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【誌面転載】Road to Hakone Ekiden Close-up Team 筑波大学
【誌面転載】Road to Hakone Ekiden Close-up Team 筑波大学

箱根路に帰ってきた初代優勝校
強化費「0円」の国立大が予選会を突破できた要因とは

箱根駅伝予選会を6位で通過し、26年ぶりの本戦復帰を果たした筑波大。前列中央が就任5年目の弘山勉駅伝監督

今年の箱根駅伝予選会でもっともインパクトのある結果を残したのは、総合6位通過で26年ぶりの箱根路復帰を果たした筑波大だろう。至近3大会は24位、19位、17位。一気に11校を〝ごぼう抜き〟した。

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チームを率いるのは就任5年目でOBでもある弘山勉駅伝監督。かつては女子実業団の資生堂で監督を務め、世界選手権で3度の入賞を果たした妻の晴美さんを筆頭に数々のトップ選手を育成してきた名指導者だ。そんな指揮官は母校をいかにして箱根駅伝復活へ導いたのか。歴史的な〝立川決戦〟を終えたばかりの弘山監督に話を聞いた。

◎文/福本ケイヤ ◎撮影/船越陽一郎

箱根駅伝〝初代優勝校〟が復活

かつての箱根駅伝常連校にとって、四半世紀もの空白はあまりにも長かった。だが、着実に復活の時は近づいていた。

今年の箱根駅伝では相馬崇史(現3年)が関東学生連合の一員として5区を走った。筑波大勢が箱根路を駆けるのは2007年に当時の関東学連選抜として出場した大城将範以来12年ぶり。現在の〝筑波ブルー〟のユニフォームが登場するのは初めてだった。

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今年1月の箱根駅伝では当時2年生だった相馬崇史が関東学生連合として5区に出走。筑波大では12年ぶりの箱根ランナーとなった

また、今年は〝大先輩〟も数々の話題を提供した。NHK大河ドラマ『いだてん』の第1部では、筑波大の前身、東京高等師範学校出身で箱根駅伝創設者の1人、金栗四三が主役だ。東京五輪マラソン代表選考会「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)」の開催に尽力したのは、在学時にアジア大会3000m障害優勝の実績がある河野匡氏(日本陸連強化委員会長距離・マラソンディレクター、大塚製薬部長兼女子部監督)。もちろん直接的な関係はないが、さまざまなかたちで〝筑波大復活〟に向けて機運が高まっているのが感じ取れた。

そして10月26日、ついにその時が訪れる――。確かな手応えを持って挑んだ箱根予選会で、6番目に大学名をコールされた。本戦に出場するのは、実に26年ぶり。1920年開催の第1回大会で優勝したのが前身の東京高師だったが、その100年後の2020年に、ついに箱根路に復活を果たすことになった。

「箱根駅伝復活プロジェクト」が発足

箱根駅伝出場を目指し、2000年代頭には大学院進学予定の有力選手数名をあえて予選会にエントリーせず、記念大会に力を結集させようとしたこともあった。当時は、大学院は別チーム扱いではなく、予選会を走れるのは最大4回まで。記念大会での増枠での出場を狙った計画だった。

だが、その思い切った作戦も結実せず。その後は予選会で35位まで沈んだ年もあった。学校・後援会から充実のサポートを受けて強化を図る私立大学が増え、強化費ゼロの国立大学に為す術はなく、箱根路は遠ざかる一方だった。

そんな状況の中、11年7月にスタートしたのが『筑波大学箱根駅伝復活プロジェクト』。15年4月にはOBの弘山勉氏が男子駅伝監督に就任した。

「母校を箱根に導くための仕事は本当にやりがいを感じると思いました。ただ、相当大変だろうなという覚悟を持っていたんですけど、予想以上でしたね。〝競技パフォーマンスを高めたい〟という意識はレベルに関係なく誰でも持っていますが、箱根駅伝出場というとてつもなく大きなハードルを越えるには、本当の意味で覚悟がないとダメ。当たり前のことですが、競技者としてどういう心構えでやるべきか、いかに本気でやるかを学生たちに伝えました」

