2024.12.22
絶体絶命の予選会を乗り越え――
迎えた今年度の箱根駅伝予選会。フリーで走る宮本、中野蒼心(3年)以外の10人を率いる集団走のリーダー役として酒井は抜擢された。「壮絶というか、自分も通過したことが驚き。暑かったしきつかったです」。中野駅伝監督は「今回予選会を通過できたのは、酒井がうまく集団をコントロールしてくれたことが一番の要因」と酒井のリーダーシップを絶賛した。
どんなコントロールだったのか。「本当は15kmまで引っ張りたかったのですが、暑さもあり10kmくらいで志食隆希(3年)に『代わって!』と交代してもらいました。そこで一回休憩できたのがよかったのかなと思います」。元々酒井のサポート役として志食か、新妻玲旺(2年)が引っ張りを代わる想定だったが、新妻は厳しい状況だった。
想定外だったのが、フリーで前方を走っていた中野が「12km地点で落ちて来たこと」。ただ、他大学も落ちていることに気づいていたのが西坂昂也(3年)。「焦らなくても大丈夫だよ」と酒井に声をかけた。酷暑の中で走りながらも通じ合ったチーム内のコミュニケーション。17㎞過ぎの折り返し地点では、余裕を取り戻した酒井も仲間へすれ違いざまに声を掛けた。10位争いは混沌としていたが、結果的に10位順大を最後の3㎞で2分引き離した。
ただ、最大の想定外は、チームの先頭を走っていた宮本がゴールしていなかったことだ。酒井は「自分がチームトップと聞いて驚き、やばいと思いました」。沿道にいたチーム関係者のグループラインでは『宮本途中棄権』の情報はすぐに回ったが、走っている選手には伝わっていなかった。無事総合9位で箱根路が決まると、酒井は胸をなでおろした。
本戦では1~3区を希望する。全日本では2区で区間16位。「他校のエースとの差を感じて悔しい駅伝でした。箱根では自分が流れをつかめるような走りをしたい」。競り合っていたら絶対に離れず、追いかけ粘ってラストは上げる――。「今回は前回みたいに強い選手がいないので、全員駅伝で他校にチャレンジしてシード権を取りたい」。力を出し切れなかった昨年の4年生たちへ、感謝の思いを少しでも返したいという気持ちもある。
神奈川大OBの兄、一さんとは試合が終わるたびに連絡を取る。市民ランナーでもあることからシューズについてアドバイスしたりもするという。「新体制になって1年目の勝負。どれだけ戦えるか楽しみだし、次の年にもつなげたい」。1月3日、全力を出し切ったプラウドブルーの中心に、きっと酒井の笑顔がある。

101回大会予選会ではチームトップの41位だった
さかい・けんせい/2003年10月20日生まれ。愛知県豊田市出身。愛知・上郷中→愛知高。5000m13分56秒62、10000m28分50秒21、ハーフ1時間4分20秒
文/荒井寛太
自分が神奈川大を引っ張る
第100回箱根駅伝。神奈川大のアンカー10区を務めたのが酒井健成(3年)だ。復路のレース中に大後栄治・前駅伝監督の勇退が発表され、酒井は35年間指揮を執った大後氏の下で箱根路を走る最後のランナーとなった。 「酒井いけ!」 いつもはあまり叫ばないという大後監督が、後方の運営管理者から大声で叫んだ。「あんなに叫んでもらえてうれしかった」。ラスト1㎞はハムストリングスをつりながらも区間8位で走り切った。4年生が10人中7人を占めたチームは、12月に故障や体調不良が続出し、総合21位。「とても悔しい順位。来季は自分自身が主力として、全種目で自己ベストを出してチームのエースになる」。自分が神奈川大を引っ張る覚悟が芽生えた箱根路だった。 中野剛駅伝監督の「1月3日で終われるチームになろう」という一言から新チームが始動した。酒井は冬場に実業団合宿に参加するなど走り込んだが、目下の課題は10000mの上位8人のタイムを上げることだった。 小林篤貴(現・NTN)や宇津野篤(現・マツダ)ら10000m28分台を持っていた主力が大量に卒業。神奈川大は6月に控えていた全日本大学駅伝関東地区選考会の参加資格となる上位20校に入るかどうか微妙な情勢だった。 酒井の10000m自己記録はその時点で29分24秒14。5月の関東インカレ2部10000mタイムレース1組目に出場した酒井。