HOME ニュース、国内

2021.10.31

TWOLAPS横田真人氏が示した走ることの価値と意義 賞金100万円以上の価値があった中距離サーキット
TWOLAPS横田真人氏が示した走ることの価値と意義 賞金100万円以上の価値があった中距離サーキット

◇ミドルディスタンスサーキット東京大会(10月30日/東京・駒沢)

広告の下にコンテンツが続きます

つめかけた1000人ほどの観客が息をのんで東京五輪代表の田中希実(豊田自動織機TC)と卜部蘭(積水化学)のデッドヒートを見届ける。フィニッシュラインを超えると爆発音とともに煙が吹き出す。スタンドや特別シートとしてトラック脇にいた観客は笑顔で大きな拍手を送る。

男子800m元日本記録保持者でロンドン五輪代表の横田真人氏がコーチを務める中長距離専門のクラブ「TWOLAPS」が企画・運営を手がけた中距離特化のサーキット「TWOLAPS MIDDLE DISTANCE CIRCUIT」。8月20日の大阪、9月23日の福島と続いてきた大会も、この日の東京がファイナルステージとなった。各大会の予選を勝ち抜いた選手たちとバーチャルレースによって決定した「ファイナリスト」によって、男女1000mの“決勝戦”が行われた。優勝賞金は100万円。ロードレースを除く国内最高額だ。

「なんでこれまで賞金レースがなかったのか」。横田氏はこう続ける。「僕らが思い描いている陸上を、壊していかないといけない。大会はこうでないといけない。賞金は見せてはいけないもの。そうではなく、変わらないと」。陸上界を変えたい、変えなければ。これまで次々と新しい挑戦を続けてきた横田氏が仕掛けたのが、中距離サーキットだった。『賞金100万円』のインパクトは大きく、トップランナーが出場。SNSを活用して注目度を高め、大阪大会から発煙の演出など、これまで海外でしか見られなかったかたちのレースができあがった。

「誰に向けて競技をするのかが大事で、僕も含めてその考えがあったのか」。観客と一体になって、楽しんでもらうためにどうするべきか。レース後、スタンドにサイン入りタオルを『バズーカ砲』を使って投げ込む演出もあった。表彰式では金色のテープが空に向かって放たれる。いずれもアイドルのライブで見かけるもの。『魅せる』という意識でどれだけの競技会が行われているか。日本選手権でさえ空席が目立つ陸上界に、一石を投じる思いもあった。

それでも、東京五輪イヤーに、MVP級の活躍を見せた田中が参戦する大会でも、1000人を集めるのがやっとという現状もある。「SNSのような“空中戦”だけではダメで、選手がファンとコミュニケーションを取らないといけない。選手一人ひとりが、競技場に足を運んでもらえるような魅せ方ができているか、走りができているのか。僕らもそうで、(練習拠点としている)世田谷のみなさんに『来てもらう』だけじゃなく、自分から行かないと。Jリーグは商店街に行って活動していますよね。どれだけ地味にやっていけるか。そのためには『競技力』『競技結果』だけではダメなんです」と、自戒を含めて横田氏は語る。

広告の下にコンテンツが続きます

この日集まった観客、ボランティアを含めた運営スタッフ、そして選手たちはみな、笑顔だった。最後はリレーをイベントとして実施。市民ランナーも、選手も、スタッフも、東京陸協の競技役員・審判も走った。東京陸協の増田明美会長からバトンを受けたのは横田氏。田中も、卜部もみんなが笑顔でバトンを持って駒沢を走った。走ることの楽しさ、みんなで“つなぐ”ことの達成感――。陸上競技、スポーツの原点があった。

「今回のサーキットで、大会のたびに僕ら運営のコアメンバーも少しずつ成長できました。やり続けていきたいし、チャレンジを続けていきたい」

参加した田中はこう言う。「みんなが走ることを楽しんでいるのが伝わってきました。こういう大会がいろんな選手を育てていくんだろうなって感じました」。将来、各地で、さまざまな種目に特化した『魅せる』競技会が増えたとき、この小さな火種が「はじまりだった」と言われる。そんな時代が来れば、陸上界の景色は大きく違ったものになっているはずだ。

