2021.09.14
国立競技場を舞台にした東京五輪の陸上競技は全9日間の日程。その初日に行われた女子5000m予選から登場した田中希実(豊田自動織機TC)は、半分近くの4日間でトラックを駆け抜けた。そして、日本人が過去に1度も出場したことのなかった女子1500mで8位入賞を果たし、準決勝では3分59秒19という衝撃的な日本新記録を樹立。記録づくめの力走に、日本陸上界が熱狂した。その活躍は、五輪日本勢の「MVP」と言えるものだ。
真夏の挑戦を終えても、その2週間後には1000mで2分37秒72の日本新をマークして話題を振りまくが、3月から走り続けてきた日々とは違って少し穏やかな時間を過ごし、次なるチャレンジへの英気を養っているところ。そんな田中に、22歳の誕生日を翌日に控えた9月3日、地元の兵庫県小野市で五輪のレースや過程の振り返りと、これからを聞いた。
構成/小川雅生
撮影/弓庭保夫
「結構すごいスケジュールをこなした」
――オリンピックが終わって1ヵ月弱ですが、今どのような気持ちで過ごしていますか。
田中 私にとっては2ヵ月くらい経ったような、結構昔のことのように感じています。あの時の力は今は出せないので、それもあって遠くに感じるのかもしれません。五輪が終わってからも、毎日いろいろとバタバタしていました。でも、充実はしていたので、終わってから濃い1日1日を過ごしています。
――オリンピックの重みは感じましたか。
田中 はい。国内での開催だったというのもあると思うんですけど、結構注目がすごいなって。地元に帰ってきてから特に思います。今までは陸上ファンの方には出かけた先でわかってしまうことがあったけど、まったく陸上を知らない人でもテレビで観て、知ってくださっていました。その人も普段は陸上を観ないと言っていたので、やっぱりオリンピックってすごいなと思いました。
――オリンピックの走りはそれぞれ細かく振り返りましたか。
田中 じっくり振り返ることは、それほどしていないんです。逆に取材で答えたり、おめでとうってメッセージをくれた人に返したりする中で、振り返ったり、整理がついたりしていった感じです。5000mは予定通りじゃなかったけど、1500mだったら意外と何日か置きでも高いレベルで何本も走れるものだと感じました。それにしても、振り返ると結構すごいスケジュールをこなしていたなと思いました(笑)。
――厳しいスケジュールでしたけど、そんな感覚はなかったのですか?
田中 ドーハ世界選手権の時も5000mの予選と決勝は中2日。その時は、周りからは5000mが2本で大変と思われていましたが、私としては「中2日ももらえた」と感じていたんです。今回も準決勝と決勝の間は中1日で短く感じましたが、予選と準決勝の間はすごく猶予をもらえたように感じていました。たぶん8月2日の予選が朝で、4日の準決勝が夜だったので、1日多い感覚になったんだと思います。
――今、心に残っている思いは?
田中 駆け抜けたな、と(笑)。ただ、ドーハ世界選手権や去年のゴールデングランプリ東京で日本記録(4分05秒27)を出した後のほうが〝やり切った感〟がありました。今年一番の成績を出したから、一息つく感じになっていましたが、今はその成績の余韻に浸るというわけではないですね。自分はこんなに走れたんだ、と気持ち良く走ることがあまりできていないので、逆に今の練習に集中できているという感じです。
「8月2日の2本」が快挙への始まり
――そもそも、今回のオリンピックでの一番の目標を教えてください。
田中 もともと具体的な目標を立てていなくて、ハードスケジュールをこなす過程を自分の財産にしたいと思っていました。1500mに最後(決勝)まで残るというよりも、5000mの決勝に残って、8月2日の1500m予選と5000m決勝の2本を乗り越えることに重きを置いていたんです。それを乗り越えたうえで、5000mを控えている中での1500m予選で準決勝に残れていたら、5000m決勝からの1500m準決勝がどう走れるんだろう、と。1500mの決勝までは考えていなくて、準決勝くらいまでのスケジュールしか考えていませんでした。
――5000mへの意識のほうが強かったのですか。
田中 5000m予選は「ここで決勝に残らないと始まらない」という気持ちで迎えていたので、まず5000mで決勝を決めることが一つの山場でした。そこさえ決めれば、絶対に1500mと5000mの2本走ることが確定します。「その2本を1日で走る山を越えたら、あとは楽しむだけ」と考えていたので、すべてのことを左右するのが5000mの予選。その時は緊張していたかなと思います。
この続きは2021年9月14日発売の『月刊陸上競技10月号』をご覧ください。
定期購読はこちらから
「結構すごいスケジュールをこなした」
――オリンピックが終わって1ヵ月弱ですが、今どのような気持ちで過ごしていますか。 田中 私にとっては2ヵ月くらい経ったような、結構昔のことのように感じています。あの時の力は今は出せないので、それもあって遠くに感じるのかもしれません。五輪が終わってからも、毎日いろいろとバタバタしていました。でも、充実はしていたので、終わってから濃い1日1日を過ごしています。 ――オリンピックの重みは感じましたか。 田中 はい。国内での開催だったというのもあると思うんですけど、結構注目がすごいなって。地元に帰ってきてから特に思います。今までは陸上ファンの方には出かけた先でわかってしまうことがあったけど、まったく陸上を知らない人でもテレビで観て、知ってくださっていました。その人も普段は陸上を観ないと言っていたので、やっぱりオリンピックってすごいなと思いました。 ――オリンピックの走りはそれぞれ細かく振り返りましたか。 