HOME ニュース、国内

2022.06.05

ヘンプヒル恵 両膝手術乗り越え5年ぶり女王!5872点で4度目V「誰もしたことがないことをしたい」/日本選手権混成
ヘンプヒル恵 両膝手術乗り越え5年ぶり女王!5872点で4度目V「誰もしたことがないことをしたい」/日本選手権混成

◇日本選手権・混成競技(6月4日、5日/秋田県営)2日目

第106回日本選手権・混成競技の2日目が行われ、女子七種競技はヘンプヒル恵(アトレ)が5872点で優勝。5年ぶりに女王の座に返り咲いた。

広告の下にコンテンツが続きます

「やりきりました。今出せるすべてを出せました」。800mを堂々、セカンドベストとなる2分14秒68でトップ。久しぶりの日本一を手にした瞬間だった。

初日の100mハードルで13秒45(+0.4)と好記録でスタートするなど、トップで折り返したヘンプヒル。2日目は「ポイント」と語っていた走幅跳で5m81(-0.9)にとどまった。だが、そこで精神面で成長を見せる。やり投で44m33を投げて持ち直した。「やり投を終わった時はホッとしてちょっと泣いちゃいました」。

悪夢は2年前の日本選手権にさかのぼる。日本記録も見えるようなペースで進んでいた6種目めのやり投で膝から崩れ落ちた。右膝前十字靱帯の断裂。17年にも左膝に同じケガを負いやっと再び頂点へと戻ってきた矢先だった。膝をテーピングでぐるぐる巻きにして、800mのスタートラインへ。もちろん、走れるはずがなかった。号砲が鳴った瞬間にトラックを離れ、「もう待つのは飽きました」と言って車いすで会場を後にした。

中学、高校と何度も日本一になり、混成競技の歴史を次々と塗り替えてきた。日本選手権は15年から17年まで3連覇。日本人初の6000点は近いうちに彼女によって達せられる。そう誰もが信じて疑わなかった。だが、記録に近づくたびに膝のケガ。心が限界を迎えた。

「もう使わない」。スパイクもユニフォームも実家の押し入れにしまった。競技から離れることを考えたという。だが、自然とリハビリに向かい、少しずつ身体と心に力が入る。自分は陸上をしたいのか、陸上が好きなのか。何度も自問自答した。「やっぱり陸上が好きだった。陸上をしている自分が好きだった」。そしてヘンプヒルは戻ってきた。

「両膝をケガしてオリンピックに行った日本人選手はいない。誰もしたことがないことをしたい」

自分の限界を超え、誰も見たことのない景色を見たい。それがヘンプヒル恵という人間だった。競技を本気でできる時間は限られている。「世界で戦うことを見据えて、世界を知るコーチに教えてもらいたい」と昨年、渡米。七種競技のオリンピアンを育てるクリス・マックコーチに師事した。「ここ数年勝てていないし、怖いものはない。本気ですべてを懸ける」。覚悟を決めた瞬間だった。

2年前、800mのスタートラインに立った時から、戻って来る未来は決まっていたのかもしれない。5年ぶりの日本一。家族や所属先の応援、スタッフを見て涙がこぼれた。「狙って勝てたのでうれしいです」。だが、まだまだスタートに立ったばかり。世界を知れば知るほど「差はすごく感じる」が、「結果は出ているので課程は間違っていない」。それでも覚悟を持って世界を目指していくと決めている。

これで山崎有紀(スズキ)の連覇を4でストップ。「来年から私が連覇をしていけるように頑張ります」。戻ってきた女王・ヘンプヒル恵の新たな物語が、ここ秋田から始まった。

◇2位の山崎有紀も後半に巻き返し強さ見せる

4連覇中だった山﨑は5696点で2位。「去年、想像していた自分の姿ではなかった。やっぱり悔しいです」。それでも、やり投で46m77を投げるなど見せ場を作った。「ヘンプヒル選手に完敗したので、負けと弱さを認めてまたチャレンジしたい」と前を向いた。この負けをさらなる成長の糧とするつもりだ。

