HOME 世界陸上

2025.09.15

NEWS
【竹澤健介の視点】スローからの勝負制したグレシエのスピード光る 日本勢に求められるベースは「1万m26分台」/東京世界陸上
【竹澤健介の視点】スローからの勝負制したグレシエのスピード光る 日本勢に求められるベースは「1万m26分台」/東京世界陸上

男子10000mで金メダルを獲得したグレシエ(左)

9月14日に行われた東京世界陸上の男子10000m決勝。ジミー・グレシエ(フランス)が28分55秒77で初優勝を飾り、日本勢は鈴木芽吹(トヨタ自動車)が20位、葛西潤(旭化成)が22位だった。2008年北京五輪5000m、10000m代表の竹澤健介さん(摂南大ヘッドコーチ)に、レースを振り返ってもらった。

◇ ◇ ◇

ハイペースで26分台が続出した昨年のパリ五輪とは打って変わって、スローペースの展開から、文字通り「ナンバー1」を決めるラスト勝負になりました

広告の下にコンテンツが続きます

ケニア勢がトップ級がそろわなかったこと、3連覇中のジョシュア・チェプテゲイ、ジェイコブ・キプリモのウガンダ勢がマラソンを見据えて出場しなかったことが、スローになった要因だと感じています。特にウガンダ勢が出場していればハイペースになったと思うので、結果的に日本勢が前に出ざるを得ない流れになりました。

これまで上位を占めてきたアフリカ勢を抑えて優勝したジミー・グレシエ(フランス)、2位のヨミフ・ケジェルチャ(エチオピア)を挟んで3位に食い込んだアンドレアス・アルムグレン(スウェーデン)ともに、8月のダイヤモンドリーグ(DL)ファイナル3000mでも1位、3位と結果を残しています。

DLなどハイレベルの勝負で上位に来ている選手が、今回は上位に来ている印象。スローだったので、短い距離に対応できる選手や、ベテラン、中堅よりも若手のほうに向いた展開だったことを考えると、やはり「スピード」勝負は日本勢にとって厳しい流れだったと言わざるを得ません。この展開の中で着順を取るのは、非常に難しいものです。

広告の下にコンテンツが続きます

暑い中でのハイペースであれば、私が出場した07年大阪大会や、初日の女子10000mで6位に入賞した廣中璃梨佳選手(日本郵政グループ)のように、後半に落ちてきた選手を拾いながら順位を上げられる可能性があります。

しかし、スローペースの中で日本勢が先頭に立ってペースを上げても、海外勢にうまく対応されます。また、前に出られた時に、日本であれば同じペースで乗っていける場合が多いですが、海外だとそこからペースを落とされたり、一気に上げられたりして、リズムを大きく崩される。これは世界大会ならではで、日本人が日々のトレーニングからなかなか実践できるものではありません。

鈴木選手も、葛西選手も、前を引っ張って自分のリズムに持って行こうという意図を感じました。ただ、あれだけスローになると、前に出てもなかなか振り切れるものではありませんし、逃がしてもくれないでしょう。着順を1つでも上げることを目指すのであれば、後ろにつき続ける展開も考えられますが、そのためにはスピード、スタミナともに世界で戦える基準にしなければいけない。スピードの余裕度の差をいかに埋めるのか、その取り組みを突き詰めていく必要があるでしょう。

グレシエ選手は1000mで2分18秒87、1500mで3分32秒71のスピードを誇り、アルムグレン選手は800mで1分45秒59を持っています。そのスピードを持ってハーフまでを走れて、クロカンもこなせる。10000m26分台が“ベース”のスピード、スタミナを備えてはじめて、勝負の舞台に立てるのだと思います。

短い距離でスピードを高め、そのスピードを持って距離を延ばす。そういった育成の流れが、より大切になっていくように感じた今回のレースでした。

◎竹澤健介(たけざわ・けんすけ)
摂南大陸上競技部ヘッドコーチ。早大3年時の2007年に大阪世界選手権10000m、同4年時の08年北京五輪5000m、10000mに出場。箱根駅伝では2年時から3年連続区間賞を獲得した。日本選手権はエスビー食品時代の10年に10000mで優勝している。自己ベストは500m13分19秒00、10000m27分45秒59。

