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2023.04.02

クローズアップ/法大・川中葵琳 新境地で挑む中学200m女王の学生ラストイヤー「もう一度決勝に」
クローズアップ/法大・川中葵琳 新境地で挑む中学200m女王の学生ラストイヤー「もう一度決勝に」

中学で日本一を経験した川中葵琳(法大)が学生ラストイヤーに挑む

◇第56回東京六大学対校陸上(4月2日/東京・国立競技場)

対校女子400mで2位に入った川中葵琳(法大)。「左ハムストリングスに少し違和感があって出るのか迷ったのですが……」。前半は積極的に飛ばしたが、脚の影響もあって最後はかわされてしまった。

400mに本格参戦したのは昨年。高2以来に出場し、シーズン3レース目だった9月には54秒54をマークした。「マイルリレーに出ていたのですが、フラットの400mでの走力を確認するために」出てみたら55秒70。日本インカレには出場すると、あと一歩で決勝を逃したが、「その悔しさ」から出場した直後の記録会で54秒台だった。

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川中葵琳。その名は早くから全国区で、同世代の女子スプリンターにとって特別な存在だった。

愛媛県松山市出身で、地元のクラブチームで陸上を始めた。愛媛大附中では1年でジュニア五輪100m2位。2年生では全中に100mと200mで出場した。鮮烈だったのが全中直前の四国総体。200mで中学歴代2位(当時)となる24秒31を、向かい風1.1mで出してみせた。その勢いのまま全中でも200m優勝、100m8位と活躍。ジュニア五輪200mでも2位に入った。

だが、松山東高の3年間は「苦しい思い出のほうが多い」。とにかく度重なる故障に悩まされた。インターハイ200mは1、2年時に入賞(7位)し、高1の6月には200mで24秒23(当時・高1歴代9位)を叩き出したが、その自己記録は6年目になる今も動いていない。

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中学女王の肩書きも「特に高1の時は重かったです」。今も覚えている秋のU18日本選手権。同学年のライバルたちが自己記録を次々と更新するなか、自分だけが取り残されている感覚に陥った。当時を振り返ると、目にうっすらと涙が浮かぶ。高3はケガでほとんど満足に走れず。主要大学から推薦の話が届かず、「必要とされていないなら辞めよう」と高校で引退を考えたという。

だが、心の火は消えなかった。もう一度走ろうと決意し、教員免許が取得できることや学部、チームの雰囲気を踏まえて法大を志望。男子は数々の名選手を輩出してきたが、女子は推薦もなく、少数で活動していた。近年はその少数の中からOGも含めてトップ選手が出ているが、「入学当時はそんなに強い感じではなかったです」。

大学に入ってからもケガに泣かされたが、「同期には黒川(和樹)など日本代表がいますし、チームメイトには刺激をすごくもらいました」。法政の女子も強くしたい――。その思いが川中の背中を押した。昨年の日本選手権リレーの4×400mでは3分38秒43で立命大に次ぐ2位。関係者をアッと驚かせた。

「あと一つなので、今年はそれを狙っています。そのためにも自分が力をつけたい」

学生ラストイヤーは400mを主戦場にする。「まずは54秒台を安定させて、その先にどうなるか」。今のところ、競技は大学で区切りをつけるつもりでいる。「もう一度、決勝に行きたい。決勝に行くには400mかな、と」。そう語るまなざしは力強かった。

苦しみ抜いてたどり着いた新境地。個人では高2以来の『日本一決定戦』の舞台に立つために、そしてリレーで仲間と『日本一』を手にするために走り続ける。

文/向永拓史

◇第56回東京六大学対校陸上(4月2日/東京・国立競技場) 対校女子400mで2位に入った川中葵琳(法大)。「左ハムストリングスに少し違和感があって出るのか迷ったのですが……」。前半は積極的に飛ばしたが、脚の影響もあって最後はかわされてしまった。 400mに本格参戦したのは昨年。高2以来に出場し、シーズン3レース目だった9月には54秒54をマークした。「マイルリレーに出ていたのですが、フラットの400mでの走力を確認するために」出てみたら55秒70。日本インカレには出場すると、あと一歩で決勝を逃したが、「その悔しさ」から出場した直後の記録会で54秒台だった。 川中葵琳。その名は早くから全国区で、同世代の女子スプリンターにとって特別な存在だった。 愛媛県松山市出身で、地元のクラブチームで陸上を始めた。愛媛大附中では1年でジュニア五輪100m2位。2年生では全中に100mと200mで出場した。鮮烈だったのが全中直前の四国総体。200mで中学歴代2位(当時)となる24秒31を、向かい風1.1mで出してみせた。その勢いのまま全中でも200m優勝、100m8位と活躍。ジュニア五輪200mでも2位に入った。 だが、松山東高の3年間は「苦しい思い出のほうが多い」。とにかく度重なる故障に悩まされた。インターハイ200mは1、2年時に入賞(7位)し、高1の6月には200mで24秒23(当時・高1歴代9位)を叩き出したが、その自己記録は6年目になる今も動いていない。 中学女王の肩書きも「特に高1の時は重かったです」。今も覚えている秋のU18日本選手権。同学年のライバルたちが自己記録を次々と更新するなか、自分だけが取り残されている感覚に陥った。当時を振り返ると、目にうっすらと涙が浮かぶ。高3はケガでほとんど満足に走れず。主要大学から推薦の話が届かず、「必要とされていないなら辞めよう」と高校で引退を考えたという。 だが、心の火は消えなかった。もう一度走ろうと決意し、教員免許が取得できることや学部、チームの雰囲気を踏まえて法大を志望。男子は数々の名選手を輩出してきたが、女子は推薦もなく、少数で活動していた。近年はその少数の中からOGも含めてトップ選手が出ているが、「入学当時はそんなに強い感じではなかったです」。 大学に入ってからもケガに泣かされたが、「同期には黒川(和樹)など日本代表がいますし、チームメイトには刺激をすごくもらいました」。法政の女子も強くしたい――。その思いが川中の背中を押した。昨年の日本選手権リレーの4×400mでは3分38秒43で立命大に次ぐ2位。関係者をアッと驚かせた。 「あと一つなので、今年はそれを狙っています。そのためにも自分が力をつけたい」 学生ラストイヤーは400mを主戦場にする。「まずは54秒台を安定させて、その先にどうなるか」。今のところ、競技は大学で区切りをつけるつもりでいる。「もう一度、決勝に行きたい。決勝に行くには400mかな、と」。そう語るまなざしは力強かった。 苦しみ抜いてたどり着いた新境地。個人では高2以来の『日本一決定戦』の舞台に立つために、そしてリレーで仲間と『日本一』を手にするために走り続ける。 文/向永拓史

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