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2026.07.31

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支える力/滋賀インターハイ会場のトラックを施工した日本体育施設の越後幸太郎社長インタビュー
支える力/滋賀インターハイ会場のトラックを施工した日本体育施設の越後幸太郎社長インタビュー

陸上競技への熱い想いを語る日本体育施設の越後幸太郎社長

元アスリートの社長がトラックに込める、陸上への感謝のかたち

滋賀県彦根市、琵琶湖のほとりに佇む平和堂HATOスタジアム。ブルートラックが鮮やかな競技場を舞台に、高校アスリートの祭典であるインターハイの陸上競技が7月30日から開催されている。

このスタジアムのトラックとフィールドの芝生を施工した日本体育施設株式会社の代表取締役社長・越後幸太郎さんは、大会開幕の日を心待ちにしていた。

「インターハイのような大きな大会に携わることは、担当した社員のやり甲斐や誇りになりますから、会社としても非常に光栄なことです。昨年、同じ会場で開催された国民スポーツ大会では、トラックのブルーとフィールドのグリーンの芝生が織りなす光景が感動的でした。今回のインターハイでも、高校生アスリートが練習の成果を発揮し、思い出に残るような大会になればいいですね」

平和堂HATOスタジアムのトラックは三層構造で、表面はシューズをしっかりグリップしてくれるのが特徴。選手がより速く走れるだけでなく、維持管理も従来のトラックよりかなり容易になったという。

中高時代は陸上部の主将、大学ではバイオテクノロジーからバイオメカニクスへ興味が転換

越後さんは、中学や高校時代に陸上部の主将を務め、大学でも陸上部に所属。バイオテクノロジーへの興味から基礎工学部生物工学科に入学した大阪大学では、「どうしたら速く走れるんだろう?」と、バイオメカニクス(生体力学)への興味が膨らんでいく。その後、大阪大学大学院医学部修士課程へと進み、医療用の画像処理やバイオメカニクスを学ぶなかで、自分が将来やりたいことが具体化されていった。

「当時はMRIなどの画像解析技術が出始めの頃で、これをスポーツ科学や競技力向上に活かせないかと考えるようになりました」

就職は、陸上シューズの研究や開発ができる企業を目指したものの、その道は開かなかった。しかし、スポーツ科学専門誌で国立霞ヶ丘競技場のトラックを施工した会社があることを知る。それが日本体育施設だった。

1991年の東京世界陸上の舞台となった旧国立競技場では、男子100mでカール・ルイス(米国)が世界新記録で優勝し、2冠を狙ったそのルイスとの死闘を制した男子走幅跳のマイク・パウエル(米国)が、35年経った現在も世界記録として残る8m95が樹立するなど数々の偉大なパフォーマンスがファンを魅了。当時、大学4年だった越後さんも観戦に訪れ、とても興奮した会場だった。

「トラックを作る仕事も面白そうだな」。そう直感した越後さんは1995年、日本体育施設に入社することになる。

トラックの走路とフィールドの芝生を自社で施工した滋賀県彦根市の平和堂HATOスタジアムでは7月30日からインターハイの熱戦が繰り広げられている

脈々と受け継がれる〝先駆け〟のDNA

入社からしばらくは現場の仕事で汗を流した。

「入社当初は、学んできたことを活かして『速く走れるトラックを開発したい』という思いがありましたが、まずは現場で経験を積もうと、11年ほど現場に出ていました。茨城県笠松市の水戸信用金庫スタジアムや千葉市蘇我のフクダ電子アリーナなどは現場監督として施工に携わりました」

越後さんは真面目な人柄でありながら、極めて優れた洞察力の持ち主に見える。現場では、設計図面だけでは見えない課題や顧客が本当に求めている細かな要望を肌で感じ取っていった。

その後、技術開発部門へと異動となったが、新天地では学生時代の競技経験や10年以上に及んだ現場経験が大きかったと振り返る。

「自分自身が陸上をやってきたことと、会社に入ってからの現場での仕事。この2つが自分の中で掛け算になったと感じています。お客様に説明をしたり、設計の図面を描いたりする際に2つがマッチし、これまでの推進力になってきました」

日本体育施設には、スポーツ施設業界をリードする〝先駆け〟のDNAが息づいている。かつての全天候型トラックは、表面のチップが剥がれやすいのが難点だったが、同社はよりグリップ力のある素材を世界で初めて生み出した。その象徴が、越後さんが目の当たりにした1991年の東京世界陸上の舞台となった旧国立競技場であり、すべては先輩たちの功績だ。

グリップ力のあるトラックのサーフェス、投てき競技もできる人工芝の開発などスポーツ施設業界における〝先駆け〟が日本体育施設にはいくつもある

技術開発部門に移った越後さんも、先代たちの精神を継承し、ミスト付きの人工芝や投てき競技もできる人工芝など、業界において数々の〝先駆け〟となった製品をベースに改良や検証を担当した。

「ある大学から、『使用頻度が高いグラウンドを人工芝にしたいが、陸上の投てき練習でも使える人工芝にできないか』という声をいただきました。天然芝に近い構造で耐久性も両立させる。約2年の試行錯誤を繰り返して実用化にこぎつけました。フィールド面からミストを噴射する装置も、実際に表面温度がどれほど下がるのか、環境省の事業を通じて第三者機関に実証してもらいました」

