2022.07.12
大阪で日本一になってすぐ、落ち着く間もなく女子やり投の北口榛花(JAL)はヨーロッパへ渡った。〝第二の故郷〟チェコで1戦した後に向かったフランス・パリ。そこでダイヤモンドリーグ日本人初優勝を果たした。シニアの世界大会はオレゴン世界選手権が3回目。ドーハでも東京でも涙を流した。もちろん米国でもうれしければ笑い、悔しければ泣くだろう。結果はどうなるかわからないが、これまでと違うのは「力を出し切る」という一本の軸があること。すべての経験が世界一を目指すやり投人生の糧となる。
文/向永拓史
パリでDL初制覇の大偉業
日本選手権を62m25で連覇した2日後、北口榛花(JAL)は機上の人となった。
「ダイヤモンドリーグ(DL)パリ大会に出る予定です。目標としていた大会の一つ。きっと満員のスタンドになります。緊張とワクワクがすごいです」
6月14日にチェコで行われたコンチネンタルツアー・ブロンズの大会に出場して61m97で優勝。迎えた4日後のフランス・パリで快挙を成し遂げる。もっとも、北海道・旭川東高3年時に世界ユース選手権を制覇している北口。いつかはこの日が来てもおかしくはなかった。
「観客席は空席もなくて、日本では考えられないくらい大盛り上がり。とにかく歓声がすごくて、近くに遊園地でもあるのかなと思うくらいでした」
世界のトップ選手だけが立てる舞台。有力選手数人が出場を見送っていたとはいえ、67m70を持つケルシー・リー・バーバー(豪州)や経験豊富なリナ・ミュゼ(ラトビア)、東京五輪入賞者もいる。そして何と言っても世界記録72m28を持つバルボラ・シュポターコヴァ(チェコ)の名も。そんな中でも臆することはない。それどころか「ほとんど知っている選手ばかりで特別感はありませんでした。知り合いが増えて試合はやりやすくなっています」と北口。世界トップスロワーへの階段を一歩ずつ上がっている。
最初のうちは「トラック種目が行われていたので、やり投の注目度は低かったです」。1回目に61m91を投げると、3回目に63m13をマーク。「思っていなかった」というトップで4回目以降に進んだ。DL特有のルールで、1位から順に投げ始める。ラスト1回に進めるのは上位3人だけの〝ファイナルスリー〟。
「あんまりルールもわからないまま終わりました」と笑い飛ばす。最終投てき。その他の競技はすべてストップして、大型スクリーンにはやり投だけが映し出される。「会場全体が見ている感じがしました」。
北口はただ1人60m超えとなる61m33。日本人が初めてDLの頂点に立った。
「実感はそんなになくて……。出られるのはもちろんうれしくて特別なこと。でも世界選手権もありますし、シーズンの途中で一つの試合に勝った印象です」
スタンドにいるディヴィッド・シェケラック・コーチの元に駆け寄ると、地元の観客が写真撮影やサインを求めて列ができる。「日本ではあまり見られない光景。国内でもそんなふうになればいいなって思います」。目の肥えたフランスの陸上ファンに、『Kitaguchi Haruka』の名が深く刻み込まれた。きっと2年後の夏まで覚えている。
東京五輪のケガを経て
写真/Mochizuki Jiro(Agence SHOT)
東京五輪で日本人57年ぶりのファイナリストとなった。しかし、予選で3投を要した代
償は大きく、決勝は55m42しか投げられず12位。大会当日に詳しく明かさなかったが、
実は左腹斜筋を肉離れしていた。それも「一歩間違えれば競技生活に支障をきたすと言
われました」というほどの重症。五輪後は治療に専念した。
ウォーキング、ジョギングと徐々に身体を動かし始め、11月にようやく痛みが消えてチ
ェコのシェケラック・コーチの元へ。年末年始には一度帰国し、1月下旬に投てき練習
を再開。2月に再び渡欧した。
「ケガをしたのがいいわけではありませんが、そこでしっかり休めました。ケガにかかわらずシーズン後の休養は大事だなと思います」。本格的なトレーニングができないストレスに耐えながら、北口は黙々と動き続けた。高尾山に登ったり、山の中を走ったり。その積み上げは、後になって成果が現れる。
