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ALL for TOKYO 2020+1 金井大旺 「ファイナル」という夢を現実に
ALL for TOKYO 2020+1 金井大旺 「ファイナル」という夢を現実に

家業の歯科医を継ぐために、かねてから「競技生活は東京五輪まで」と決めていた男子110mハードルの金井大旺(ミズノ)が、そのラストシーズンに入って一気に加速。4月29日の織田記念で、13秒16(+1.7)という衝撃的な日本新記録(アジア歴代2位)を叩き出した。社会人1年目の2018年には、14年ぶりの日本新となる13秒36(+0.7)をマーク。しばらく止まっていた日本のトッパーの歴史を動かした男が、再び時計の針を高速で進め、「東京五輪のファイナリスト」という壮大な夢を実現可能な域までたぐり寄せた。
●文/小森貞子

日本人初の13秒1台の領域へ

学生時代から金井大旺(ミズノ)を指導する苅部俊二コーチ(法大監督)は、織田記念のレースを観て目を丸くした。

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「(13秒)1台ですからね。ビックリしましたよ。金井とは『標準記録を破れれば』と話していたぐらいで、まさかこんなタイムが出るとは……」

東京五輪の参加標準記録は13秒32。金井は昨年の8月末に福井で行われた「Athlete Night Games in FUKUI」で13秒27(+1. 4)の自己ベストを出しているが、世界的なコロナ禍で標準記録の有効期間が一時中断。暮れの12月1日に再び有効期間に入って、今回初めての突破につながった。

谷川聡(ミズノ/現・筑波大副部長)が2004年のアテネ五輪(予選)で出した13秒39が、永らく日本記録として残っていたこの種目。2018年の日本選手権で金井が止まっていた時計の針を動かし、14年ぶりの日本新(13秒36)を出すと、一転して翌年の6月上旬の布勢スプリントで高山峻野(ゼンリン)が、その4週間後の日本選手権では高山と泉谷駿介(順大)が金井の記録に並ぶ活況。さらに高山は13秒30、13秒25へと日本記録を塗り替えていった。

金井が厚い壁を破ってからの、男子110mハードルの躍進ぶりは目覚ましく、しかも「国内で、記録が拮抗している中でやれているのは、とてもプラスになっている」(金井)と、今、この種目を取り巻く環境は申し分ない。19年のドーハ世界選手権では高山が準決勝で一時トップ争いを演じ、「日本人もやれる」という手応えをつかんだのも確か。金井は予選敗退に終わったが、高山の準決勝をスタンドで観ながら「世界でしっかり戦えることを高山さんが証明してくれた」と、大いに刺激を受けた。

男子110mハードルの世界記録は12秒80で、アリエス・メリット(米国)が2012年に樹立したもの。劉翔(中国)が持つ12秒88のアジア記録はもっと古くて、06年。どんなに足が速い選手でも、10台のハードルを3歩のインターバルで越えていくこの種目には特性があり、苅部コーチの話によると「世界の技術はほぼ完成形に近く、記録は人間の限界に近づいている」そうだ。

〝 発展途上〟の日本がここで世界との差を詰めていく今の図式を考えれば、五輪史上初の決勝進出が現実味を帯びてくる。

「そうですよね。金井も、一段と決勝を見据えた作り方をしていかないと」

苅部コーチは教え子の飛躍を受け止め、改めて身を引き締める。

「大学で辞める」を先延ばし

北海道・函館市のクラブチームで小学校3年の時に陸上を始めた金井だが、函館本通中、函館ラ・サール高では、インターハイで2年連続入賞(2年7位、3年5位)しているものの、全国優勝の経験はない。法大に進んでからも、日本インカレを制したのは4年になってから。ただ、大学生になってすぐ、苅部監督に「1台目までのアプローチを7歩にしたい」と言ってきたのは金井のほうで、「研究熱心な選手」という印象はその頃からあった。

「実は、以前の8歩だと、スタートで前に来る脚が本来(左脚)とは逆脚だったんです。それと僕はストライドを広げて走るのが特長で、8歩だと1台目の入りが窮屈に感じていたので、7歩にはすぐに馴染みました」

金井は大学生になって2ヵ月後のアジア・ジュニア選手権で優勝(U20規格で13秒33の当時ジュニア日本新)している。

話が少しそれるが、ハードルそのものの改良も近頃のレベルアップに貢献しているようだ。フレキシブル・ハードルが普及し、「あのハードルで練習することで、前に身体を傾けながら踏み切れる」と金井は言う。「そういう感覚をそのままレースにつなげる。その点で、道具の進化は感じます」。レースで使用する公認のハードルも以前よりだいぶ軽くなって、「ぶつけたら痛い」という選手の怖さは、かなり軽減されているそうだ。

函館で開業する歯科医の父親を見て「中学生の時から医療に携わりたいと思っていた」と話す金井だが、陸上を続けたくて法大へ進学。当初は「大学で陸上は終わり」と思っていたものの、さらに陸上の道を進み、社会人1年目(2018年)は国体を控えた福井県スポーツ協会でお世話になった。

心境の変化は、東京五輪からの誘いざない。「2020年のオリンピックに出てから辞めよう」と――。

この続きは2021年5月14日発売の『月刊陸上競技6月号』をご覧ください。

 

