2022.02.15

学生長距離Close-upインタビュー
吉居大和 Yoshii Yamato 中央大学2年
「月陸Online」限定で大学長距離選手のインタビューをお届けする「学生長距離Close-upインタビュー」。16回目は、今年の箱根駅伝1区で従来の区間記録を26秒も更新する1時間0分40秒で駆け抜けた中大の吉居大和(2年)をピックアップ。
駅伝での活躍もさることながら、5000mでU20日本記録の13分25秒87、10000mで同歴代2位の28分03秒90を持つなど本来はトラックを得意とする選手。これまでの経歴をあらためて振り返り、その強さのルーツ、駅伝への思い、そして世界で戦うための覚悟を探った。
高校は親元を離れて越境入学
その激走は見る者の胸を高鳴らせた。
今年1月に開催された第98回箱根駅伝1区で序盤から独走態勢を築き、従来の記録を26秒更新する1時間0分40秒の区間新記録を樹立した中大のエース・吉居大和(2年)だ。
区間賞の獲得、10年ぶりのシード権獲得に大きく貢献するとともに、大会MVPにあたる金栗四三杯にも輝いた。
「一番の感想はホッとしたこと。区間新記録で区間賞ですからうれしかったです。途中できついと感じる場面もありましたが、それでも最後までがんばれたのは(2区、3区、10区に控える)4年生の存在がいたから。先輩方に楽してもらいたいという思いで足を前に運びました」

愛知県田原市出身。田原東部中時代から全国区で活躍してきた吉居は、ともにトヨタ自動車で実業団ランナーだった両親の影響で、双子の弟・大耀(中京大2年)とともに小学生の頃から走り始めた。
「親と一緒にランニングをするのが好きで、校内のマラソン大会や市の大会などにも少しずつ出るようになっていきました」
2歳下にも弟の駿恭(仙台育英高3宮城)がおり、吉居家はまさに陸上一家。家族は吉居にとって、「今でもよく連絡し合っていますし、中学の頃の食事も含めて、いろいろな面でサポートしてもらっています。今の自分にかけがえのない存在です」と言い切る。
中学で陸上競技部に入り、本格的な競技人生が始まった。「学年が上がるにつれて、大きな舞台を目指すようになった」と語るように、3年時には全中に1500mと3000mで出場。「どちらの種目も予選落ちだったのは悔しかった」と振り返るが、3000mは8分41秒34までタイムを伸ばすなど、着実にレベルアップを遂げた3年間だった。
高校は地元を離れ、宮城・仙台育英に進学する。親元を離れて寮生活を送るという決断に「ためらいはなかった」という。
「(仙台育英高の)真名子圭監督とお話させていただいて、すごく惹かれるものがあったことを覚えています。真名子先生に見てもらいたい、一緒に練習をしたいと強く思って決めました」
1年時から全国高校駅伝出場(2区区間2位)と、順調なスタートを切ったかに見える吉居の高校生活だが、入学してしばらくはレベルの高い練習についていくのが精一杯だった。「練習に耐えられる身体ができていなかった」こともあり、1年の夏に左大腿骨頸部、2年の夏に右膝脛骨を疲労骨折と、相次ぐ故障にも苦しんだ。
2年の全国高校駅伝はエース区間の1区に起用されながら、区間42位と辛酸をなめた経験もある。
ただ、吉居はそれらの苦い思いを決して無駄にしなかった。
「故障に関しては、ケガをしてしまうと練習を継続してできないので、強くもなれないと感じましたし、『もうこんな思いはしたくない』と思うようになりました。2年の後半からはケアなども心掛けてたことでトレーニングを継続でき、3年生のシーズンは故障なく過ごすことができました」
3年時に大きく飛躍し、13分55秒10まで自己記録を伸ばした5000mは、インターハイで日本人トップの3位に。最後の全国高校駅伝は3区を担い、アンカーを務めた駿恭らと、日本一に輝いた。
「高校時代の一番の思い出は、都大路で優勝したこと。2年生の時、自分はうまく走れず、次こそはチームに貢献しないといけないと思っていました。1年間、みんなでやってきて、最後に優勝できたのはすごくうれしかったです」
