2025.09.15
◇東京世界陸上(9月13日~21日/国立競技場)3日目
東京世界陸上の3日目のイブニングセッションで男子110mハードル予選が行われ、日本からは村竹ラシッド(JAL)、泉谷駿介(住友電工)、野本周成(愛媛競技力本部)が出場。メダル、複数入賞など、今大会の大きな注目となる。
元日本記録保持者で、東京五輪代表、現在は引退して歯科医を目指している金井大旺さん(ミズノブランドアンバサダー)に、3人の走りについて解説してもらった。
海外レースで経験値が増えた村竹
村竹選手の12秒台(Athlete Night Gamesでの12秒92)は私もライブ配信で見ていて、思わず声が出ました。ハードルに少し接觸していたようですが、減速しない接觸の仕方だったのでしょう。お尻から乗って当たると減速しますが、うまく、“かする”くらいで行けば倒れてくれます。ダイヤモンドリーグ(DL)などでは硬いハードルが用いられるため、重心をやや高くして跳んでいるように見えましたが、福井ではギリギリの重心位置で跳ぶことができていました。ハードルに合わせて重心を数センチほど変えているのかもしれません。
ハードルは踏み切りが重要です。踏み切りを近くしてしまうとブレーキがかかってしまいます。そうすると、ハードル間のインターバルで刻み切れません。12秒台の走りはブレーキ動作が少なかったです。12秒台は出せる力を持っていたと思いますが、まさか12秒92とは本当に驚きました。日本人でも行けるんだ、と証明してくれたので元選手としてもうれしいです。
村竹選手について、タイムはもちろん、海外のレースでも安定して走っていました。技術的な部分は勿論、経験値が増えたというのは大きいでしょう。優勝候補に挙がるC.ティンチ選手(米國)らと日常的に戦うことで、だいたいのレースの流れ、パターンもわかっているのはアドバンテージになります。
泉谷選手の武器は踏み切りの強さです。まったくつぶれずに跳ぶことができます。国内ではダントツですし、世界トップクラスです。それがあるからこそ、身長がそれほど高くなくても対応できると思います。また、スピードも特筆すべきで、加速走であれば100m10秒1台の選手と同じくらいのスピードで走ることができるスプリント力を持っていると思います。
2年前のブダペストでは5位入賞しているように、世界クラスの選手で12秒台のベースはあると思います。踏み切りで少しミスが出るとお尻を当ててしまい、接触での失速が大きくなってしまいます。踏み切り位置を安定させることで持ち味を発揮できるかと思います。
野本選手は「大きい」「速い」「刻める」というハードル選手に重要な3つがそろっています。日本ではなかなかいません。総合力があり、理想型に近いです。阿部竜希選手(順大)もこのタイプですね。2人に共通していますが、特に身長が大きいのにも関わらずインターバル間を刻むことができることが強みです。ハードリング技術でまだ改善の余地が残されていて、ちょっとしたきっかけでタイムが大きく伸びる可能性も秘めています。
野本選手は特に後半で一気に来ます。ケガが多かったのですが、継続して練習してようやく代表になりました。同期として感慨深いです。
私の時も高山峻野選手(ゼンリン)を含め、すごくレベルが高く、刺激を受けていました。国内のレベルが高いことで、日々の練習に対する気持ちの入り方が違います。そうなると質が違ってきます。毎日、もちろん一生懸命に練習をしますが、気づいていないだけで、本当はもう少し先まで追い込めるんです。ライバルがいると、自然と限界をもうちょっと超えたところまで行くようになる。それが1日、1日の積み重ねると、どんどんと成長できるのです。
世界陸上のハードルはNISHI製で軽い素材のものです。これも日常的に使用している日本人にとって有利に働くと私は思います。五輪などは木製(モンド社)だったり、同じプラスチック系でも少し硬かったりします。
NISHI製になることにより、海外選手が必ずしもプラスに働くとも思っていません。海外選手は普段から硬いハードルを跳ぶために、重心位置やハードリングが常に高く、というのが染みついているのです。高く跳ぶ選手が、東京に来て数日で重心を低く変えることは非常に難しいでしょう。日本人選手ほどのアドバンテージはないのではないかと思います。