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家業の歯科医を継ぐために、かねてから「競技生活は東京五輪まで」と決めていた男子110mハードルの金井大旺(ミズノ)が、そのラストシーズンに入って一気に加速。4月29日の織田記念で、13秒16(+1.7)という衝撃的な日本新記録(アジア歴代2位)を叩き出した。社会人1年目の2018年には、14年ぶりの日本新となる13秒36(+0.7)をマーク。しばらく止まっていた日本のトッパーの歴史を動かした男が、再び時計の針を高速で進め、「東京五輪のファイナリスト」という壮大な夢を実現可能な域までたぐり寄せた。 ●文/小森貞子

日本人初の13秒1台の領域へ

学生時代から金井大旺(ミズノ)を指導する苅部俊二コーチ(法大監督)は、織田記念のレースを観て目を丸くした。 「(13秒)1台ですからね。ビックリしましたよ。金井とは『標準記録を破れれば』と話していたぐらいで、まさかこんなタイムが出るとは……」 東京五輪の参加標準記録は13秒32。金井は昨年の8月末に福井で行われた「Athlete Night Games in FUKUI」で13秒27(+1. 4)の自己ベストを出しているが、世界的なコロナ禍で標準記録の有効期間が一時中断。暮れの12月1日に再び有効期間に入って、今回初めての突破につながった。 谷川聡(ミズノ/現・筑波大副部長)が2004年のアテネ五輪(予選)で出した13秒39が、永らく日本記録として残っていたこの種目。2018年の日本選手権で金井が止まっていた時計の針を動かし、14年ぶりの日本新(13秒36)を出すと、一転して翌年の6月上旬の布勢スプリントで高山峻野(ゼンリン)が、その4週間後の日本選手権では高山と泉谷駿介(順大)が金井の記録に並ぶ活況。さらに高山は13秒30、13秒25へと日本記録を塗り替えていった。 金井が厚い壁を破ってからの、男子110mハードルの躍進ぶりは目覚ましく、しかも「国内で、記録が拮抗している中でやれているのは、とてもプラスになっている」(金井)と、今、この種目を取り巻く環境は申し分ない。19年のドーハ世界選手権では高山が準決勝で一時トップ争いを演じ、「日本人もやれる」という手応えをつかんだのも確か。金井は予選敗退に終わったが、高山の準決勝をスタンドで観ながら「世界でしっかり戦えることを高山さんが証明してくれた」と、大いに刺激を受けた。 男子110mハードルの世界記録は12秒80で、アリエス・メリット(米国)が2012年に樹立したもの。劉翔(中国)が持つ12秒88のアジア記録はもっと古くて、06年。どんなに足が速い選手でも、10台のハードルを3歩のインターバルで越えていくこの種目には特性があり、苅部コーチの話によると「世界の技術はほぼ完成形に近く、記録は人間の限界に近づいている」そうだ。 〝 発展途上〟の日本がここで世界との差を詰めていく今の図式を考えれば、五輪史上初の決勝進出が現実味を帯びてくる。 「そうですよね。金井も、一段と決勝を見据えた作り方をしていかないと」 苅部コーチは教え子の飛躍を受け止め、改めて身を引き締める。

「大学で辞める」を先延ばし

北海道・函館市のクラブチームで小学校3年の時に陸上を始めた金井だが、函館本通中、函館ラ・サール高では、インターハイで2年連続入賞(2年7位、3年5位)しているものの、全国優勝の経験はない。法大に進んでからも、日本インカレを制したのは4年になってから。ただ、大学生になってすぐ、苅部監督に「1台目までのアプローチを7歩にしたい」と言ってきたのは金井のほうで、「研究熱心な選手」という印象はその頃からあった。 「実は、以前の8歩だと、スタートで前に来る脚が本来(左脚)とは逆脚だったんです。それと僕はストライドを広げて走るのが特長で、8歩だと1台目の入りが窮屈に感じていたので、7歩にはすぐに馴染みました」 金井は大学生になって2ヵ月後のアジア・ジュニア選手権で優勝(U20規格で13秒33の当時ジュニア日本新)している。 話が少しそれるが、ハードルそのものの改良も近頃のレベルアップに貢献しているようだ。フレキシブル・ハードルが普及し、「あのハードルで練習することで、前に身体を傾けながら踏み切れる」と金井は言う。「そういう感覚をそのままレースにつなげる。その点で、道具の進化は感じます」。レースで使用する公認のハードルも以前よりだいぶ軽くなって、「ぶつけたら痛い」という選手の怖さは、かなり軽減されているそうだ。 函館で開業する歯科医の父親を見て「中学生の時から医療に携わりたいと思っていた」と話す金井だが、陸上を続けたくて法大へ進学。当初は「大学で陸上は終わり」と思っていたものの、さらに陸上の道を進み、社会人1年目(2018年)は国体を控えた福井県スポーツ協会でお世話になった。 心境の変化は、東京五輪からの誘いざない。「2020年のオリンピックに出てから辞めよう」と――。 この続きは2021年5月14日発売の『月刊陸上競技6月号』をご覧ください。  
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