2025.05.19
5月18日に東京・国立競技場で行われたセイコーゴールデングランプリの男子100mは栁田大輝(東洋大)がサードベストの10秒06(+1.1)で優勝した。2008年北京五輪男子4×100mリレー銀メダリストの高平慎士さん(富士通一般種目ブロック長)に、レースを振り返ったもらった。
◇ ◇ ◇
海外勢が、今大会がシーズンインだったり、シーズンイン直後だったりとまだまだギアが入っていない選手が散見され、メンバーがそろう割には大会全体として記録が出る空気感が作り切れなかったように感じました。その中で、男子100mは日本選手権の準決勝から決勝というレベル感のトップ選手が集まり、チャレンジレースから「しっかりと戦わないと飲み込まれる」というような緊張感がありました。
そのレースを勝ち切った栁田大輝選手は、そのポテンシャルをこういう場で発揮できたことは素晴らしいと思います。2019年ドーハ世界選手権金メダルのクリスチャン・コールマン選手(米国)をはじめ、前半に強い選手がいた中でも、自分のやるべきことをしっかりとできていた。加速もできていたし、中間疾走もいい形でもってこられていました。終盤は動きが少しばらけてオーバーストライドになった印象ですが、完全に減速していたわけではない。“栁田選手の100m”を作れたのかなと感じます。
もちろん、狙っていたのは東京世界選手権の参加標準記録(10秒00)でしょうから、これで納得する選手ではないでしょう。チャレンジレースは10秒20(+1.1)で全体の5番目と、ギリギリの通過。世界大会では1本目からしっかりと走らないといけないことを考えると、課題を持って臨んだ決勝だと思います。それでも、予選から人が変わったような走りをドンッと出せるところも、彼の魅力の一つでしょうか。高い目線で言えば、もう少し記録が欲しかったところでしょうけど、今後につながるレースだったのではないかと思います。
10秒16の同タイムで日本人2、3番手に井上直紀選手(早大)と桐生祥秀選手(日本生命)が入りました。
井上選手は織田記念の優勝、世界リレーではアンカーを務めて4位と、今季にしっかりとキャリアを積み重ねられている選手の1人です。特に世界リレーの予選は、世界大会のアンカーを務める緊張感、日本の4継として失敗できない重圧の中で、見事な走りを見せていました。それを今回、個人のレースとしても持ち帰って体現できていたので、強さを身につけつつある印象です。今後、標準記録付近を狙っていくでしょうし、先輩たちに火をつける次の世代の中心になっていくのではと感じます。
そして桐生選手は、確実に「もう1段階持っている」と思わせる選手ですし、「帰ってきたな」と感じます。木南記念を10秒09で制した同学年の小池祐貴選手(住友電工)とともに、若い世代に立ちはだかる存在。9秒台を持っているという事実はやはり大きいでしょう。彼らが頑張ることで、若い世代に火がつき、それが日本のスプリント界の底上げにつながっていくはずです。桐生選手は、今後はやはり大事な試合でどれだけ勝ちをつかめるかがカギ。自身の経験値、周囲のサポートを含め、日本選手権に向けてどのようにプランニングしていくのか、非常に楽しみです。
サニブラウン選手は残念ながら欠場となりましたが、今後も彼が中心になることに変わりはありません。彼を追い込める選手が出てくるのか、牙城を崩せる選手が出てくるのか。シビアな目線では、ファンのみなさんを喜ばせる「9秒台」が出なかったということは、まだまだ世界のファイナルは近くはないということになります。しかし、十分にその期待感を持たせてくれるような大会だったと感じています。これから、日本スプリント界全体で高め合って、世界に挑めるよう高め合っていけるのではないでしょうか。
◎高平慎士(たかひら・しんじ)
富士通陸上競技部一般種目ブロック長。五輪に3大会連続(2004年アテネ、08年北京、12年ロンドン)で出場し、北京大会では4×100mリレーで銀メダルに輝いた(3走)。自己ベストは100m10秒20、200m20秒22(日本歴代7位)
RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking
人気記事ランキング
2025.11.28
22年世界陸上走幅跳金メダル・王嘉男 ドーピング陽性反応も嫌疑なし AIUが正式に報告
2025.11.27
プロ野球選手・筒香嘉智と陸上界がコラボ スポーツの垣根を超えるクリニックを12月に開催
-
2025.11.26
-
2025.11.02
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2023.04.01
-
2022.12.20
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2025.11.28
22年世界陸上走幅跳金メダル・王嘉男 ドーピング陽性反応も嫌疑なし AIUが正式に報告
世界陸連(WA)の独立不正調査機関「アスリート・インテグリティ・ユニット(AIU)」は11月27日、男子走幅跳でオレゴン世界選手権金メダルを獲得した王嘉男(中国)のドーピング疑惑について、違反はなかったことを確認し、処分 […]
2025.11.27
プロ野球選手・筒香嘉智と陸上界がコラボ スポーツの垣根を超えるクリニックを12月に開催
11月27日、日本陸連は2024年度から取り組むプロジェクト「RIKUJO JAPAN」の一環として、「~スポーツの垣根を超える~ 2025 TSUTSUGO SPORTS ACADEMY FESTIVAL × RIKU […]
2025.11.27
古賀ジェレミー、ドルーリー、濱がダイヤモンドアスリート昇格!Nextageに高1の2人が新規認定
日本陸連は11月27日、「次世代において国際大会での活躍が期待できる競技者」を育成する「ダイヤモンドアスリート」の第12期認定者を発表した。 第11期でダイヤモンドアスリートNextageとして一部のプログラムに参加して […]
2025.11.27
岡田久美子が引退発表「誰よりも『速く、強く、美しく歩く選手』を目指して」女子競歩牽引し続けた第一人者
富士通は11月27日、女子競歩の岡田久美子の現役引退を発表した。かねてより「今季が本当の集大成」と話していたが、正式に発表となった。 岡田は埼玉県出身。1991年生まれの34歳で、大迫傑(リーニン)、飯塚翔太(ミズノ)、 […]
Latest Issue
最新号
2025年12月号 (11月14日発売)
EKIDEN REVIEW
全日本大学駅伝
箱根駅伝予選会
高校駅伝&実業団駅伝予選
Follow-up Tokyo 2025