2020.11.13
埼玉栄高では長距離が主戦場、東海大では1500mで日本選手権を連覇する一方、駅伝でも大活躍。マルチな才能を発揮した館澤亨次(横浜DeNA)は大学卒業後、「1500m」に特化する道を選んだ。そしてその1年目、10月の日本選手権でこれまでとは大きく異なるスタイルで3度目の栄冠に輝いた。男子800m前日本記録保持者である横田真人コーチとともに、目指すは世界トップクラスの領域。2021年東京五輪をステップに、2024年パリ五輪での〝快挙〟を狙っている。
●文/酒井政人 撮影/中村博之
1500mランナーに進化中
1年前の館澤亨次(横浜DeNA)なら、苦にしない練習だったはずだ。取材に訪れた日のメニューは12000mペース走。12月4日に行われる日本選手権で男子3000m障害に出場予定の楠康成(阿見AC)の練習パートナーを務める館澤は、もがいていた。
1㎞3分30秒ペースで入り、4000mごとに10秒ずつ上げていく。最後の4000mは1㎞3分10秒ペースになるが、ラスト1000mは2分56秒まで上がった。楠のペースに食らいついた館澤は、「いや、きつかったですね。大学時代だったら余裕でできる練習なんですけど」と苦笑いしながらも、充実した表情を見せていた。
館澤は埼玉栄高時代、2年連続でインターハイ5000m出場、全国高校駅伝では3年時に1区6位など、長距離で活躍してきた。だが、東海大では2年時から1500mに本格参戦すると、終盤のパワフルなスパートを武器に日本選手権を連覇(17、18年)した。学生駅伝でも大活躍して、全日本大学駅伝は3区で3年連続(16 ~ 18年)の区間賞。主将として臨んだ最後の箱根駅伝は6区で57分17秒の驚異的な区間新記録も打ち立てた。
「大学時代は長い距離の練習も少なくありませんでしたが、今は1回の練習で16㎞も走らないですね。月間走行距離は大学時代の半分以下じゃないでしょうか。でも、補強やウエイトトレーニングは大学時代よりもきっちりとやっています。ちょっと大きくなり過ぎたんですけど、体型も中距離選手に近づいてきたかなと思っています」
身体が大きくなり、スピードも楽に出るようになった。マルチな活躍を見せた館澤は今、「1500 m」を極めようとしている。
身体と走りを見つめ直した
大学4年だった昨年度は、恥骨結合炎で苦しいシーズンを過ごした。ほぼ〝ぶっつけ本番〟で合わせた正月の箱根駅伝の代償も小さくなく、社会人1年目の今季は大きく出遅れるはずだった。ただ、コロナ禍でシーズンがストップしたことは、館澤にとって救いとなった。
「東京五輪の1年延期は自分からすれば正直、助かりました。日本選手権も予定通りの日時(6月下旬)でやっていたら決勝にすら進出できていなかったと思います」
10月の日本選手権1500mでは2年ぶり3度目の優勝。見事な逃げ切り勝ちだった
大学卒業後は、横浜DeNAランニングクラブに加入。中長距離専門チーム「TWOLAPS TC」を率いる横田真人氏とコーチ契約を結び、同チームでトレーニングをすることになった。ただ、ケガを抱えた状態だったことと、4~6月は集団での練習ができなかったこともあり、じっくりと自分の身体と走りを見つめ直すことから始めた。
「横田コーチと話し合って、まずは故障を治すことに重点を置きました。さらに自分のもともとの走り方だと同じケガを繰り返してしまうので、走りの改善もやってきたんです。これまではハムストリングスを無理に使って脚を前方に送り、ググッと引っ張る感じの走りでした。そうではなくて、脚を(重心の真下に)置いて、地面からの反発をもらって走る。それが横田コーチの理論なんです」
ハムストリングスだけではなく、臀筋や股関節を使い、重心に置いた接地脚に乗り込んでいくフォームを目指した。故障は6月に完治したが、新たな走りの感覚はなかなかつかむことができずに「最初はかなり苦労しました」と言う。それでも、練習を重ねることで徐々に光が見え始めた。
「まだ完璧ではないんですけど、身についてきたのは8月くらいからです。乗る感覚とはこういうことなのかというのを徐々に理解できるようになってきました」
接地位置がこれまでより少し手前になったことで、ストライドはやや狭くなったという。しかし、脚の切り返しが素早くなり、走りの効率が良くなったことを実感している。
この続きは2020年11月13日発売の『月刊陸上競技12月号』をご覧ください。
定期購読はこちらから

1500mランナーに進化中