田中 じっくり振り返ることは、それほどしていないんです。逆に取材で答えたり、おめでとうってメッセージをくれた人に返したりする中で、振り返ったり、整理がついたりしていった感じです。5000mは予定通りじゃなかったけど、1500mだったら意外と何日か置きでも高いレベルで何本も走れるものだと感じました。それにしても、振り返ると結構すごいスケジュールをこなしていたなと思いました(笑)。 ――厳しいスケジュールでしたけど、そんな感覚はなかったのですか? 田中 ドーハ世界選手権の時も5000mの予選と決勝は中2日。その時は、周りからは5000mが2本で大変と思われていましたが、私としては「中2日ももらえた」と感じていたんです。今回も準決勝と決勝の間は中1日で短く感じましたが、予選と準決勝の間はすごく猶予をもらえたように感じていました。たぶん8月2日の予選が朝で、4日の準決勝が夜だったので、1日多い感覚になったんだと思います。 ――今、心に残っている思いは? 田中 駆け抜けたな、と(笑)。ただ、ドーハ世界選手権や去年のゴールデングランプリ東京で日本記録(4分05秒27)を出した後のほうが〝やり切った感〟がありました。今年一番の成績を出したから、一息つく感じになっていましたが、今はその成績の余韻に浸るというわけではないですね。自分はこんなに走れたんだ、と気持ち良く走ることがあまりできていないので、逆に今の練習に集中できているという感じです。「8月2日の2本」が快挙への始まり
――そもそも、今回のオリンピックでの一番の目標を教えてください。 田中 もともと具体的な目標を立てていなくて、ハードスケジュールをこなす過程を自分の財産にしたいと思っていました。1500mに最後(決勝)まで残るというよりも、5000mの決勝に残って、8月2日の1500m予選と5000m決勝の2本を乗り越えることに重きを置いていたんです。それを乗り越えたうえで、5000mを控えている中での1500m予選で準決勝に残れていたら、5000m決勝からの1500m準決勝がどう走れるんだろう、と。1500mの決勝までは考えていなくて、準決勝くらいまでのスケジュールしか考えていませんでした。 ――5000mへの意識のほうが強かったのですか。 田中 5000m予選は「ここで決勝に残らないと始まらない」という気持ちで迎えていたので、まず5000mで決勝を決めることが一つの山場でした。そこさえ決めれば、絶対に1500mと5000mの2本走ることが確定します。「その2本を1日で走る山を越えたら、あとは楽しむだけ」と考えていたので、すべてのことを左右するのが5000mの予選。その時は緊張していたかなと思います。 この続きは2021年9月14日発売の『月刊陸上競技10月号』をご覧ください。
|
|
RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking 人気記事ランキング
2024.04.28
今春から順大コーチ就任の田中秀幸が日本勢トップ 女子は飛田凜香が5位/ぎふ清流ハーフ
2024.04.28
田中希実 米国で伝統あるペン・リレーに出場 3週連続の1500mは4分08秒32で3位
-
2024.04.28
-
2024.04.27
-
2024.04.27
2024.04.26
やり投・北口榛花 五輪シーズン初戦へ「結果がどうであれ次につなげられれば」/DL蘇州
2024.04.12
40年以上の人気シューズ”ペガサス”シリーズの最新作!「ナイキ ペガサス 41」が登場!
-
2024.03.28
-
2024.04.26
-
2024.04.07
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2022.12.20
-
2023.04.01
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2024.04.28
最終日は4種目で金 落合晃が800m1分48秒01 ドルーリーと増子もV 100mH谷中と松田がワン・ツー/U20アジア選手権
◇第21回U20アジア選手権(4月24日~27日/UAE・ドバイ) 4日目 最終日の日本勢は4種目で金メダルを獲得した。 広告の下にコンテンツが続きます 男子800mでは落合晃(滋賀学園高3)が終始トップを譲らず、自己ベ […]
2024.04.28
今春から順大コーチ就任の田中秀幸が日本勢トップ 女子は飛田凜香が5位/ぎふ清流ハーフ
高橋尚子杯ぎふ清流ハーフマラソン2024は4月28日、岐阜市の岐阜メモリアルセンターを発着点としたコースで行われ、男子はヒラリー・キプコエチ(ケニア)が1時間1分26秒で、女子はステラ・チェサン(ウガンダ)が1時間7分5 […]
2024.04.28
田中希実 米国で伝統あるペン・リレーに出場 3週連続の1500mは4分08秒32で3位
ペン・リレーが4月27日、米ペンシルベニア州フィラデルフィアで行われ、女子1500mに田中希実(New Balance)が出場し、4分08秒32で3位に入った。 田中は序盤から上位でレースを進めると、3分04秒29で通過 […]
2024.04.28
サニブラウン100m10秒15で6位 今季屋外3レース目はデグラス、ジェイコブスらと接戦
4月27日のイーストコーストリレー(米国フロリダ州ジャクソンビル)男子100mにサニブラウン・アブデル・ハキーム(東レ)が出場し、10秒15(+0.9)で総合6位だった。 サニブラウンはM.ジェイコブス(イタリア)、A. […]
Latest Issue 最新号
2024年5月号 (4月12日発売)
パリ五輪イヤー開幕!