ライバルはやはり絶好調のティンチ選手。重心が高く、失敗が少ない印象です。世界陸上3連覇中のG.ホロウェイ選手(米国)は今季まだ調子が上がっていません。力はある選手ですが、ここから一気に上がるかは難しいところです。
村竹選手はすでに世界トップクラスの実績を持っています。メダルはもちろん、優勝も狙えるでしょう。泉谷選手、野本選手も準決勝でしっかりパフォーマンスを発揮すれば決勝での走りにつながると思います。
私はいま、歯科医を目指して病院で研修中です。観に行けたらうれしいですが実習次第となってしまいますが、全力で応援します。

●かない・たいおう/北海道出身。1995年9月28日生まれ。函館ラ・サール高→法大。19年ドーハ世界陸上、21年東京五輪代表。自己記録13秒16は日本歴代5位。21年度シーズンで引退し、歯科医を目指して日本医科歯科大学に編入した。
海外レースで経験値が増えた村竹
村竹選手の12秒台(Athlete Night Gamesでの12秒92)は私もライブ配信で見ていて、思わず声が出ました。ハードルに少し接觸していたようですが、減速しない接觸の仕方だったのでしょう。お尻から乗って当たると減速しますが、うまく、“かする”くらいで行けば倒れてくれます。ダイヤモンドリーグ(DL)などでは硬いハードルが用いられるため、重心をやや高くして跳んでいるように見えましたが、福井ではギリギリの重心位置で跳ぶことができていました。ハードルに合わせて重心を数センチほど変えているのかもしれません。 ハードルは踏み切りが重要です。踏み切りを近くしてしまうとブレーキがかかってしまいます。そうすると、ハードル間のインターバルで刻み切れません。12秒台の走りはブレーキ動作が少なかったです。12秒台は出せる力を持っていたと思いますが、まさか12秒92とは本当に驚きました。日本人でも行けるんだ、と証明してくれたので元選手としてもうれしいです。 村竹選手について、タイムはもちろん、海外のレースでも安定して走っていました。技術的な部分は勿論、経験値が増えたというのは大きいでしょう。優勝候補に挙がるC.ティンチ選手(米國)らと日常的に戦うことで、だいたいのレースの流れ、パターンもわかっているのはアドバンテージになります。 泉谷選手の武器は踏み切りの強さです。まったくつぶれずに跳ぶことができます。国内ではダントツですし、世界トップクラスです。それがあるからこそ、身長がそれほど高くなくても対応できると思います。また、スピードも特筆すべきで、加速走であれば100m10秒1台の選手と同じくらいのスピードで走ることができるスプリント力を持っていると思います。 2年前のブダペストでは5位入賞しているように、世界クラスの選手で12秒台のベースはあると思います。踏み切りで少しミスが出るとお尻を当ててしまい、接触での失速が大きくなってしまいます。踏み切り位置を安定させることで持ち味を発揮できるかと思います。 野本選手は「大きい」「速い」「刻める」というハードル選手に重要な3つがそろっています。日本ではなかなかいません。総合力があり、理想型に近いです。阿部竜希選手(順大)もこのタイプですね。2人に共通していますが、特に身長が大きいのにも関わらずインターバル間を刻むことができることが強みです。ハードリング技術でまだ改善の余地が残されていて、ちょっとしたきっかけでタイムが大きく伸びる可能性も秘めています。 野本選手は特に後半で一気に来ます。ケガが多かったのですが、継続して練習してようやく代表になりました。同期として感慨深いです。 私の時も高山峻野選手(ゼンリン)を含め、すごくレベルが高く、刺激を受けていました。国内のレベルが高いことで、日々の練習に対する気持ちの入り方が違います。そうなると質が違ってきます。毎日、もちろん一生懸命に練習をしますが、気づいていないだけで、本当はもう少し先まで追い込めるんです。ライバルがいると、自然と限界をもうちょっと超えたところまで行くようになる。それが1日、1日の積み重ねると、どんどんと成長できるのです。 世界陸上のハードルはNISHI製で軽い素材のものです。これも日常的に使用している日本人にとって有利に働くと私は思います。五輪などは木製(モンド社)だったり、同じプラスチック系でも少し硬かったりします。 NISHI製になることにより、海外選手が必ずしもプラスに働くとも思っていません。