◇東京世界陸上(9月13日~21日/国立競技場) 8日目
東京世界陸上8日目のイブニングセッションが行われ、女子5000mで4大会連続となる決勝に挑んだ田中希実(New Balance)は、15分07秒34の12位でレースを終えた。
18日の予選は、レース半ばまで集団を引っ張った山本有真(積水化学)の背後につき、後半は自らペースを上げて5着で通過した。「有真ちゃんの力を借りた」のは事実だが、田中は「引っ張ってもらったから予選を突破したとは思われたくなかった」。だからこそ「今日は自分の実力を試したかった」。
実力を試すために重要なのは、「決勝で1番自分が楽しく、自分らしく走る」こと。「ハイペースにぶら下がり、粘り抜く」という自身の得意な展開に持ち込みたかった。
「自分がレースプランを立てて、それを遂行するというより、ハイペースになることが予想されていたので、私が1番好きで1番楽しめる、後ろの方から選手を拾っていく走りを想像していました」
そんな田中の思惑は外れ、先頭は1000mを3分17秒13、2000mを6分19秒94とスローペースで通過。しかし、「ずっと後ろにいてそのまま離されて、何だったんだろうと思われるのが嫌だった」と、3000mを過ぎてペースアップしつつあった集団の中で少しずつ順位を上げていく。
そして、勝負のラスト1000mへ。田中は「絶対に引かない」と、残り2周の時点で3位につけ、メダルがちらついたが、「最後はヘナヘナになってしまった」。7位で迎えた残り1周では、「(脚が)重いと思った瞬間、動かなくなった」とバックストレートで入賞圏内からこぼれ落ち、最後は12位まで順位を落とした。
「反省の余地がないというか、完敗でした。ああすれば良かった、こうすれば良かったというのがないぐらいの力負けです。自分の実力が追いついていないことを受け入れるしかありません」。そう話した田中だが、すべてがうまく行かなかったわけではない。
「今シーズンは強くなりたいと思うほどに、理屈にとらわれて、走る前からダメだった場合のことを考えることが多かった。『ダメでもまた前を向こう』などと思っている時点でダメ。でも、今日は『メダルを取ったらどうしよう』と考えて、自分の可能性を感じながらスタートラインに立つことができ、それを最後の1周まで感じられたのは清々しかったです」
レース後、田中の口からはポジティブな言葉が出たかと思えば、反省点が語られ、それが行ったり来たりと禅問答のように繰り返された。自身の中で今回の走りや結果をどう捉えるべきか、整理しかねているようだったが、それもまた独特な感性でトップアスリートとしての道を切り開いてきた田中らしかった。
文/小野哲史
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