◇ミドルディスタンスサーキット東京大会(10月30日/東京・駒沢) つめかけた1000人ほどの観客が息をのんで東京五輪代表の田中希実(豊田自動織機TC)と卜部蘭(積水化学)のデッドヒートを見届ける。フィニッシュラインを超えると爆発音とともに煙が吹き出す。スタンドや特別シートとしてトラック脇にいた観客は笑顔で大きな拍手を送る。 男子800m元日本記録保持者でロンドン五輪代表の横田真人氏がコーチを務める中長距離専門のクラブ「TWOLAPS」が企画・運営を手がけた中距離特化のサーキット「TWOLAPS MIDDLE DISTANCE CIRCUIT」。8月20日の大阪、9月23日の福島と続いてきた大会も、この日の東京がファイナルステージとなった。各大会の予選を勝ち抜いた選手たちとバーチャルレースによって決定した「ファイナリスト」によって、男女1000mの“決勝戦”が行われた。優勝賞金は100万円。ロードレースを除く国内最高額だ。 「なんでこれまで賞金レースがなかったのか」。横田氏はこう続ける。「僕らが思い描いている陸上を、壊していかないといけない。大会はこうでないといけない。賞金は見せてはいけないもの。そうではなく、変わらないと」。陸上界を変えたい、変えなければ。これまで次々と新しい挑戦を続けてきた横田氏が仕掛けたのが、中距離サーキットだった。『賞金100万円』のインパクトは大きく、トップランナーが出場。SNSを活用して注目度を高め、大阪大会から発煙の演出など、これまで海外でしか見られなかったかたちのレースができあがった。 「誰に向けて競技をするのかが大事で、僕も含めてその考えがあったのか」。観客と一体になって、楽しんでもらうためにどうするべきか。レース後、スタンドにサイン入りタオルを『バズーカ砲』を使って投げ込む演出もあった。表彰式では金色のテープが空に向かって放たれる。いずれもアイドルのライブで見かけるもの。『魅せる』という意識でどれだけの競技会が行われているか。日本選手権でさえ空席が目立つ陸上界に、一石を投じる思いもあった。 それでも、東京五輪イヤーに、MVP級の活躍を見せた田中が参戦する大会でも、1000人を集めるのがやっとという現状もある。「SNSのような“空中戦”だけではダメで、選手がファンとコミュニケーションを取らないといけない。選手一人ひとりが、競技場に足を運んでもらえるような魅せ方ができているか、走りができているのか。僕らもそうで、(練習拠点としている)世田谷のみなさんに『来てもらう』だけじゃなく、自分から行かないと。Jリーグは商店街に行って活動していますよね。どれだけ地味にやっていけるか。そのためには『競技力』『競技結果』だけではダメなんです」と、自戒を含めて横田氏は語る。 この日集まった観客、ボランティアを含めた運営スタッフ、そして選手たちはみな、笑顔だった。最後はリレーをイベントとして実施。市民ランナーも、選手も、スタッフも、東京陸協の競技役員・審判も走った。東京陸協の増田明美会長からバトンを受けたのは横田氏。田中も、卜部もみんなが笑顔でバトンを持って駒沢を走った。走ることの楽しさ、みんなで“つなぐ”ことの達成感――。陸上競技、スポーツの原点があった。 「今回のサーキットで、大会のたびに僕ら運営のコアメンバーも少しずつ成長できました。やり続けていきたいし、チャレンジを続けていきたい」 参加した田中はこう言う。「みんなが走ることを楽しんでいるのが伝わってきました。こういう大会がいろんな選手を育てていくんだろうなって感じました」。将来、各地で、さまざまな種目に特化した『魅せる』競技会が増えたとき、この小さな火種が「はじまりだった」と言われる。そんな時代が来れば、陸上界の景色は大きく違ったものになっているはずだ。

次ページ:

       

RECOMMENDED おすすめの記事

    

Ranking 人気記事ランキング 人気記事ランキング

Latest articles 最新の記事

2024.05.06

【高平慎士の視点】男子4×100m、4×400m「収穫ある4位」五輪シードレーン獲得、後手に回ってメダル争いの価値/世界リレー

バハマ・ナッソーで開催された2024世界リレー(5月4日、5日/日本時間5日、6日)で男子の4×100mと4×400mがパリ五輪出場権を獲得した。初日の予選で、4×100mは38秒10で1着通過して五輪切符を決めると、決 […]

NEWS ダイヤモンドリーグ・ドーハに三浦龍司、田中希実、ディーン元気がエントリー!

2024.05.06

ダイヤモンドリーグ・ドーハに三浦龍司、田中希実、ディーン元気がエントリー!

5月10日に行われるダイヤモンドリーグ(DL)ドーハ大会のエントリーリストが発表された。 男子3000m障害に日本記録保持者の三浦龍司(SUBARU)が登録。世界記録保持者のラメチャ・ギルマ(エチオピア)、ブダペスト世界 […]

NEWS 男子は銭海峰が1時間19分05秒でトップ 女子はベテラン・劉虹が快勝/WA競歩ツアー

2024.05.06

男子は銭海峰が1時間19分05秒でトップ 女子はベテラン・劉虹が快勝/WA競歩ツアー

5月5日、世界陸連(WA)競歩ツアー・ゴールドのコルゼニフスキ・ワルシャワ競歩カップがポーランドで開催され、男子20km競歩では銭海峰(中国)が1時間19分05秒で、女子20km競歩はリオ五輪金メダリストの劉虹(中国)が […]

NEWS 米国が4種目を制覇! 男子4×400mはボツワナが2分59秒11で初優勝/世界リレー

2024.05.06

米国が4種目を制覇! 男子4×400mはボツワナが2分59秒11で初優勝/世界リレー

5月4日、5日の両日、バハマ・ナッソーで世界リレーが開催され、米国が5種目中4種目で優勝を飾る圧倒的な強さを見せた。 男子4×100mではアンカーに世界選手権100m王者のN.ライルズを起用。1走から3走も全員が100m […]

NEWS 20km競歩・山西利和がWA競歩ツアーで1時間19分37秒で3位 パリ五輪逃しても力示す

2024.05.06

20km競歩・山西利和がWA競歩ツアーで1時間19分37秒で3位 パリ五輪逃しても力示す

世界陸連(WA)競歩ツアー・ゴールドのコルゼニフスキ・ワルシャワ競歩カップが5月5日にポーランドで開催され、男子20km競歩に、19年ドーハ、22年オレゴンと世界選手権連覇している山西利和(愛知製鋼)が出場。1時間19分 […]

SNS

Latest Issue 最新号 最新号

2024年5月号 (4月12日発売)

2024年5月号 (4月12日発売)

パリ五輪イヤー開幕!

page top