さらに近年は、環境にやさしく、建設現場で働く人たちの健康も考えたトラック素材も導入。第一歩は顧客からの要望であることが多いが、「まずやってみよう」という前向きなチャレンジ精神が、日本体育施設にはある。

日本スポーツ界の発展のために

現場での実績や革新的な開発力が評価され、越後さんは3年前、同社の五代目代表取締役社長に就任した。社長として掲げるのは、より良いスポーツ環境の提供と、社員やその家族の幸せを追求する経営である。

「社長になってから改めて感じるのは、企業理念に掲げていることがすべてかなと。『全従業員の物心両面の幸福を追求し、お客様に最高の製品とサービスを提供する、企業価値を高め、心身ともに健康で豊かな社会の進歩発展に貢献する』ということです。管理者クラスと議論を重ねて策定した2030年に向けたビジョンでも、スポーツ施設や公園は人々の健康を支える場ですが、作り手である私たち自身も健康でなければ良いものは作れません」

日本体育施設の事業において、陸上競技のトラック施工は大きな比率を占めている。トラック・フィールド工事の施工に携わった新国立競技場では、東京五輪(2021年)と2度目の東京世界陸上(2025年)が開催され、会社として大きな誇りになった。

東京五輪はコロナ禍で無観客の開催だったものの、昨年の世界陸上を4日間観戦した越後さんは、熱気に包まれた会場の雰囲気に圧倒されるものがあったという。

「日本の選手たちもいろいろな種目で世界と戦えるほど強くなり、『陸上ってこんなにすごいんだ』と肌で感じました。選手としてもたくさんの声援の中で走れることがモチベーションになります。そこに私たちが何かできるとすれば、少しでも速く走れるトラックだったり、ファンの人たちが『行ってみたい』と思える競技場を作ることだと思います」

自社の主な施工実績について説明する越後社長

自身のキャリアを紡ぎ、多くの出会いと学びを与えてくれた陸上競技に、越後さんは心から感謝している。

「振り返れば、陸上競技場にいること、競技を見ることそのものが好きなのだと気づかされます。趣味が仕事になったようなものですが、これほど幸せなことはありません。これからも微力ながら日本の陸上界やスポーツ界の発展に貢献していきたいと考えています」