1年前の館澤亨次(横浜DeNA)なら、苦にしない練習だったはずだ。取材に訪れた日のメニューは12000mペース走。12月4日に行われる日本選手権で男子3000m障害に出場予定の楠康成(阿見AC)の練習パートナーを務める館澤は、もがいていた。 1㎞3分30秒ペースで入り、4000mごとに10秒ずつ上げていく。最後の4000mは1㎞3分10秒ペースになるが、ラスト1000mは2分56秒まで上がった。楠のペースに食らいついた館澤は、「いや、きつかったですね。大学時代だったら余裕でできる練習なんですけど」と苦笑いしながらも、充実した表情を見せていた。 館澤は埼玉栄高時代、2年連続でインターハイ5000m出場、全国高校駅伝では3年時に1区6位など、長距離で活躍してきた。だが、東海大では2年時から1500mに本格参戦すると、終盤のパワフルなスパートを武器に日本選手権を連覇(17、18年)した。学生駅伝でも大活躍して、全日本大学駅伝は3区で3年連続(16 ~ 18年)の区間賞。主将として臨んだ最後の箱根駅伝は6区で57分17秒の驚異的な区間新記録も打ち立てた。 「大学時代は長い距離の練習も少なくありませんでしたが、今は1回の練習で16㎞も走らないですね。月間走行距離は大学時代の半分以下じゃないでしょうか。でも、補強やウエイトトレーニングは大学時代よりもきっちりとやっています。ちょっと大きくなり過ぎたんですけど、体型も中距離選手に近づいてきたかなと思っています」 身体が大きくなり、スピードも楽に出るようになった。マルチな活躍を見せた館澤は今、「1500 m」を極めようとしている。身体と走りを見つめ直した
大学4年だった昨年度は、恥骨結合炎で苦しいシーズンを過ごした。ほぼ〝ぶっつけ本番〟で合わせた正月の箱根駅伝の代償も小さくなく、社会人1年目の今季は大きく出遅れるはずだった。ただ、コロナ禍でシーズンがストップしたことは、館澤にとって救いとなった。 「東京五輪の1年延期は自分からすれば正直、助かりました。日本選手権も予定通りの日時(6月下旬)でやっていたら決勝にすら進出できていなかったと思います」
RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking
人気記事ランキング
2025.08.17
栁田大輝 トワイライト・ゲームス欠場「連日のレースの疲労を考慮」福井で100m自己新
2025.08.17
円盤投日本記録保持者・湯上剛輝が63m36で3位 有効試技すべて60m以上
-
2025.08.17
2025.08.16
100mH・福部真子12秒73!!ついに東京世界選手権参加標準を突破/福井ナイトゲームズ
2025.08.16
100mH・福部真子12秒73!!ついに東京世界選手権参加標準を突破/福井ナイトゲームズ
-
2025.07.24
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2023.04.01
-
2022.12.20
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2025.08.17
栁田大輝 トワイライト・ゲームス欠場「連日のレースの疲労を考慮」福井で100m自己新
東洋大陸上競技部は8月17日夜、短距離部門のSNSを更新し、第20回トワイライト・ゲームス男子100m(8月20日/神奈川・日産スタジアム)にエントリーしていた同部所属の栁田大輝が棄権すると発表した。 SNSによると、理 […]
2025.08.17
森凪也1500mで2戦連続自己新 青木アリエ300m4位 田島愛理3000m初8分台で5位/WAコンチネンタルツアー
世界陸連(WA)コンチネンタルツアーチャレンジャーのミーティング・ボル・モンが8月16日、ベルギー・ルーバンで行われ、多数の日本選手が出場した。 この大会は、種目によって実績やタイムなどで上位カテゴリーと下位カテゴリーに […]
2025.08.17
円盤投日本記録保持者・湯上剛輝が63m36で3位 有効試技すべて60m以上
米国・オクラホマで8月16日に行われたオクラホマ・スロー・シリーズのエリート男子円盤投で湯上剛輝(トヨタ自動車)がセカンドベストの63m36を放って3位に入った。 4月下旬に同地で行われた競技会で64m48の日本記録をマ […]
2025.08.17
400mHワルホルムがセカンドベストでV、ボル今季世界最高 3000mキピエゴン世界歴代2位/DLシレジア
ダイヤモンドリーグ(DL)第12戦のシレジア・カミラ・スコリモフスカ記念が8月16日、ポーランド・シレジアで開催され、男子400mハードルは世界記録(45秒94)保持者のK.ワルホルム(ノルウェー)が自己2番目となる46 […]
Latest Issue
最新号

2025年9月号 (8月12日発売)
衝撃の5日間
広島インターハイ特集!
桐生祥秀 9秒99