2024.05.30
山梨学大の上田誠仁顧問の月陸Online特別連載コラム。これまでの経験や感じたこと、想いなど、心のままに綴っていただきます!
第45回「インカレの舞台に立つ難しさ~走ることを楽しみ、意義を見出して~」
5月のコラムは関東インカレの話題で書かせていただいてきた(第9回、21回、33回)。毎年のように激闘の末のドラマがあり、悲喜こもごもの熱い青春のたぎりを感じさせてくれる大会だからだ。
今年の第103回関東学生陸上競技対校選手権は、新型コロナウイルスの5類への移行を受けて、各大学恒例の集団応援が響き渡る国立競技場にて開催された。
2年前の応援自粛の中で、静かに開催せざるを得なかったことを思えば、国立競技場でこの大声援に包まれて大会を開催できることにありがたき幸せを感じる。
山梨学院大学は、800mで3名が決勝に進出。10000m競歩、1500m、3000m障害、走幅跳、三段跳でも得点を重ね、留学生が出場した10000mとハーフマラソン以外の得点でも1部残留得点を超え29年連続で1部残留を果たした。
1部16校の総合得点の15位と16位が2部に降格となる。15位の大東大が21点、14位で残留となった明大が24点。わずか3点の差が明暗を分けた。
インカレは対校戦であるがに故に、総合得点が最終評価となる。その雰囲気の中で、それぞれの種目の覇者となることの意義と難しさ、得点を加算できる8位以内に入賞することの重要性を自覚する部員たちの競技会である。
選手も指導者も、それなりに高い緊張感と大きなプレッシャーを抱えての4日間であったことだろう。
インカレ中も箱根駅伝を目指す各チームは、集団応援の合間を縫ってジョギングやペース走などの練習時間を確保して神宮外苑などで走りこんでいる。過去開催してきた相模原ギオンスタジアムであれば併設のクロスカントリーコース。神奈川・日産スタジアムであれば外周コースなどがある。
スタンドで応援する学生たちや、合間を縫うように練習に励む各大学部員たちの後姿を見るにつけ、4年間という限られた時間の中で代表選手としてこのような大声援を背に走ることができるチャンスは限られていることを常々思ってしまう。
そのようにひとりごちていると、ある選手のことが脳裏をよぎった。
山梨学院高校卒業生の山口純平君(ELDORESO)、27歳。
2013年、山梨学院高校が第64回全国高校駅伝で優勝した時の登録選手であったが出走の機会はなく、翌年の65回大会はキャプテンとして4区を走り区間34位。卒業後は国士舘大学へ進学するも4年間は対校戦など公式戦への出場はなかった。

2014年の第65回全国高校駅伝で4区を走った山口純平
インカレ期間中などで、前述のような練習時間が各大学と重なる中で走っている姿を見かけるたびに、「お~い純平。頑張れよ!」と声をかけていた。
大学を卒業後はそうそう顔を合わせる機会もなくなるだろうと思っていた。
そんな矢先の2019年のおかやまマラソンを2時間17分37秒で2位、翌年の2020年高知龍馬マラソン優勝。市民ランナーとしての活躍を目にするようになった。
そんなこんなでたびたびネット上で見かけるようになり、なんと2022年の第31回IAU100km世界選手権(ドイツ・ベルリン)の日本代表となっている。この大会では個人として銀メダル、チームジャパンとして団体金メダルを獲得している。
東京マラソンや福岡国際マラソンなどにも参加しつつ、ウルトラマラソンランナーとしての活躍が目覚ましい。ポップで派手目のウェアーで走る姿の山口選手の市民ランナーとしての認知度が浸透してきているのを感じている。
月間走行距離が1000kmを超える月もあるそうで、一般社員として仕事をこなしつつトレーニングを継続してゆくことは並大抵のことではないと思い本人に聞いてみた。
「市民マラソンの大会に参加させていただくようになって、走ることを楽しんでいる方々から刺激をいただいて今がある。だから走ることの楽しさを見失わないように取り組んでいる。ウルトラマラソンも苦しみはあるが、その先の喜びや楽しさがあると想像できれば今の苦しみも楽しみに変わる。高校駅伝や箱根駅伝に向けて、その大会で走れなければ意味がないと自分を追い込んでいた時期があった。だからこそ今の楽しさを見つけることができた。会社を含めて応援していただいている方々に、自分が頑張っていることによって喜んでいただけると思うと今日も頑張れる」と語ってもらった。
ランニングウェアーのELDORESOを展開している株式会社タイムマシーンの阿久澤隆社長は、国士舘大学で添田正美前駅伝監督の1年先輩にあたる陸上部のご出身とお聞きした。
「2019年に卒業する走ることが好きな学生を紹介してほしい」と添田前監督に依頼したところ山口君を紹介されたそうだ。
早速どのような競技実績があるのかネットで検索してみたものの、何も主だった競技成績が出てこない。再度どのような選手なのか添田前監督に確認したところ、「山口は一生走り続けるような子ですよ」と推薦されたそうだ。
その言葉通り走り続け、走ることを楽しみ、走ることの意義さえも見出している。
昨年のサロマ湖100kmウルトラマラソンでは6時間6分08秒の日本新記録を達成している。世界記録はリトアニアのA.ソロキン選手が持つ6時間5分35秒(1km平均約3分39秒のペース)だ。
その33秒に挑むサロマ湖100kmウルトラマラソンが6月に開催される。楽しみを見失わず走った先に、新記録達成が成就されることを願ってやまない。
そういえば2014年2月に甲府市内のホテルで高校駅伝優勝の報告会を行ったとき、甲府市は気象観測始まって以来の豪雪に見舞われてしまい、交通機関が完全にストップしてしまった。
報告会に参加していた山口君のお母さんは、量販店で長靴を買い求め徒歩で笹子峠を越え中央本線の始発に間に合うように夜通し歩いて帰ったと聞いた。
5人兄弟の次男である山口君なので、お母さんが弟や妹のことを考えて徒歩で山越えを果たしたパワーは、確実に遺伝子として山口君に受け継がれていると確信している。
「ガンバレ純平!」