越後さんの瞳は、インターハイで激走する高校生たちの足元、そしてその先にある日本スポーツ界の未来を、力強く見据えている。

文/小野哲史、撮影/船越陽一郎

元アスリートの社長がトラックに込める、陸上への感謝のかたち 滋賀県彦根市、琵琶湖のほとりに佇む平和堂HATOスタジアム。ブルートラックが鮮やかな競技場を舞台に、高校アスリートの祭典であるインターハイの陸上競技が7月30日から開催されている。 このスタジアムのトラックとフィールドの芝生を施工した日本体育施設株式会社の代表取締役社長・越後幸太郎さんは、大会開幕の日を心待ちにしていた。 「インターハイのような大きな大会に携わることは、担当した社員のやり甲斐や誇りになりますから、会社としても非常に光栄なことです。昨年、同じ会場で開催された国民スポーツ大会では、トラックのブルーとフィールドのグリーンの芝生が織りなす光景が感動的でした。今回のインターハイでも、高校生アスリートが練習の成果を発揮し、思い出に残るような大会になればいいですね」 平和堂HATOスタジアムのトラックは三層構造で、表面はシューズをしっかりグリップしてくれるのが特徴。選手がより速く走れるだけでなく、維持管理も従来のトラックよりかなり容易になったという。 中高時代は陸上部の主将、大学ではバイオテクノロジーからバイオメカニクスへ興味が転換 越後さんは、中学や高校時代に陸上部の主将を務め、大学でも陸上部に所属。バイオテクノロジーへの興味から基礎工学部生物工学科に入学した大阪大学では、「どうしたら速く走れるんだろう?」と、バイオメカニクス(生体力学)への興味が膨らんでいく。その後、大阪大学大学院医学部修士課程へと進み、医療用の画像処理やバイオメカニクスを学ぶなかで、自分が将来やりたいことが具体化されていった。 「当時はMRIなどの画像解析技術が出始めの頃で、これをスポーツ科学や競技力向上に活かせないかと考えるようになりました」 就職は、陸上シューズの研究や開発ができる企業を目指したものの、その道は開かなかった。しかし、スポーツ科学専門誌で国立霞ヶ丘競技場のトラックを施工した会社があることを知る。それが日本体育施設だった。 1991年の東京世界陸上の舞台となった旧国立競技場では、男子100mでカール・ルイス(米国)が世界新記録で優勝し、2冠を狙ったそのルイスとの死闘を制した男子走幅跳のマイク・パウエル(米国)が、35年経った現在も世界記録として残る8m95が樹立するなど数々の偉大なパフォーマンスがファンを魅了。当時、大学4年だった越後さんも観戦に訪れ、とても興奮した会場だった。 「トラックを作る仕事も面白そうだな」。そう直感した越後さんは1995年、日本体育施設に入社することになる。 [caption id="attachment_213105" align="alignnone" width="800"] トラックの走路とフィールドの芝生を自社で施工した滋賀県彦根市の平和堂HATOスタジアムでは7月30日からインターハイの熱戦が繰り広げられている[/caption] 脈々と受け継がれる〝先駆け〟のDNA 入社からしばらくは現場の仕事で汗を流した。 「入社当初は、学んできたことを活かして『速く走れるトラックを開発したい』という思いがありましたが、まずは現場で経験を積もうと、11年ほど現場に出ていました。茨城県笠松市の水戸信用金庫スタジアムや千葉市蘇我のフクダ電子アリーナなどは現場監督として施工に携わりました」 越後さんは真面目な人柄でありながら、極めて優れた洞察力の持ち主に見える。現場では、設計図面だけでは見えない課題や顧客が本当に求めている細かな要望を肌で感じ取っていった。 その後、技術開発部門へと異動となったが、新天地では学生時代の競技経験や10年以上に及んだ現場経験が大きかったと振り返る。 「自分自身が陸上をやってきたことと、会社に入ってからの現場での仕事。この2つが自分の中で掛け算になったと感じています。お客様に説明をしたり、設計の図面を描いたりする際に2つがマッチし、これまでの推進力になってきました」 日本体育施設には、スポーツ施設業界をリードする〝先駆け〟のDNAが息づいている。かつての全天候型トラックは、表面のチップが剥がれやすいのが難点だったが、同社はよりグリップ力のある素材を世界で初めて生み出した。その象徴が、越後さんが目の当たりにした1991年の東京世界陸上の舞台となった旧国立競技場であり、すべては先輩たちの功績だ。 [caption id="attachment_212603" align="alignnone" width="800"] グリップ力のあるトラックのサーフェス、投てき競技もできる人工芝の開発などスポーツ施設業界における〝先駆け〟が日本体育施設にはいくつもある[/caption] 技術開発部門に移った越後さんも、先代たちの精神を継承し、ミスト付きの人工芝や投てき競技もできる人工芝など、業界において数々の〝先駆け〟となった製品をベースに改良や検証を担当した。 「ある大学から、『使用頻度が高いグラウンドを人工芝にしたいが、陸上の投てき練習でも使える人工芝にできないか』という声をいただきました。天然芝に近い構造で耐久性も両立させる。約2年の試行錯誤を繰り返して実用化にこぎつけました。フィールド面からミストを噴射する装置も、実際に表面温度がどれほど下がるのか、環境省の事業を通じて第三者機関に実証してもらいました」 さらに近年は、環境にやさしく、建設現場で働く人たちの健康も考えたトラック素材も導入。第一歩は顧客からの要望であることが多いが、「まずやってみよう」という前向きなチャレンジ精神が、日本体育施設にはある。 日本スポーツ界の発展のために 現場での実績や革新的な開発力が評価され、越後さんは3年前、同社の五代目代表取締役社長に就任した。社長として掲げるのは、より良いスポーツ環境の提供と、社員やその家族の幸せを追求する経営である。 「社長になってから改めて感じるのは、企業理念に掲げていることがすべてかなと。『全従業員の物心両面の幸福を追求し、お客様に最高の製品とサービスを提供する、企業価値を高め、心身ともに健康で豊かな社会の進歩発展に貢献する』ということです。管理者クラスと議論を重ねて策定した2030年に向けたビジョンでも、スポーツ施設や公園は人々の健康を支える場ですが、作り手である私たち自身も健康でなければ良いものは作れません」 日本体育施設の事業において、陸上競技のトラック施工は大きな比率を占めている。トラック・フィールド工事の施工に携わった新国立競技場では、東京五輪(2021年)と2度目の東京世界陸上(2025年)が開催され、会社として大きな誇りになった。 東京五輪はコロナ禍で無観客の開催だったものの、昨年の世界陸上を4日間観戦した越後さんは、熱気に包まれた会場の雰囲気に圧倒されるものがあったという。 「日本の選手たちもいろいろな種目で世界と戦えるほど強くなり、『陸上ってこんなにすごいんだ』と肌で感じました。選手としてもたくさんの声援の中で走れることがモチベーションになります。そこに私たちが何かできるとすれば、少しでも速く走れるトラックだったり、ファンの人たちが『行ってみたい』と思える競技場を作ることだと思います」 [caption id="attachment_212604" align="alignnone" width="800"] 自社の主な施工実績について説明する越後社長[/caption] 自身のキャリアを紡ぎ、多くの出会いと学びを与えてくれた陸上競技に、越後さんは心から感謝している。 「振り返れば、陸上競技場にいること、競技を見ることそのものが好きなのだと気づかされます。趣味が仕事になったようなものですが、これほど幸せなことはありません。これからも微力ながら日本の陸上界やスポーツ界の発展に貢献していきたいと考えています」 越後さんの瞳は、インターハイで激走する高校生たちの足元、そしてその先にある日本スポーツ界の未来を、力強く見据えている。 文/小野哲史、撮影/船越陽一郎

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