7月にはシーズン途中で駅伝主将など幹部を交代。学生主体のチームにあって、何度もミーティングを重ねた結果だった

学生が主体となって活動するのが筑波大のチームカラー。それまでは学生が練習計画を立てていた。弘山監督はいきなりそこに鉈を振るうことはせずに、5月の関東インカレまでは様子を見つつ、練習メニューに対してアドバイスする程度にとどめておいたという。その後は、まずは監督が練習メニューを考案し、それを学生が議論するというかたちをとった。

「私が来る前にどんな練習をやっていたかは知りませんが、それほど走る量は変わっていないと思います」と弘山監督。だが、自身が課すメニューについて「学生は何とかこなせていましたよ。でも、『地獄だ』とか『鬼だ』とか言ってやっていましたけどね」と笑う。質、量ともに上がったのは間違いなさそうだ。

「教育機関なので、私の持っているノウハウを学生に伝えていくという役目も私にはあります。就任当初はとにかくいろんな練習をやらせました。例えばインターバルであれば、400m、600m、1000mなど距離はいろいろありますが、つなぎをどうするかも大事です。ペースとつなぎの組み合わせ方で相当数のパターンがありますから。極端な話、400mのつなぎを50mでやるとか、そんなやり方もあるわけです。これまで普通だと思っていたやり方だけではなく、固定観念を取り払ってほしかった。当然、楽な設定にはしないので、学生はヒイヒイ言っていましたね」

初めて指揮を執った15年の箱根予選会は22位。本戦出場ラインまでは約25分も足りなかった。漠然と「3年ぐらいで本戦に行けるんじゃないか」と考えていたが、予選会終了後に「何年かかるのかな」と不安もよぎった。ただ、悲嘆するばかりでもなかった。

「夏は厳しいトレーニングを積んだのですが、1年目の予選会が終わってから秋には自己新が続出しました。ケガをした者以外、ほとんどの学生が出したと思います。大学の場合は毎年選手が入れ替わりますが、これを続けていき、年々層を厚くできれば、(本戦出場は)近づいていくだろうなと思いました」と、好材料に目を向けていた。

※この続きは2019年11月14日発売の『月刊陸上競技12月号』をご覧ください。

箱根路に帰ってきた初代優勝校 強化費「0円」の国立大が予選会を突破できた要因とは

箱根駅伝予選会を6位で通過し、26年ぶりの本戦復帰を果たした筑波大。前列中央が就任5年目の弘山勉駅伝監督 今年の箱根駅伝予選会でもっともインパクトのある結果を残したのは、総合6位通過で26年ぶりの箱根路復帰を果たした筑波大だろう。至近3大会は24位、19位、17位。一気に11校を〝ごぼう抜き〟した。 チームを率いるのは就任5年目でOBでもある弘山勉駅伝監督。かつては女子実業団の資生堂で監督を務め、世界選手権で3度の入賞を果たした妻の晴美さんを筆頭に数々のトップ選手を育成してきた名指導者だ。そんな指揮官は母校をいかにして箱根駅伝復活へ導いたのか。歴史的な〝立川決戦〟を終えたばかりの弘山監督に話を聞いた。 ◎文/福本ケイヤ ◎撮影/船越陽一郎

箱根駅伝〝初代優勝校〟が復活

かつての箱根駅伝常連校にとって、四半世紀もの空白はあまりにも長かった。だが、着実に復活の時は近づいていた。 今年の箱根駅伝では相馬崇史(現3年)が関東学生連合の一員として5区を走った。筑波大勢が箱根路を駆けるのは2007年に当時の関東学連選抜として出場した大城将範以来12年ぶり。現在の〝筑波ブルー〟のユニフォームが登場するのは初めてだった。 今年1月の箱根駅伝では当時2年生だった相馬崇史が関東学生連合として5区に出走。筑波大では12年ぶりの箱根ランナーとなった また、今年は〝大先輩〟も数々の話題を提供した。NHK大河ドラマ『いだてん』の第1部では、筑波大の前身、東京高等師範学校出身で箱根駅伝創設者の1人、金栗四三が主役だ。東京五輪マラソン代表選考会「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)」の開催に尽力したのは、在学時にアジア大会3000m障害優勝の実績がある河野匡氏(日本陸連強化委員会長距離・マラソンディレクター、大塚製薬部長兼女子部監督)。もちろん直接的な関係はないが、さまざまなかたちで〝筑波大復活〟に向けて機運が高まっているのが感じ取れた。 そして10月26日、ついにその時が訪れる――。確かな手応えを持って挑んだ箱根予選会で、6番目に大学名をコールされた。本戦に出場するのは、実に26年ぶり。1920年開催の第1回大会で優勝したのが前身の東京高師だったが、その100年後の2020年に、ついに箱根路に復活を果たすことになった。