◇日本選手権・混成競技(6月4日、5日/秋田県営)2日目 第106回日本選手権・混成競技の2日目が行われ、女子七種競技はヘンプヒル恵(アトレ)が5872点で優勝。5年ぶりに女王の座に返り咲いた。 「やりきりました。今出せるすべてを出せました」。800mを堂々、セカンドベストとなる2分14秒68でトップ。久しぶりの日本一を手にした瞬間だった。 初日の100mハードルで13秒45(+0.4)と好記録でスタートするなど、トップで折り返したヘンプヒル。2日目は「ポイント」と語っていた走幅跳で5m81(-0.9)にとどまった。だが、そこで精神面で成長を見せる。やり投で44m33を投げて持ち直した。「やり投を終わった時はホッとしてちょっと泣いちゃいました」。 悪夢は2年前の日本選手権にさかのぼる。日本記録も見えるようなペースで進んでいた6種目めのやり投で膝から崩れ落ちた。右膝前十字靱帯の断裂。17年にも左膝に同じケガを負いやっと再び頂点へと戻ってきた矢先だった。膝をテーピングでぐるぐる巻きにして、800mのスタートラインへ。もちろん、走れるはずがなかった。号砲が鳴った瞬間にトラックを離れ、「もう待つのは飽きました」と言って車いすで会場を後にした。 中学、高校と何度も日本一になり、混成競技の歴史を次々と塗り替えてきた。日本選手権は15年から17年まで3連覇。日本人初の6000点は近いうちに彼女によって達せられる。そう誰もが信じて疑わなかった。だが、記録に近づくたびに膝のケガ。心が限界を迎えた。 「もう使わない」。スパイクもユニフォームも実家の押し入れにしまった。競技から離れることを考えたという。だが、自然とリハビリに向かい、少しずつ身体と心に力が入る。自分は陸上をしたいのか、陸上が好きなのか。何度も自問自答した。「やっぱり陸上が好きだった。陸上をしている自分が好きだった」。そしてヘンプヒルは戻ってきた。 「両膝をケガしてオリンピックに行った日本人選手はいない。誰もしたことがないことをしたい」 自分の限界を超え、誰も見たことのない景色を見たい。それがヘンプヒル恵という人間だった。競技を本気でできる時間は限られている。「世界で戦うことを見据えて、世界を知るコーチに教えてもらいたい」と昨年、渡米。七種競技のオリンピアンを育てるクリス・マックコーチに師事した。「ここ数年勝てていないし、怖いものはない。本気ですべてを懸ける」。覚悟を決めた瞬間だった。 2年前、800mのスタートラインに立った時から、戻って来る未来は決まっていたのかもしれない。5年ぶりの日本一。家族や所属先の応援、スタッフを見て涙がこぼれた。「狙って勝てたのでうれしいです」。だが、まだまだスタートに立ったばかり。世界を知れば知るほど「差はすごく感じる」が、「結果は出ているので課程は間違っていない」。それでも覚悟を持って世界を目指していくと決めている。 これで山崎有紀(スズキ)の連覇を4でストップ。「来年から私が連覇をしていけるように頑張ります」。戻ってきた女王・ヘンプヒル恵の新たな物語が、ここ秋田から始まった。 ◇2位の山崎有紀も後半に巻き返し強さ見せる 4連覇中だった山﨑は5696点で2位。「去年、想像していた自分の姿ではなかった。やっぱり悔しいです」。それでも、やり投で46m77を投げるなど見せ場を作った。「ヘンプヒル選手に完敗したので、負けと弱さを認めてまたチャレンジしたい」と前を向いた。この負けをさらなる成長の糧とするつもりだ。

次ページ:

       

RECOMMENDED おすすめの記事

    

Ranking 人気記事ランキング 人気記事ランキング

Latest articles 最新の記事

2025.12.02

世界陸上銅メダルの藤井菜々子に那珂川市市民栄誉賞&北九州市民スポーツ大賞

9月の東京世界選手権女子20km競歩で銅メダルを獲得した藤井菜々子(エディオン)が、出身地である福岡県那珂川市の市民栄誉賞、そして高校時代を過ごした北九州市の北九州市民スポーツ大賞を受賞することが決まり、12月2日に両市 […]

NEWS サニブラウンがピックルボール初体験!子どもたちと真剣勝負「スポーツの力あらためて感じる」

2025.12.02

サニブラウンがピックルボール初体験!子どもたちと真剣勝負「スポーツの力あらためて感じる」

ピックルボール普及のためのイベントTORAY PICKLEBALL EXPERIENCEが12月2日に東京の有明アーバンスポーツ内のコートで行われ、男子短距離のサニブラウン・アブデル・ハキーム(東レ)が参加した。 ピック […]

NEWS 東洋大男子長距離が4社と契約 “昇り龍”を描いた鉄紺の新ユニフォームも発表「頂点目指し力強く上昇」

2025.12.02

東洋大男子長距離が4社と契約 “昇り龍”を描いた鉄紺の新ユニフォームも発表「頂点目指し力強く上昇」

東洋大は12月2日、陸上競技部男子長距離部門において、セブン銀行(本社:東京都千代田区)、カカクコム(本社:東京都渋谷区)が運営する「求人ボックス」、ECC(本社:大阪市北区)、ビースタニング(本社:東京都渋谷区)が運営 […]

NEWS Hondaに法大・大島史也、東海大の主力2人が来季加入!「培ってきた走力と探究心を最大限に発揮」

2025.12.02

Hondaに法大・大島史也、東海大の主力2人が来季加入!「培ってきた走力と探究心を最大限に発揮」

Hondaは12月2日、来年4月1日に入部する選手として、法大の大島史也、東海大の花岡寿哉と兵藤ジュダの3選手を発表した。 大島は千葉・専大松戸高出身。今年は関東インカレ5000mで7位入賞などがある。5000mは13分 […]

NEWS 約137gの超軽量ながら3D形状のカーボンプレート搭載、ミズノのスピードレーシングシューズ「HYPERWARP」が発売!

2025.12.02

約137gの超軽量ながら3D形状のカーボンプレート搭載、ミズノのスピードレーシングシューズ「HYPERWARP」が発売!

ミズノは12月2日、3D形状のフルレングスカーボンプレートを搭載したスピードランナー向けの新レーシングシューズ「HYPERWARP」シリーズを12月19日に全国のミズノランニング品取扱店で発売することを発表した。 近年の […]

SNS

Latest Issue 最新号 最新号

2025年12月号 (11月14日発売)

2025年12月号 (11月14日発売)

EKIDEN REVIEW
全日本大学駅伝
箱根駅伝予選会
高校駅伝&実業団駅伝予選

Follow-up Tokyo 2025

page top