昨年6月のサロマ湖100kmウルトラマラソンで日本記録を樹立した山口純平(ELDORESO提供)
上田誠仁 Ueda Masahito/1959年生まれ、香川県出身。山梨学院大学スポーツ科学部スポーツ科学科教授。順天堂大学時代に3年連続で箱根駅伝の5区を担い、2年時と3年時に区間賞を獲得。2度の総合優勝に貢献した。卒業後は地元・香川県内の中学・高校教諭を歴任。中学教諭時代の1983年には日本選手権5000mで2位と好成績を収めている。85年に山梨学院大学の陸上競技部監督へ就任し、92年には創部7年、出場6回目にして箱根駅伝総合優勝を達成。以降、出雲駅伝5連覇、箱根総合優勝3回など輝かしい実績を誇るほか、中村祐二や尾方剛、大崎悟史、井上大仁など、のちにマラソンで世界へ羽ばたく選手を多数育成している。2022年4月より山梨学院大学陸上競技部顧問に就任。 |

第45回「インカレの舞台に立つ難しさ~走ることを楽しみ、意義を見出して~」
5月のコラムは関東インカレの話題で書かせていただいてきた(第9回、21回、33回)。毎年のように激闘の末のドラマがあり、悲喜こもごもの熱い青春のたぎりを感じさせてくれる大会だからだ。 今年の第103回関東学生陸上競技対校選手権は、新型コロナウイルスの5類への移行を受けて、各大学恒例の集団応援が響き渡る国立競技場にて開催された。 2年前の応援自粛の中で、静かに開催せざるを得なかったことを思えば、国立競技場でこの大声援に包まれて大会を開催できることにありがたき幸せを感じる。 山梨学院大学は、800mで3名が決勝に進出。10000m競歩、1500m、3000m障害、走幅跳、三段跳でも得点を重ね、留学生が出場した10000mとハーフマラソン以外の得点でも1部残留得点を超え29年連続で1部残留を果たした。 1部16校の総合得点の15位と16位が2部に降格となる。15位の大東大が21点、14位で残留となった明大が24点。わずか3点の差が明暗を分けた。 インカレは対校戦であるがに故に、総合得点が最終評価となる。その雰囲気の中で、それぞれの種目の覇者となることの意義と難しさ、得点を加算できる8位以内に入賞することの重要性を自覚する部員たちの競技会である。 選手も指導者も、それなりに高い緊張感と大きなプレッシャーを抱えての4日間であったことだろう。 インカレ中も箱根駅伝を目指す各チームは、集団応援の合間を縫ってジョギングやペース走などの練習時間を確保して神宮外苑などで走りこんでいる。過去開催してきた相模原ギオンスタジアムであれば併設のクロスカントリーコース。神奈川・日産スタジアムであれば外周コースなどがある。 スタンドで応援する学生たちや、合間を縫うように練習に励む各大学部員たちの後姿を見るにつけ、4年間という限られた時間の中で代表選手としてこのような大声援を背に走ることができるチャンスは限られていることを常々思ってしまう。 そのようにひとりごちていると、ある選手のことが脳裏をよぎった。 山梨学院高校卒業生の山口純平君(ELDORESO)、27歳。 2013年、山梨学院高校が第64回全国高校駅伝で優勝した時の登録選手であったが出走の機会はなく、翌年の65回大会はキャプテンとして4区を走り区間34位。卒業後は国士舘大学へ進学するも4年間は対校戦など公式戦への出場はなかった。 [caption id="attachment_131862" align="alignnone" width="800"]

上田誠仁 Ueda Masahito/1959年生まれ、香川県出身。山梨学院大学スポーツ科学部スポーツ科学科教授。順天堂大学時代に3年連続で箱根駅伝の5区を担い、2年時と3年時に区間賞を獲得。2度の総合優勝に貢献した。卒業後は地元・香川県内の中学・高校教諭を歴任。中学教諭時代の1983年には日本選手権5000mで2位と好成績を収めている。85年に山梨学院大学の陸上競技部監督へ就任し、92年には創部7年、出場6回目にして箱根駅伝総合優勝を達成。以降、出雲駅伝5連覇、箱根総合優勝3回など輝かしい実績を誇るほか、中村祐二や尾方剛、大崎悟史、井上大仁など、のちにマラソンで世界へ羽ばたく選手を多数育成している。2022年4月より山梨学院大学陸上競技部顧問に就任。 |
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