9月14日に行われた東京世界陸上の男子10000m決勝。ジミー・グレシエ(フランス)が28分55秒77で初優勝を飾り、日本勢は鈴木芽吹(トヨタ自動車)が20位、葛西潤(旭化成)が22位だった。2008年北京五輪5000m、10000m代表の竹澤健介さん(摂南大ヘッドコーチ)に、レースを振り返ってもらった。 ◇ ◇ ◇ ハイペースで26分台が続出した昨年のパリ五輪とは打って変わって、スローペースの展開から、文字通り「ナンバー1」を決めるラスト勝負になりました ケニア勢がトップ級がそろわなかったこと、3連覇中のジョシュア・チェプテゲイ、ジェイコブ・キプリモのウガンダ勢がマラソンを見据えて出場しなかったことが、スローになった要因だと感じています。特にウガンダ勢が出場していればハイペースになったと思うので、結果的に日本勢が前に出ざるを得ない流れになりました。 これまで上位を占めてきたアフリカ勢を抑えて優勝したジミー・グレシエ(フランス)、2位のヨミフ・ケジェルチャ(エチオピア)を挟んで3位に食い込んだアンドレアス・アルムグレン(スウェーデン)ともに、8月のダイヤモンドリーグ(DL)ファイナル3000mでも1位、3位と結果を残しています。 DLなどハイレベルの勝負で上位に来ている選手が、今回は上位に来ている印象。スローだったので、短い距離に対応できる選手や、ベテラン、中堅よりも若手のほうに向いた展開だったことを考えると、やはり「スピード」勝負は日本勢にとって厳しい流れだったと言わざるを得ません。この展開の中で着順を取るのは、非常に難しいものです。 暑い中でのハイペースであれば、私が出場した07年大阪大会や、初日の女子10000mで6位に入賞した廣中璃梨佳選手(日本郵政グループ)のように、後半に落ちてきた選手を拾いながら順位を上げられる可能性があります。 しかし、スローペースの中で日本勢が先頭に立ってペースを上げても、海外勢にうまく対応されます。また、前に出られた時に、日本であれば同じペースで乗っていける場合が多いですが、海外だとそこからペースを落とされたり、一気に上げられたりして、リズムを大きく崩される。これは世界大会ならではで、日本人が日々のトレーニングからなかなか実践できるものではありません。 鈴木選手も、葛西選手も、前を引っ張って自分のリズムに持って行こうという意図を感じました。ただ、あれだけスローになると、前に出てもなかなか振り切れるものではありませんし、逃がしてもくれないでしょう。着順を1つでも上げることを目指すのであれば、後ろにつき続ける展開も考えられますが、そのためにはスピード、スタミナともに世界で戦える基準にしなければいけない。スピードの余裕度の差をいかに埋めるのか、その取り組みを突き詰めていく必要があるでしょう。 グレシエ選手は1000mで2分18秒87、1500mで3分32秒71のスピードを誇り、アルムグレン選手は800mで1分45秒59を持っています。そのスピードを持ってハーフまでを走れて、クロカンもこなせる。10000m26分台が“ベース”のスピード、スタミナを備えてはじめて、勝負の舞台に立てるのだと思います。 短い距離でスピードを高め、そのスピードを持って距離を延ばす。そういった育成の流れが、より大切になっていくように感じた今回のレースでした。 ◎竹澤健介(たけざわ・けんすけ) 摂南大陸上競技部ヘッドコーチ。早大3年時の2007年に大阪世界選手権10000m、同4年時の08年北京五輪5000m、10000mに出場。箱根駅伝では2年時から3年連続区間賞を獲得した。日本選手権はエスビー食品時代の10年に10000mで優勝している。自己ベストは500m13分19秒00、10000m27分45秒59。

次ページ:

       

RECOMMENDED おすすめの記事

    

Ranking 人気記事ランキング 人気記事ランキング

Latest articles 最新の記事

2025.09.15

400mH井之上駿太は初の国際大会 無念の予選落ちも「ホームゲームのような雰囲気で幸せな49秒だった」/東京世界陸上

◇東京世界陸上(9月13日~21日/国立競技場)3日目 東京世界陸上の3日目のイブニングセッションが行われ、男子400mハードルの予選1組に登場した井之上駿太(富士通)は49秒73の8着となり、準決勝進出はならなかった。 […]

NEWS 400mH予選6着で通過できなかった小川大輝 後半の冷静さ欠き「焦って力だけ使ってしまった」/東京世界陸上

2025.09.15

400mH予選6着で通過できなかった小川大輝 後半の冷静さ欠き「焦って力だけ使ってしまった」/東京世界陸上

◇東京世界陸上(9月13日~21日/国立競技場)3日目 東京世界陸上3日目のイブニングセッションが行われ、男子400m障害予選2組で小川大輝(東洋大)は50秒08で6着となり、準決勝進出はならなかった。 小川は序盤は積極 […]

NEWS アディダスが期間限定のホスピタリティ施設「アディダスハウス」が表参道にオープン!/東京世界陸上

2025.09.15

アディダスが期間限定のホスピタリティ施設「アディダスハウス」が表参道にオープン!/東京世界陸上

アディダス ジャパンは9月15日、東京世界陸上に合わせて13日より表参道(港区北青山)で期間限定オープンした「アディダスハウス」にてメディア向けイベント「adidas House Tokyo session」を開いた。 […]

NEWS 400mH予選の豊田兼は51秒80で組8着 本来の力を出し切れず敗退/東京世界陸上

2025.09.15

400mH予選の豊田兼は51秒80で組8着 本来の力を出し切れず敗退/東京世界陸上

◇東京世界陸上(9月13日~21日/国立競技場)3日目 東京世界陸上3日目のイブニングセッションが行われ、男子400mハードル予選5組の豊田兼(トヨタ自動車)は51秒80で8着に終わり、準決勝には届かなかった。 200m […]

NEWS 400mH・小川大輝は50秒08で予選6着にとどまる 9台目以降失速して後退/東京世界陸上

2025.09.15

400mH・小川大輝は50秒08で予選6着にとどまる 9台目以降失速して後退/東京世界陸上

◇東京世界陸上(9月13日~21日/国立競技場)3日目 東京世界陸上3日目のイブニングセッションが行われ、男子400m障害予選2組で小川大輝(東洋大)は50秒08で6着となり、準決勝進出はならなかった。 2レーンの小川は […]

SNS

Latest Issue 最新号 最新号

2025年10月号 (9月9日発売)

2025年10月号 (9月9日発売)

【別冊付録】東京2025世界陸上観戦ガイド
村竹ラシッド/桐生祥秀/中島佑気ジョセフ/中島ひとみ/瀬古優斗
【Coming EKIDEN Season 25-26】
学生長距離最新戦力分析/青学大/駒大/國學院大/中大/

page top