「自分と宮本(陽叶、3年)が1秒でも自己ベストを出さないと」。ペースが遅いと判断すると、4000mから8000mまで国立競技場を実に10周、1人でレースを引っ張った。 結果は29分36秒60と自己ベストには届かなかったが、酒井の引っ張る姿勢はすでにチームに伝わっていた。神奈川大は17番目のタイムで選考会出場権を得た。劣勢が予想されていた選考会ではギリギリ7位で見事伊勢路行きも決めた。 愛知県豊田市生まれ。長兄が10歳上、次兄が7歳上におり、祖父が運営していた陸上クラブに兄たちを追いかけ幼稚園の頃から遊び感覚で走っていた。上郷中で陸上部に入ると、1500mの自己記録は県通信で出した4分17秒41だった。 愛知高に進むと、学年が上がるごとに5000mの記録は伸びた。インターハイ路線には絡めず、県高校駅伝は豊川高と名経大高蔵高の壁に阻まれ3年連続3位だったが、「チームの主将代理という肩の荷が下りて、調子も良かった」という12月の日体大記録会5000mで14分25秒13をマークした。 鈴木健吾(現・富士通)の2学年上だった長兄の一(はじめ)さんが神奈川大の副務を務めていたこともあり、兄を追いかけ神奈川大に進んだ。入学後は夏からAチーム入りし、順調に力をつける。3年生となり、7月の関東学連網走記録挑戦会10000mで28分50秒21をマーク。精力的に夏合宿もこなした。絶体絶命の予選会を乗り越え――
迎えた今年度の箱根駅伝予選会。フリーで走る宮本、中野蒼心(3年)以外の10人を率いる集団走のリーダー役として酒井は抜擢された。「壮絶というか、自分も通過したことが驚き。暑かったしきつかったです」。中野駅伝監督は「今回予選会を通過できたのは、酒井がうまく集団をコントロールしてくれたことが一番の要因」と酒井のリーダーシップを絶賛した。 どんなコントロールだったのか。「本当は15kmまで引っ張りたかったのですが、暑さもあり10kmくらいで志食隆希(3年)に『代わって!』と交代してもらいました。そこで一回休憩できたのがよかったのかなと思います」。元々酒井のサポート役として志食か、新妻玲旺(2年)が引っ張りを代わる想定だったが、新妻は厳しい状況だった。 想定外だったのが、フリーで前方を走っていた中野が「12km地点で落ちて来たこと」。ただ、他大学も落ちていることに気づいていたのが西坂昂也(3年)。「焦らなくても大丈夫だよ」と酒井に声をかけた。酷暑の中で走りながらも通じ合ったチーム内のコミュニケーション。17㎞過ぎの折り返し地点では、余裕を取り戻した酒井も仲間へすれ違いざまに声を掛けた。10位争いは混沌としていたが、結果的に10位順大を最後の3㎞で2分引き離した。 ただ、最大の想定外は、チームの先頭を走っていた宮本がゴールしていなかったことだ。酒井は「自分がチームトップと聞いて驚き、やばいと思いました」。沿道にいたチーム関係者のグループラインでは『宮本途中棄権』の情報はすぐに回ったが、走っている選手には伝わっていなかった。無事総合9位で箱根路が決まると、酒井は胸をなでおろした。 本戦では1~3区を希望する。全日本では2区で区間16位。「他校のエースとの差を感じて悔しい駅伝でした。箱根では自分が流れをつかめるような走りをしたい」。競り合っていたら絶対に離れず、追いかけ粘ってラストは上げる――。「今回は前回みたいに強い選手がいないので、全員駅伝で他校にチャレンジしてシード権を取りたい」。力を出し切れなかった昨年の4年生たちへ、感謝の思いを少しでも返したいという気持ちもある。 神奈川大OBの兄、一さんとは試合が終わるたびに連絡を取る。市民ランナーでもあることからシューズについてアドバイスしたりもするという。「新体制になって1年目の勝負。どれだけ戦えるか楽しみだし、次の年にもつなげたい」。1月3日、全力を出し切ったプラウドブルーの中心に、きっと酒井の笑顔がある。 [caption id="attachment_156356" align="alignnone" width="900"]
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