海外選手は普段から硬いハードルを跳ぶために、重心位置やハードリングが常に高く、というのが染みついているのです。高く跳ぶ選手が、東京に来て数日で重心を低く変えることは非常に難しいでしょう。日本人選手ほどのアドバンテージはないのではないかと思います。 ライバルはやはり絶好調のティンチ選手。重心が高く、失敗が少ない印象です。世界陸上3連覇中のG.ホロウェイ選手(米国)は今季まだ調子が上がっていません。力はある選手ですが、ここから一気に上がるかは難しいところです。 村竹選手はすでに世界トップクラスの実績を持っています。メダルはもちろん、優勝も狙えるでしょう。泉谷選手、野本選手も準決勝でしっかりパフォーマンスを発揮すれば決勝での走りにつながると思います。 私はいま、歯科医を目指して病院で研修中です。観に行けたらうれしいですが実習次第となってしまいますが、全力で応援します。
●かない・たいおう/北海道出身。1995年9月28日生まれ。函館ラ・サール高→法大。19年ドーハ世界陸上、21年東京五輪代表。自己記録13秒16は日本歴代5位。21年度シーズンで引退し、歯科医を目指して日本医科歯科大学に編入した。 RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking
人気記事ランキング
2025.12.16
中央学大がTKK株式会社とスポンサー契約 同大卒業生が代表取締役
-
2025.12.16
-
2025.12.16
-
2025.12.16
-
2025.12.16
2025.12.14
【大会結果】第33回全国中学校駅伝女子(2025年12月14日)
2025.12.14
【大会結果】第33回全国中学校駅伝男子(2025年12月14日)
2025.12.14
中学駅伝日本一決定戦がいよいよ開催 女子11時10分、男子12時15分スタート/全中駅伝
-
2025.12.14
-
2025.12.14
2025.12.14
【大会結果】第33回全国中学校駅伝女子(2025年12月14日)
2025.12.14
【大会結果】第33回全国中学校駅伝男子(2025年12月14日)
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2023.04.01
-
2022.12.20
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2025.12.16
中央学大がTKK株式会社とスポンサー契約 同大卒業生が代表取締役
中央学大駅伝部が「TKK株式会社」とスポンサー契約を結んだことを発表した。 同社は千葉県八千代市に本社を構え、主にプレキャストコンクリート鋼製型枠を取り扱うメーカー。中央学大卒業の安保誠司氏が代表取締役を務めており、「未 […]
2025.12.16
今年度限りでの「引退」を表明した村澤明伸インタビュー【前編】 大学3・4年時はトラックと駅伝の両立に挑戦したが「バランスを取るのが難しかった」
全国高校駅伝で日本一に輝き、箱根駅伝は花の2区で快走。日本選手権10000mでも上位に食い込んだのが、村澤明伸(SGホールディングス、34歳)だ。紆余曲折を経て、今年度限りでの「引退」を表明したが、どんな競技生活を過ごし […]
2025.12.16
赤﨑優花が自身の思いと感謝綴る 移籍は「前向きな決断」「この道を正解にします」
12月15日で第一生命グループを退社し、夫の赤﨑暁も所属するクラフティア(前・九電工)へ移籍加入した赤﨑優花(旧姓・鈴木)が自身のSNSを更新し、改めて思いを綴った。 昨年のパリ五輪女子マラソン6位入賞の赤﨑。「決して悲 […]
2025.12.16
お詫びと訂正(月刊陸上競技2026年1月号)
月刊陸上競技2026年1月号別冊付録「全国高校駅伝総展望」に掲載したデータに誤りがございました。 正しいデータの情報を掲載するとともに、関係者の皆様にお詫びをし、訂正いたします。 男子 今治北(愛媛) 誤 都大路学校最高 […]
Latest Issue
最新号
2026年1月号 (12月12日発売)
箱根駅伝観戦ガイド&全国高校駅伝総展望
大迫傑がマラソン日本新
箱根駅伝「5強」主将インタビュー
クイーンズ駅伝/福岡国際マラソン
〔新旧男子100m高校記録保持者〕桐生祥秀×清水空跳