3年時に優勝を果たした全国高校駅伝。左から3人目が吉居
今年も米国のクラブで武者修行
2020年春、名門・中大に進学。真名子先生と中大の藤原正和駅伝監督が、かつて実業団のHondaでチームメイトだった縁で、高校時代から中大の合宿に参加させてもらう機会があったからだ。「チームの雰囲気も良く、藤原さんとお話しても、4年間、しっかり指導していただけるという感覚がありました」と当時を振り返る。
入学当初、三大駅伝、なかでも箱根駅伝は、「あれだけ注目される大会なので、走りたい気持ちも結果を残したいもあった」という一方で、「箱根がすべてではない」との思いもあった。
だからこそ吉居は、4年間の目標として、「トラックで結果を残して世界に挑戦することと、記録としては5000m、10000m、ハーフマラソンで学生記録を更新すること」を掲げたのだった。
実際、中大では1年目から目覚ましい活躍を見せた。コロナ禍で競技会の中止や延期が相次いだシーズン前半は、逆に「練習に集中できる」と前向きに捉えた。競技会が再開されると、7月に5000mで13分28秒31をマークし、15年ぶりに更新したU20日本記録を、12月には13分25秒87まで短縮した。その間、9月には初出場の日本インカレで優勝も飾っている。
ハーフマラソンでも、10月中旬の箱根駅伝予選会で従来のU20日本記録に並ぶ1時間1分47秒(同大会で順大の三浦龍司が6秒更新)。10000mでは11月中旬にU20日本歴代3位となる28分08秒61をマークするなど、スーパールーキーと呼ぶに相応しい快進撃だった。
唯一、苦戦を強いられたのが前回(2021年)の箱根駅伝だ。「正直、まだ20kmを走れる自信があまりなくて、不安な状態でスタートラインに立ってしまった」と、3区で区間15位に沈んだ。
悔しい思いを抱えながらも、5000mでの東京五輪出場という目標に気持ちを切り替え、翌月には渡米。リオ五輪男子3000m障害銀メダリストのエヴァン・ジャガー(米国)や5000mの室内世界歴代5位の12分53秒73を持つグラント・フィッシャー(米国)ら世界トップクラスの選手が在籍するバウワーマントラッククラブの練習に参加し、「世界のトップ選手がどんな練習をするのかを見ることができ、自分との差をすごく感じました」と、国内では得られない貴重な経験を積んだ。
結果的に東京五輪出場は叶わなかったが、吉居にはあらゆる経験を次の挑戦の糧にできるメンタリティーがある。箱根駅伝も今年度は夏場から徹底した走り込みを行い、本番は「距離に対する不安はなく、自信を持ってスタートラインに立てた」ことが、今回の快走につながった。
幸先の良いスタートを切った2022年、吉居は「まずはトラックシーズン、5000mで自己ベスト更新や世界選手権の標準記録(13分13秒50)突破を目指してがんばりたい」と意気込む。1月下旬からは今年も米国に渡り、バウワーマントラッククラブでの強化トレーニングをこなしている。
学生長距離界を代表するスピードスターの3年目のチャレンジから目が離せない。

◎よしい・やまと/2002年2月14日生まれ。愛知都出身。田原東部中→宮城・仙台育英高→中大。自己記録5000m13分25秒87(U20日本記録)、10000m28分03秒90。
高校時代は3年時にインターハイ5000mで日本人トップの3位、全国高校駅伝優勝(3区)、全国都道府県対抗駅伝1区区間賞(区間新)と世代トップクラスの選手として活躍。中大進学後は1年時から5000mで2度のU20日本記録樹立や日本インカレ優勝など、その存在感を高め、2年目の今季は箱根駅伝1区区間賞(区間新)でMVPを受賞した。
文/小野哲史
2月14日に発売の「月刊陸上競技3月号」では追跡箱根駅伝として吉居大和にインタビュー。箱根駅伝の振り返り、そして目標に掲げる世界選手権へのプランを聞いた。また、洛南高・佐藤圭汰の3年間を振り返る企画も収録している。
月刊陸上競技3月号購入はこちら
学生長距離Close-upインタビュー