この続きは2022年7月12日発売の『月刊陸上競技8月号』をご覧ください。
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パリでDL初制覇の大偉業
日本選手権を62m25で連覇した2日後、北口榛花(JAL)は機上の人となった。 「ダイヤモンドリーグ(DL)パリ大会に出る予定です。目標としていた大会の一つ。きっと満員のスタンドになります。緊張とワクワクがすごいです」 6月14日にチェコで行われたコンチネンタルツアー・ブロンズの大会に出場して61m97で優勝。迎えた4日後のフランス・パリで快挙を成し遂げる。もっとも、北海道・旭川東高3年時に世界ユース選手権を制覇している北口。いつかはこの日が来てもおかしくはなかった。 「観客席は空席もなくて、日本では考えられないくらい大盛り上がり。とにかく歓声がすごくて、近くに遊園地でもあるのかなと思うくらいでした」 世界のトップ選手だけが立てる舞台。有力選手数人が出場を見送っていたとはいえ、67m70を持つケルシー・リー・バーバー(豪州)や経験豊富なリナ・ミュゼ(ラトビア)、東京五輪入賞者もいる。そして何と言っても世界記録72m28を持つバルボラ・シュポターコヴァ(チェコ)の名も。そんな中でも臆することはない。それどころか「ほとんど知っている選手ばかりで特別感はありませんでした。知り合いが増えて試合はやりやすくなっています」と北口。世界トップスロワーへの階段を一歩ずつ上がっている。 最初のうちは「トラック種目が行われていたので、やり投の注目度は低かったです」。1回目に61m91を投げると、3回目に63m13をマーク。「思っていなかった」というトップで4回目以降に進んだ。DL特有のルールで、1位から順に投げ始める。ラスト1回に進めるのは上位3人だけの〝ファイナルスリー〟。 「あんまりルールもわからないまま終わりました」と笑い飛ばす。最終投てき。その他の競技はすべてストップして、大型スクリーンにはやり投だけが映し出される。「会場全体が見ている感じがしました」。 北口はただ1人60m超えとなる61m33。日本人が初めてDLの頂点に立った。 「実感はそんなになくて……。出られるのはもちろんうれしくて特別なこと。でも世界選手権もありますし、シーズンの途中で一つの試合に勝った印象です」 スタンドにいるディヴィッド・シェケラック・コーチの元に駆け寄ると、地元の観客が写真撮影やサインを求めて列ができる。「日本ではあまり見られない光景。国内でもそんなふうになればいいなって思います」。目の肥えたフランスの陸上ファンに、『Kitaguchi Haruka』の名が深く刻み込まれた。きっと2年後の夏まで覚えている。東京五輪のケガを経て
写真/Mochizuki Jiro(Agence SHOT) 東京五輪で日本人57年ぶりのファイナリストとなった。しかし、予選で3投を要した代 償は大きく、決勝は55m42しか投げられず12位。大会当日に詳しく明かさなかったが、 実は左腹斜筋を肉離れしていた。それも「一歩間違えれば競技生活に支障をきたすと言 われました」というほどの重症。五輪後は治療に専念した。 ウォーキング、ジョギングと徐々に身体を動かし始め、11月にようやく痛みが消えてチ ェコのシェケラック・コーチの元へ。年末年始には一度帰国し、1月下旬に投てき練習 を再開。2月に再び渡欧した。 「ケガをしたのがいいわけではありませんが、そこでしっかり休めました。ケガにかかわらずシーズン後の休養は大事だなと思います」。本格的なトレーニングができないストレスに耐えながら、北口は黙々と動き続けた。高尾山に登ったり、山の中を走ったり。その積み上げは、後になって成果が現れる。 この続きは2022年7月12日発売の『月刊陸上競技8月号』をご覧ください。
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