクリスマスソングや年末の特集番組の声とシンクロするのは私だけではないだろう。 そんな年の瀬は選手を擁する指導者はもとより、期待を一身に背負い、出走を待つチームのエースや10区間のエントリーがかなうかどうかの瀬戸際に心が揺れ動くメンバーに、それぞれ色の違う重圧が覆いかぶさる。 そんな圧迫感を“プレッシャー”と言う。2019年に駅伝監督を引き継ぎ、駅伝関連の現場指導からは距離を置くようになったとはいえ、条件反射的に緊迫感が五感を駆け巡る。 常々「駅伝とは……」を語る時にユニフォームとゼッケン(ナンバー)、タスキを引き合いに出す。 ユニフォームは自信と誇りの象徴であり、大学公式戦のユニフォームは努力を自信へと昇華させた誇りを胸にする選手が袖を通すべきであろう。 ナンバー(ゼッケン)は箱根駅伝の場合、前年度の順位と予選会の順位順に割り当てられる。例えば「13-1」とプリントされたナンバーは、「予選会3位で1区を走る予定の選手」ということとなる。 これが何を意味するのかといえば、その区間における責任をまっとうしなさいという自覚と責任の象徴であると捉えている(補欠との変更があれば、その補欠ナンバーで走ることになる)。 そして、タスキはチームの団結と絆の象徴だ。団結や絆は一朝一夕にできるものではなく、日々のチームとして喜怒哀楽の営みの中から生まれるものであるからだ。 タスキは布でできている。その布を折り上げる縦糸は、どのチームのすべての選手に平等に与えられている365日と言う時間軸である。そして、横糸は同じくすべての部員に1日1本ずつ与えられており、それをどのように織り上げるかでタスキの出来映えが違ってくる。ゆえに駅伝はタスキの出来具合を試すレースでもあるとも言えるのではなかろうか。 1月2日にスタートの号砲が鳴り、勝負の行方を追う10区間ではある。しかしながら、その行方のほとんどを決めているのがチームマネジメントとしてのタスキの織り上げ方であるはずだ。 このような思いを胸に今まで駅伝競技を見つめてきた。昨年の52回コラムでは、駅伝を切磋琢磨という言葉で語らせていただいた。 さらにその1年前のコラムには100回大会を前に「駅伝が持つ魅力は、信じる気持ちをタスキに込めて、未来へ運ぶからこそ生み出されるのであろう」と書かせていただいている。 今年の年の瀬が迫る今夜は、このような駅伝に対する認識の上で、静かに思いをとあるチームに馳せてみた。私の郷里でもある香川県の四学香川西高校。指導者は卒業生で学生時代に800m日本選手権2連覇を果たした北村智宏先生(広島・沼田高校、山梨学大卒)だ。 先日行われた全国高校駅伝に男女とも県大会を制して、出場権を獲得していた。女子は2年ぶり6回目、男子は21年ぶり2回目の出場権(北村先生が指導者となって初出場)であった。