吉居大和 Yoshii Yamato 中央大学2年
「月陸Online」限定で大学長距離選手のインタビューをお届けする「学生長距離Close-upインタビュー」。16回目は、今年の箱根駅伝1区で従来の区間記録を26秒も更新する1時間0分40秒で駆け抜けた中大の吉居大和(2年)をピックアップ。
駅伝での活躍もさることながら、5000mでU20日本記録の13分25秒87、10000mで同歴代2位の28分03秒90を持つなど本来はトラックを得意とする選手。これまでの経歴をあらためて振り返り、その強さのルーツ、駅伝への思い、そして世界で戦うための覚悟を探った。
高校は親元を離れて越境入学
その激走は見る者の胸を高鳴らせた。 今年1月に開催された第98回箱根駅伝1区で序盤から独走態勢を築き、従来の記録を26秒更新する1時間0分40秒の区間新記録を樹立した中大のエース・吉居大和(2年)だ。 区間賞の獲得、10年ぶりのシード権獲得に大きく貢献するとともに、大会MVPにあたる金栗四三杯にも輝いた。 「一番の感想はホッとしたこと。区間新記録で区間賞ですからうれしかったです。途中できついと感じる場面もありましたが、それでも最後までがんばれたのは(2区、3区、10区に控える)4年生の存在がいたから。先輩方に楽してもらいたいという思いで足を前に運びました」
愛知県田原市出身。田原東部中時代から全国区で活躍してきた吉居は、ともにトヨタ自動車で実業団ランナーだった両親の影響で、双子の弟・大耀(中京大2年)とともに小学生の頃から走り始めた。
「親と一緒にランニングをするのが好きで、校内のマラソン大会や市の大会などにも少しずつ出るようになっていきました」
2歳下にも弟の駿恭(仙台育英高3宮城)がおり、吉居家はまさに陸上一家。家族は吉居にとって、「今でもよく連絡し合っていますし、中学の頃の食事も含めて、いろいろな面でサポートしてもらっています。今の自分にかけがえのない存在です」と言い切る。
中学で陸上競技部に入り、本格的な競技人生が始まった。「学年が上がるにつれて、大きな舞台を目指すようになった」と語るように、3年時には全中に1500mと3000mで出場。「どちらの種目も予選落ちだったのは悔しかった」と振り返るが、3000mは8分41秒34までタイムを伸ばすなど、着実にレベルアップを遂げた3年間だった。
高校は地元を離れ、宮城・仙台育英に進学する。親元を離れて寮生活を送るという決断に「ためらいはなかった」という。
「(仙台育英高の)真名子圭監督とお話させていただいて、すごく惹かれるものがあったことを覚えています。真名子先生に見てもらいたい、一緒に練習をしたいと強く思って決めました」
1年時から全国高校駅伝出場(2区区間2位)と、順調なスタートを切ったかに見える吉居の高校生活だが、入学してしばらくはレベルの高い練習についていくのが精一杯だった。「練習に耐えられる身体ができていなかった」こともあり、1年の夏に左大腿骨頸部、2年の夏に右膝脛骨を疲労骨折と、相次ぐ故障にも苦しんだ。
2年の全国高校駅伝はエース区間の1区に起用されながら、区間42位と辛酸をなめた経験もある。
ただ、吉居はそれらの苦い思いを決して無駄にしなかった。
「故障に関しては、ケガをしてしまうと練習を継続してできないので、強くもなれないと感じましたし、『もうこんな思いはしたくない』と思うようになりました。2年の後半からはケアなども心掛けてたことでトレーニングを継続でき、3年生のシーズンは故障なく過ごすことができました」
3年時に大きく飛躍し、13分55秒10まで自己記録を伸ばした5000mは、インターハイで日本人トップの3位に。最後の全国高校駅伝は3区を担い、アンカーを務めた駿恭らと、日本一に輝いた。
「高校時代の一番の思い出は、都大路で優勝したこと。2年生の時、自分はうまく走れず、次こそはチームに貢献しないといけないと思っていました。1年間、みんなでやってきて、最後に優勝できたのはすごくうれしかったです」
