2024.01.27
後輩たちを勇気づけた“攻めの走り”
当初は1区・山本、4区・伊地知を予定していたが、山本の戦線離脱で主将は1区に起用された。
「大学では初めてでしたけど、高校でも1区の経験はありますし、ハーフマラソンは1区みたいな感じなので、特に不安はなかったです。とにかく気持ちだけは絶対に負けたくありませんでした」
伊地知は序盤から積極的なレースを展開。駿河台大のスティーブン・レマイヤン(1年)のハイペースに食らいつく。先頭集団は4人で5kmを14分00秒で通過した。
しかし、自身もインフルエンザに感染した影響もあり、決して調子は万全ではなかった。8kmを過ぎると、レマイヤンと駒大・篠原倖太朗(3年)についていけない。それでも僅差を保っていたが、14kmを過ぎると、徐々に差が広がっていく。そして16.8km付近で後続集団に吸収された。その後は厳しい状況に追い込まれる。
「後半、身体が冷え切って、ガチガチになってしまいました。15kmぐらいから急にきつくなって、意識もちょっと飛びかけました」と振り返る。トップ駒大と1分33秒差の区間17位。タスキをつなげると、伊地知はその場に倒れ込んだ。苦しいながらも“完全燃焼”の走りだった。
「正直、ラスト3kmぐらいは覚えていません。自分の走りはめちゃくちゃ悔しいです。粘り切れると思って、突っ込んだ部分もあったので、自分の力不足を感じましたね。ただ、気持ちを前面に出すことができたのは良かったと思います」
主将の熱い気持ちは、3年生エースに引き継がれる。「伊地知さんの勇気ある飛び出しに元気をもらいました」という2区の平林清澄(3年)が快走。8人抜きを演じて、9位に浮上した。
往路を6位で折り返すと、復路は1年生3人を含む下級生5人が出走。順位を1つ上げて、総合5位でフィニッシュした。危機的な状況のなかでもチームは底力を発揮したと言える。
「伊地知は行ける状況じゃないのに、迷わず先頭について行きました。想定より遅れましたが、チームに漂っていた閉塞感を切り裂いてくれたんです。その気持ちは後輩たちにつながったと思いますよ」と前田監督はキャプテンの攻めの姿勢を評価した。
『てっぺん』を目指していた以上、優勝したかった。気持ちだけは絶対に負けないと思って走ったんですけど、結果がすべて。うまくまとめきれず、チームに『ゴメンなさい』という気持ちです。僕らが届かなかった夢を後輩たちに託したいなと思います」
今回の出走メンバー9人が残る國學院大。伊地知は後輩たちに夢を委ねて、今後はマラソンで“新たな夢”を追いかけていく。

2024年箱根駅伝で1区スタート前の國學院大・伊地知賢造
伊地知賢造(いじち・けんぞう:國学院大)/2001年8月23日生まれ。埼玉県鶴ヶ島市出身。松山高卒。自己ベストは5000m13分40秒51、10000m28分29秒95、ハーフ1時間2分22秒。
文/酒井政人
主将として悩み苦しんだ1年間
「てっぺん」を目指していた國學院大は、大会直前に体調不良者が続出した。12月10日にインフルエンザに集団感染。さらに“3本柱”の1人である山本歩夢(3年)が12月中旬に故障を再発し、起用が難しくなったのだ。 前田康弘監督は「シード落ちを覚悟した」というほど弱気になったが、主将・伊地知賢造(4年)がチームを盛り立ててきた。 「監督として13回目の箱根でしたけど、12月は一番ピンチでした。そんな時でも『俺らはやれるんだ』という感じで、伊地知と平林(清澄)が頑張ってくれたんです」 伊地知にとって最後の学生駅伝。どん底から何度も這い上がってきた男にとって、負けられない戦いだった。 埼玉・松山高時代は全国大会の出場経験はなく、当時の5000mベストは14分43秒97。同学年内では11番目のタイムで國學院大に入学した。 すると、みるみるうちに急成長を遂げ、学生駅伝は1年時からフル参戦。