アディダス社が主催する「ADIZERO ROAD TO RECORDS」が4月27日、同社本社敷地内に特設された1周約1.3kmのコースで開催された。
コロナ禍だった2021年、大会がなくなった選手たちのために本社内にコースを作り、「記録」にチャレンジするレースを創設したのがこの大会の始まり。第1回大会で女子の10kmと5kmの世界新記録(いずれも当時)が誕生したのを皮切りに、昨年までの3回で歴代上位の好記録がいくつも誕生した。
そして、今年の大会では初実施だった男子1マイルでエマニュエル・ワニョニイ(ケニア)が3分54秒50の世界新記録を樹立し、会場を大いに沸かせた。
そんな世界トップ中のトップランナーたちが集った大会に、日本の学生10名が招待されて参加。大会3日前から本社敷地脇のホテルに滞在し、トップ選手たちと食事や生活、トレーニングを垣間見れる環境の中で過ごしている。
得難い時間を経て、10名中9名が5km、残る1人が10kmレースに出場し、世界のスピードにチャレンジした。
存在感を示したのが國學院大勢だ。2年生の後村光星が14分00秒で15位に入り、上原琉翔(3年)と野中恒亨(2年)が14分33秒の同タイムで16位、17位。日本勢1~3位を占めてみせた。
世界トップランナーたちと走り、そのスピード感を経験すること。3人の目的は明確だった。具体的なイメージを示してくれたのが、2年前のこの大会を経験した平林清澄、山本歩夢という4年生たちであり、前田監督からも「世界の経験値をもらってこい」と後押しを受けてきた。
「2年前のこの大会でハーフマラソンに出場した平林さんは『あの試合を経て力がアップした』と言っていましたし、同じ5kmに出場した山本さんからは『海外選手のスピードについていく経験をすることは自分の力になる』と言われました」(上原)
最初の1kmが2分36秒というハイペースにがむしゃらに食らいついたが、2kmを過ぎてからは、先頭集団の背中は遠ざかった。その圧倒的なスピード差の前に、今のレベルでは太刀打ちできるはずもなかっただろう。
だが、國學院大の選手たちは、前半だけでレースを終わらせなかった。日本勢との勝負には快勝。これも、先輩からの言葉が生きている。
「平林さんからは『外国人選手についていくのは経験としてはありだけど、無謀なレースは違う。同じ日本人には最低でも勝ってこよう』と言われていました」と上原が言えば、野中は「歩夢さんから『守ったら何も得るものはないよ』と言われていました」。
平林は今年の大阪マラソンで日本歴代7位、初マラソン日本最高、学生新の2時間6分18秒と激走を見せ、山本も学生トップクラスのランナーとなった。早い段階で「世界」を知ったことで、自らの成長へのつなげた先輩たちが実例としてある。しかも、経験だけで終わらせず、主将からのミッションも達成。「チーム内では、『出たレースは勝ち切る』ことを目指しているので、それを実現できて良かったです」と上原は胸を張る。
上原、野中に30秒以上の差をつけて日本人トップに輝いた後村も、「今まで経験したことのないスピードで3km付近までいけました。もっといけそうな手応えをつかむことができたと思います」と力強く語った。
スパイクのように「スピードを出せる」
國學院大の3選手は、「ADIZERO TAKUMI SEN 10」を着用。「自分史上最速の10kmを目指そう」をコンセプトに、スピードを追求したレーシングシューズだ。 上原は、今年の箱根駅伝でも着用したが、「少し薄底ですが、スピードを出しやすい」感覚があるのだという。 「今はトラックシーズンなので、スパイクからの移行もやりやすかったです。とても反発力があるので、最初の1km、2kmは海外選手のスピードにも対応することができました」 後村も「接地してからの切り返しがすごい。高校の時からこのシリーズを履いていますが、大幅にアップデートされた印象です」と、野中も「トラックシーズンの序盤で身体がまだスピードに慣れていない中ではありましたが、スピードを出しながらも安定して最後まで運んでくれるシューズ」と振り返る。 [caption id="attachment_137160" align="alignnone" width="800"]![](https://www.rikujyokyogi.co.jp/wp-content/uploads/2024/06/DR2_5573_S1iYdm1h.jpg)
(写真/アディダス提供)[/caption] 身体には、今までにないスピードの感覚が刻まれた。そして、レース以外の場面でも貴重な学びがたくさんあった。上原は次のように振り返る。 「出場した選手たちが同じホテルに泊まって、同じように生活をしていたのですが、どの種目の選手たちもここで『記録を狙う』という同じ方向を見ていました。自分がやるべきことをしっかりと把握し、それぞれの力をしっかりと出す。そういったレースに向かう意識の差を感じました」 後村、野中は、大会の雰囲気やそれを支える人たちについて言葉をつなぐ。 「ロードレースだけの大会なのに、近所の人たちも集まってすごく賑やかで、お祭りのような感じ。日本にもこんな大会があってもいいんじゃないかなと、すごく感じました」(後村) 「アディダスの社員の方々、後ろで走っている自分たちにも『まだいける!』『もっと前に行こう!』と応援してくれました。この大会をみんなで作り上げているんだな、ということをすごく感じました」(野中) そして、ドイツで得た経験を、チームにいかに還元していくかが、これからの3人の役割となる。 「今回で得た知識を取り入れて、さらに進化できるようにしていきたい。それを伝えられる選手が3名増えたことは、チームとしていいことだと思います」(上原) 「こういった経験をチームメイトに伝えることで、全体のレベルが上がっていくと思います。日本に帰ったらチームに共有して、意識を高く持ってやっていきたい」(後村) 「こういう経験をさせてもらったからこそ、立ち居振る舞いだtったり、実力だったりを示していかないといけない。チームをもっと下から引き揚げていきたいと思います」(野中) 平林を中心に、勢いの乗る國學院大。さらなる力を得て、その勢いは大きく加速する。 文/小川雅生 ※一部修正しました
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