HOME バックナンバー
Road to OREGON22 北口榛花 力を出し切った先に待つ景色は。
Road to OREGON22 北口榛花 力を出し切った先に待つ景色は。

大阪で日本一になってすぐ、落ち着く間もなく女子やり投の北口榛花(JAL)はヨーロッパへ渡った。〝第二の故郷〟チェコで1戦した後に向かったフランス・パリ。そこでダイヤモンドリーグ日本人初優勝を果たした。シニアの世界大会はオレゴン世界選手権が3回目。ドーハでも東京でも涙を流した。もちろん米国でもうれしければ笑い、悔しければ泣くだろう。結果はどうなるかわからないが、これまでと違うのは「力を出し切る」という一本の軸があること。すべての経験が世界一を目指すやり投人生の糧となる。
文/向永拓史

パリでDL初制覇の大偉業

日本選手権を62m25で連覇した2日後、北口榛花(JAL)は機上の人となった。

「ダイヤモンドリーグ(DL)パリ大会に出る予定です。目標としていた大会の一つ。きっと満員のスタンドになります。緊張とワクワクがすごいです」

6月14日にチェコで行われたコンチネンタルツアー・ブロンズの大会に出場して61m97で優勝。迎えた4日後のフランス・パリで快挙を成し遂げる。もっとも、北海道・旭川東高3年時に世界ユース選手権を制覇している北口。いつかはこの日が来てもおかしくはなかった。

「観客席は空席もなくて、日本では考えられないくらい大盛り上がり。とにかく歓声がすごくて、近くに遊園地でもあるのかなと思うくらいでした」

広告の下にコンテンツが続きます

世界のトップ選手だけが立てる舞台。有力選手数人が出場を見送っていたとはいえ、67m70を持つケルシー・リー・バーバー(豪州)や経験豊富なリナ・ミュゼ(ラトビア)、東京五輪入賞者もいる。そして何と言っても世界記録72m28を持つバルボラ・シュポターコヴァ(チェコ)の名も。そんな中でも臆することはない。それどころか「ほとんど知っている選手ばかりで特別感はありませんでした。知り合いが増えて試合はやりやすくなっています」と北口。世界トップスロワーへの階段を一歩ずつ上がっている。

最初のうちは「トラック種目が行われていたので、やり投の注目度は低かったです」。1回目に61m91を投げると、3回目に63m13をマーク。「思っていなかった」というトップで4回目以降に進んだ。DL特有のルールで、1位から順に投げ始める。ラスト1回に進めるのは上位3人だけの〝ファイナルスリー〟。

「あんまりルールもわからないまま終わりました」と笑い飛ばす。最終投てき。その他の競技はすべてストップして、大型スクリーンにはやり投だけが映し出される。「会場全体が見ている感じがしました」。

北口はただ1人60m超えとなる61m33。日本人が初めてDLの頂点に立った。

「実感はそんなになくて……。出られるのはもちろんうれしくて特別なこと。でも世界選手権もありますし、シーズンの途中で一つの試合に勝った印象です」

スタンドにいるディヴィッド・シェケラック・コーチの元に駆け寄ると、地元の観客が写真撮影やサインを求めて列ができる。「日本ではあまり見られない光景。国内でもそんなふうになればいいなって思います」。目の肥えたフランスの陸上ファンに、『Kitaguchi Haruka』の名が深く刻み込まれた。きっと2年後の夏まで覚えている。

東京五輪のケガを経て

写真/Mochizuki Jiro(Agence SHOT)

東京五輪で日本人57年ぶりのファイナリストとなった。しかし、予選で3投を要した代
償は大きく、決勝は55m42しか投げられず12位。大会当日に詳しく明かさなかったが、
実は左腹斜筋を肉離れしていた。それも「一歩間違えれば競技生活に支障をきたすと言
われました」というほどの重症。五輪後は治療に専念した。

ウォーキング、ジョギングと徐々に身体を動かし始め、11月にようやく痛みが消えてチ
ェコのシェケラック・コーチの元へ。年末年始には一度帰国し、1月下旬に投てき練習
を再開。2月に再び渡欧した。