2年時は全日本8区で区間賞を獲得し、箱根は花の2区を務めた。3年時は出雲と全日本でアンカーを担い、ともに準優勝のフィニッシュに飛び込んでいる。 しかし、箱根は11月中旬に左膝を痛めたこともあり、5区で区間7位と振るわず、チームも4位に終わった。 今季は主将に就任するも、1月末に右足首を痛めて出遅れる。「走りで引っ張るキャプテン像を描いていた」だけに、走れない自分を責めた。一時は「陸上をやめたい」と考えるほど悩み苦しんだという。 それでも4月末から走り始めると、7月に5000mで13分40秒51の自己新をマーク。9月の日本インカレは10000mで日本トップ(8位)に輝いた。3区を任された出雲駅伝は4位に終わったが、アンカーを務めた全日本大学駅伝は3位を確保。最後の箱根に向けては、こんな思いを口にしていた。 「4区あたりの可能性が高いと思うんですけど、2区や5区にアクシデントがあっても僕なら入ることができる。いずれにしても、後ろの選手たちが心を揺さぶるような走りをしたい」後輩たちを勇気づけた“攻めの走り”
当初は1区・山本、4区・伊地知を予定していたが、山本の戦線離脱で主将は1区に起用された。 「大学では初めてでしたけど、高校でも1区の経験はありますし、ハーフマラソンは1区みたいな感じなので、特に不安はなかったです。とにかく気持ちだけは絶対に負けたくありませんでした」 伊地知は序盤から積極的なレースを展開。駿河台大のスティーブン・レマイヤン(1年)のハイペースに食らいつく。先頭集団は4人で5kmを14分00秒で通過した。 しかし、自身もインフルエンザに感染した影響もあり、決して調子は万全ではなかった。8kmを過ぎると、レマイヤンと駒大・篠原倖太朗(3年)についていけない。それでも僅差を保っていたが、14kmを過ぎると、徐々に差が広がっていく。そして16.8km付近で後続集団に吸収された。その後は厳しい状況に追い込まれる。 「後半、身体が冷え切って、ガチガチになってしまいました。15kmぐらいから急にきつくなって、意識もちょっと飛びかけました」と振り返る。トップ駒大と1分33秒差の区間17位。タスキをつなげると、伊地知はその場に倒れ込んだ。苦しいながらも“完全燃焼”の走りだった。 「正直、ラスト3kmぐらいは覚えていません。自分の走りはめちゃくちゃ悔しいです。粘り切れると思って、突っ込んだ部分もあったので、自分の力不足を感じましたね。ただ、気持ちを前面に出すことができたのは良かったと思います」 主将の熱い気持ちは、3年生エースに引き継がれる。「伊地知さんの勇気ある飛び出しに元気をもらいました」という2区の平林清澄(3年)が快走。8人抜きを演じて、9位に浮上した。 往路を6位で折り返すと、復路は1年生3人を含む下級生5人が出走。順位を1つ上げて、総合5位でフィニッシュした。危機的な状況のなかでもチームは底力を発揮したと言える。 「伊地知は行ける状況じゃないのに、迷わず先頭について行きました。想定より遅れましたが、チームに漂っていた閉塞感を切り裂いてくれたんです。その気持ちは後輩たちにつながったと思いますよ」と前田監督はキャプテンの攻めの姿勢を評価した。 『てっぺん』を目指していた以上、優勝したかった。気持ちだけは絶対に負けないと思って走ったんですけど、結果がすべて。うまくまとめきれず、チームに『ゴメンなさい』という気持ちです。僕らが届かなかった夢を後輩たちに託したいなと思います」 今回の出走メンバー9人が残る國學院大。伊地知は後輩たちに夢を委ねて、今後はマラソンで“新たな夢”を追いかけていく。 [caption id="attachment_126972" align="alignnone" width="800"]
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