「箱根駅伝復活プロジェクト」が発足

箱根駅伝出場を目指し、2000年代頭には大学院進学予定の有力選手数名をあえて予選会にエントリーせず、記念大会に力を結集させようとしたこともあった。当時は、大学院は別チーム扱いではなく、予選会を走れるのは最大4回まで。記念大会での増枠での出場を狙った計画だった。 だが、その思い切った作戦も結実せず。その後は予選会で35位まで沈んだ年もあった。学校・後援会から充実のサポートを受けて強化を図る私立大学が増え、強化費ゼロの国立大学に為す術はなく、箱根路は遠ざかる一方だった。 そんな状況の中、11年7月にスタートしたのが『筑波大学箱根駅伝復活プロジェクト』。15年4月にはOBの弘山勉氏が男子駅伝監督に就任した。 「母校を箱根に導くための仕事は本当にやりがいを感じると思いました。ただ、相当大変だろうなという覚悟を持っていたんですけど、予想以上でしたね。〝競技パフォーマンスを高めたい〟という意識はレベルに関係なく誰でも持っていますが、箱根駅伝出場というとてつもなく大きなハードルを越えるには、本当の意味で覚悟がないとダメ。当たり前のことですが、競技者としてどういう心構えでやるべきか、いかに本気でやるかを学生たちに伝えました」 7月にはシーズン途中で駅伝主将など幹部を交代。学生主体のチームにあって、何度もミーティングを重ねた結果だった 学生が主体となって活動するのが筑波大のチームカラー。それまでは学生が練習計画を立てていた。弘山監督はいきなりそこに鉈を振るうことはせずに、5月の関東インカレまでは様子を見つつ、練習メニューに対してアドバイスする程度にとどめておいたという。その後は、まずは監督が練習メニューを考案し、それを学生が議論するというかたちをとった。 「私が来る前にどんな練習をやっていたかは知りませんが、それほど走る量は変わっていないと思います」と弘山監督。だが、自身が課すメニューについて「学生は何とかこなせていましたよ。でも、『地獄だ』とか『鬼だ』とか言ってやっていましたけどね」と笑う。質、量ともに上がったのは間違いなさそうだ。 「教育機関なので、私の持っているノウハウを学生に伝えていくという役目も私にはあります。就任当初はとにかくいろんな練習をやらせました。例えばインターバルであれば、400m、600m、1000mなど距離はいろいろありますが、つなぎをどうするかも大事です。ペースとつなぎの組み合わせ方で相当数のパターンがありますから。極端な話、400mのつなぎを50mでやるとか、そんなやり方もあるわけです。これまで普通だと思っていたやり方だけではなく、固定観念を取り払ってほしかった。当然、楽な設定にはしないので、学生はヒイヒイ言っていましたね」 初めて指揮を執った15年の箱根予選会は22位。本戦出場ラインまでは約25分も足りなかった。漠然と「3年ぐらいで本戦に行けるんじゃないか」と考えていたが、予選会終了後に「何年かかるのかな」と不安もよぎった。ただ、悲嘆するばかりでもなかった。 「夏は厳しいトレーニングを積んだのですが、1年目の予選会が終わってから秋には自己新が続出しました。ケガをした者以外、ほとんどの学生が出したと思います。大学の場合は毎年選手が入れ替わりますが、これを続けていき、年々層を厚くできれば、(本戦出場は)近づいていくだろうなと思いました」と、好材料に目を向けていた。 ※この続きは2019年11月14日発売の『月刊陸上競技12月号』をご覧ください。

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