「ケガをしたのがいいわけではありませんが、そこでしっかり休めました。ケガにかかわらずシーズン後の休養は大事だなと思います」。本格的なトレーニングができないストレスに耐えながら、北口は黙々と動き続けた。高尾山に登ったり、山の中を走ったり。その積み上げは、後になって成果が現れる。

この続きは2022年7月12日発売の『月刊陸上競技8月号』をご覧ください。

 

※インターネットショップ「BASE」のサイトに移動します
郵便振替で購入する
定期購読はこちらから

大阪で日本一になってすぐ、落ち着く間もなく女子やり投の北口榛花(JAL)はヨーロッパへ渡った。〝第二の故郷〟チェコで1戦した後に向かったフランス・パリ。そこでダイヤモンドリーグ日本人初優勝を果たした。シニアの世界大会はオレゴン世界選手権が3回目。ドーハでも東京でも涙を流した。もちろん米国でもうれしければ笑い、悔しければ泣くだろう。結果はどうなるかわからないが、これまでと違うのは「力を出し切る」という一本の軸があること。すべての経験が世界一を目指すやり投人生の糧となる。 文/向永拓史

パリでDL初制覇の大偉業

日本選手権を62m25で連覇した2日後、北口榛花(JAL)は機上の人となった。 「ダイヤモンドリーグ(DL)パリ大会に出る予定です。目標としていた大会の一つ。きっと満員のスタンドになります。緊張とワクワクがすごいです」 6月14日にチェコで行われたコンチネンタルツアー・ブロンズの大会に出場して61m97で優勝。迎えた4日後のフランス・パリで快挙を成し遂げる。もっとも、北海道・旭川東高3年時に世界ユース選手権を制覇している北口。いつかはこの日が来てもおかしくはなかった。 「観客席は空席もなくて、日本では考えられないくらい大盛り上がり。とにかく歓声がすごくて、近くに遊園地でもあるのかなと思うくらいでした」 世界のトップ選手だけが立てる舞台。有力選手数人が出場を見送っていたとはいえ、67m70を持つケルシー・リー・バーバー(豪州)や経験豊富なリナ・ミュゼ(ラトビア)、東京五輪入賞者もいる。そして何と言っても世界記録72m28を持つバルボラ・シュポターコヴァ(チェコ)の名も。そんな中でも臆することはない。それどころか「ほとんど知っている選手ばかりで特別感はありませんでした。知り合いが増えて試合はやりやすくなっています」と北口。世界トップスロワーへの階段を一歩ずつ上がっている。 最初のうちは「トラック種目が行われていたので、やり投の注目度は低かったです」。1回目に61m91を投げると、3回目に63m13をマーク。「思っていなかった」というトップで4回目以降に進んだ。DL特有のルールで、1位から順に投げ始める。ラスト1回に進めるのは上位3人だけの〝ファイナルスリー〟。 「あんまりルールもわからないまま終わりました」と笑い飛ばす。最終投てき。その他の競技はすべてストップして、大型スクリーンにはやり投だけが映し出される。「会場全体が見ている感じがしました」。 北口はただ1人60m超えとなる61m33。日本人が初めてDLの頂点に立った。 「実感はそんなになくて……。出られるのはもちろんうれしくて特別なこと。でも世界選手権もありますし、シーズンの途中で一つの試合に勝った印象です」 スタンドにいるディヴィッド・シェケラック・コーチの元に駆け寄ると、地元の観客が写真撮影やサインを求めて列ができる。「日本ではあまり見られない光景。国内でもそんなふうになればいいなって思います」。目の肥えたフランスの陸上ファンに、『Kitaguchi Haruka』の名が深く刻み込まれた。きっと2年後の夏まで覚えている。