3年時に優勝を果たした全国高校駅伝。左から3人目が吉居
今年も米国のクラブで武者修行
2020年春、名門・中大に進学。真名子先生と中大の藤原正和駅伝監督が、かつて実業団のHondaでチームメイトだった縁で、高校時代から中大の合宿に参加させてもらう機会があったからだ。「チームの雰囲気も良く、藤原さんとお話しても、4年間、しっかり指導していただけるという感覚がありました」と当時を振り返る。 入学当初、三大駅伝、なかでも箱根駅伝は、「あれだけ注目される大会なので、走りたい気持ちも結果を残したいもあった」という一方で、「箱根がすべてではない」との思いもあった。 だからこそ吉居は、4年間の目標として、「トラックで結果を残して世界に挑戦することと、記録としては5000m、10000m、ハーフマラソンで学生記録を更新すること」を掲げたのだった。 実際、中大では1年目から目覚ましい活躍を見せた。コロナ禍で競技会の中止や延期が相次いだシーズン前半は、逆に「練習に集中できる」と前向きに捉えた。競技会が再開されると、7月に5000mで13分28秒31をマークし、15年ぶりに更新したU20日本記録を、12月には13分25秒87まで短縮した。その間、9月には初出場の日本インカレで優勝も飾っている。 ハーフマラソンでも、10月中旬の箱根駅伝予選会で従来のU20日本記録に並ぶ1時間1分47秒(同大会で順大の三浦龍司が6秒更新)。10000mでは11月中旬にU20日本歴代3位となる28分08秒61をマークするなど、スーパールーキーと呼ぶに相応しい快進撃だった。 唯一、苦戦を強いられたのが前回(2021年)の箱根駅伝だ。「正直、まだ20kmを走れる自信があまりなくて、不安な状態でスタートラインに立ってしまった」と、3区で区間15位に沈んだ。 悔しい思いを抱えながらも、5000mでの東京五輪出場という目標に気持ちを切り替え、翌月には渡米。リオ五輪男子3000m障害銀メダリストのエヴァン・ジャガー(米国)や5000mの室内世界歴代5位の12分53秒73を持つグラント・フィッシャー(米国)ら世界トップクラスの選手が在籍するバウワーマントラッククラブの練習に参加し、「世界のトップ選手がどんな練習をするのかを見ることができ、自分との差をすごく感じました」と、国内では得られない貴重な経験を積んだ。 結果的に東京五輪出場は叶わなかったが、吉居にはあらゆる経験を次の挑戦の糧にできるメンタリティーがある。箱根駅伝も今年度は夏場から徹底した走り込みを行い、本番は「距離に対する不安はなく、自信を持ってスタートラインに立てた」ことが、今回の快走につながった。 幸先の良いスタートを切った2022年、吉居は「まずはトラックシーズン、5000mで自己ベスト更新や世界選手権の標準記録(13分13秒50)突破を目指してがんばりたい」と意気込む。1月下旬からは今年も米国に渡り、バウワーマントラッククラブでの強化トレーニングをこなしている。 学生長距離界を代表するスピードスターの3年目のチャレンジから目が離せない。
◎よしい・やまと/2002年2月14日生まれ。愛知都出身。田原東部中→宮城・仙台育英高→中大。自己記録5000m13分25秒87(U20日本記録)、10000m28分03秒90。
高校時代は3年時にインターハイ5000mで日本人トップの3位、全国高校駅伝優勝(3区)、全国都道府県対抗駅伝1区区間賞(区間新)と世代トップクラスの選手として活躍。中大進学後は1年時から5000mで2度のU20日本記録樹立や日本インカレ優勝など、その存在感を高め、2年目の今季は箱根駅伝1区区間賞(区間新)でMVPを受賞した。
文/小野哲史
2月14日に発売の「月刊陸上競技3月号」では追跡箱根駅伝として吉居大和にインタビュー。箱根駅伝の振り返り、そして目標に掲げる世界選手権へのプランを聞いた。また、洛南高・佐藤圭汰の3年間を振り返る企画も収録している。
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