チームメイトと思いをつなぐ

[caption id="attachment_131862" align="alignnone" width="800"] 全国高校駅伝女子の1区の様子[/caption] すでに報道されている通り、女子はスタートを前にインフルエンザなどの体調不良者が出て、チーム内に感染拡大したことを受けて大会当日に棄権することとなった。 まず個々が感染症対策を怠らないことは基本としつつも、感染症対策がいかに困難で人々の連携と協力がなければ完結しないことを私たちはコロナ禍で体験している。それはコロナ感染が拡大していた2020年9月の1回目コラムのテーマでもあった。 同様にインフルエンザの感染力の強さは言わずと認知されているはずである。地元・四国新聞では12月16日付で、香川県教委はインフルエンザの集団発生に伴い、計68校・園が学校・学級閉鎖などの対応をとると掲載されている。その波紋は当然学校内での感染者拡大につながり、大会直前には学級閉鎖の判断の可否が論ぜられるほどであったという。 しかしながら残念なことに、京都への出発前に1人が体調不良を申し出た。その後、京都での調整中の木曜日に2人目の体調不良者が出てしまった。 大会までのカウントダウンは容赦なく近づいてくる。そのような中、不安と緊張感はいかばかりであったろうか。女子長距離部員は7人。エントリーは短距離ブロックから協力してもらった選手を含め8人のエントリーであった。 大会前日の区間エントリー時点では、なんとか体調の良いもので出走をと、大会事務局の理解のもとエントリーを済ませてはいた。しかしながら、その後大会当日の朝までに2人の体調不良者が出ることとなり棄権を決断するにいたった――と話てくれた。 全国に視点を広げると、オンライン授業や別室での隔離授業など独自の対策を施しつつ、大会に向けコンディショニングをする学校もあったようだ。 私も香川・尽誠学園高校時代に部員7人で全国高校駅伝に初出場を果たした思い出がある。エントリーは男子マネージャーと短距離選手の2人を加えた9人でエントリーし、開会式のイスが一つ空席であったことを鮮明に思い出すことができる。 また、私自身が残念ながら箱根駅伝途中棄権を2回経験していることから、指導者や選手の心象風景を少しばかり垣間見れば、胸が締めつけられる思いを抱いていた。棄権する喪失感と失望は、とてつもなく深く暗い海の底へ沈んでゆくような感覚に襲われるからだ。 棄権の決断を大会本部に届け、そのことを選手に通達。応援に駆けつけている保護者にも伝えねばならない。辛い時間の流れの中にあって、それぞれ向き合わねばならず、背を向けるわけにはいかない。 大会本部への棄権届けは事務手続きではあるが覚悟が必要。保護者への説明はこの決断への納得が必要だ。選手とチームメイトには現実を受け止めたうえで理解が求められる。 指導者が棄権の決断と覚悟を決め、応援位駆けつけた保護者に対する説明責任を果たし、選手たちにその現実を受け止めるように語りかけ、理解するには駅伝を戦おうとするチームマネジメントをいかに丁寧に指導してきたかにかかっている。 部員たちは涙しながら指導者の決断を静かに聴いてくれたそうだ。昨年は県大会で敗れ2年越しの夢を叶えて駆け抜けるはずであった都大路。彼女たちの足跡はリザルトには残すことはできなかった。 けれども、駅伝チームとして一番醸成されなければならない、“チームメイトと思いをつなぐ”ことは参加したどのチームと同様に達成されたのではないだろうか。 私が2回目の箱根駅伝途中棄権をした際、大会終了後の大手町で集まった全部員に「人生において何が起こるかかが問題ではなく、そのことをどのように受け止めるかが重要です。人生をリセットすることはできないが、リスタートを切ることはできます。過去を変えることはできないけれども、その受け止め方次第で自分の未来を大きく変えることはできると思います。であれば、1年後の未来を君たちとともに変えてみようではありませんか!」と、語りかけたことを思い出す。 卒業する選手は進学や就職をした先の人生において糧としていただきたい。在校生は新たなチーム作りの礎として生かしていただきたい。 そのように年の瀬を越える途中で立ち止まり思いを馳せてみた。真剣に頑張って積み重ねた時間が無駄になるはずはない!
上田誠仁 Ueda Masahito/1959年生まれ、香川県出身。山梨学院大学スポーツ科学部スポーツ科学科教授。順天堂大学時代に3年連続で箱根駅伝の5区を担い、2年時と3年時に区間賞を獲得。2度の総合優勝に貢献した。卒業後は地元・香川県内の中学・高校教諭を歴任。中学教諭時代の1983年には日本選手権5000mで2位と好成績を収めている。85年に山梨学院大学の陸上競技部監督へ就任し、92年には創部7年、出場6回目にして箱根駅伝総合優勝を達成。以降、出雲駅伝5連覇、箱根総合優勝3回など輝かしい実績を誇るほか、中村祐二や尾方剛、大崎悟史、井上大仁など、のちにマラソンで世界へ羽ばたく選手を多数育成している。2022年4月より山梨学院大学陸上競技部顧問に就任。

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