東京五輪のケガを経て

写真/Mochizuki Jiro(Agence SHOT) 東京五輪で日本人57年ぶりのファイナリストとなった。しかし、予選で3投を要した代 償は大きく、決勝は55m42しか投げられず12位。大会当日に詳しく明かさなかったが、 実は左腹斜筋を肉離れしていた。それも「一歩間違えれば競技生活に支障をきたすと言 われました」というほどの重症。五輪後は治療に専念した。 ウォーキング、ジョギングと徐々に身体を動かし始め、11月にようやく痛みが消えてチ ェコのシェケラック・コーチの元へ。年末年始には一度帰国し、1月下旬に投てき練習 を再開。2月に再び渡欧した。 「ケガをしたのがいいわけではありませんが、そこでしっかり休めました。ケガにかかわらずシーズン後の休養は大事だなと思います」。本格的なトレーニングができないストレスに耐えながら、北口は黙々と動き続けた。高尾山に登ったり、山の中を走ったり。その積み上げは、後になって成果が現れる。 この続きは2022年7月12日発売の『月刊陸上競技8月号』をご覧ください。  
※インターネットショップ「BASE」のサイトに移動します
郵便振替で購入する 定期購読はこちらから

次ページ:

       

RECOMMENDED おすすめの記事

    

Ranking 人気記事ランキング 人気記事ランキング

Latest articles 最新の記事

2025.04.30

水戸招待のエントリー発表! 棒高跳に柄澤智哉、山本聖途、諸田実咲ら男女トップ集結 戸邉直人、城山正太郎も出場予定

5月5日に行われる日本グランプリシリーズ第7戦「2025水戸招待陸上」のエントリー選手が発表された。男子棒高跳には東京五輪代表の山本聖途(トヨタ自動車)、江島雅紀(富士通)や世界選手権代表経験のある柄澤智哉(東京陸協)ら […]

NEWS 【連載】上田誠仁コラム雲外蒼天/第56回「昭和100年とスポーツ用具の進化」

2025.04.30

【連載】上田誠仁コラム雲外蒼天/第56回「昭和100年とスポーツ用具の進化」

山梨学大の上田誠仁顧問の月陸Online特別連載コラム。これまでの経験や感じたこと、想いなど、心のままに綴っていただきます! 第56回「昭和100年とスポーツ用具の進化」 昨年は記念大会となる第100回箱根駅伝が開催され […]

NEWS 【高校生FOCUS】男子競歩・山田大智(西脇工高)インターハイで昨夏の雪辱誓う 高校記録更新にも挑戦

2025.04.30

【高校生FOCUS】男子競歩・山田大智(西脇工高)インターハイで昨夏の雪辱誓う 高校記録更新にも挑戦

FOCUS! 高校生INTERVIEW 山田大智 Yamada Daichi 西脇工高3兵庫 2025年シーズンが本格的に始まり、高校陸上界では記録会、競技会が次々と開かれています。その中で好記録も生まれており、男子50 […]

NEWS 5.3静岡国際、パリ五輪代表の坂井隆一郎、200m世界陸上標準突破の水久保漱至らが欠場

2025.04.30

5.3静岡国際、パリ五輪代表の坂井隆一郎、200m世界陸上標準突破の水久保漱至らが欠場

5月3日に行われる静岡国際のエントリーリストが更新され、現時点で欠場届を提出した選手が判明した。 男子100mはパリ五輪代表の坂井隆一郎(大阪ガス)が欠場。坂井は4月13日の出雲陸上で脚を痛め、29日の織田記念の出場も見 […]

NEWS 26年ブダペスト開催の「世界陸上アルティメット選手権」やり投・北口榛花が出場権獲得

2025.04.30

26年ブダペスト開催の「世界陸上アルティメット選手権」やり投・北口榛花が出場権獲得

世界陸連(WA)は4月29日、2026年に新設する「世界陸上アルティメット選手権」の大会500日前を受け、昨年のパリ五輪の金メダリストに出場資格を与えることを発表した。女子やり投で金メダルを獲得した北口榛花(JAL)も含 […]

SNS

Latest Issue 最新号 最新号

2025年4月号 (3月14日発売)

2025年4月号 (3月14日発売)

東京世界選手権シーズン開幕特集
Re:Tokyo25―東京世界陸上への道―
北口榛花(JAL) 
三浦龍司(SUBARU)
赤松諒一×真野友博
豊田 兼(トヨタ自動車)×高野大樹コーチ
Revenge
泉谷駿介(住友電工)

page top