2022.10.21
オレゴン世界選手権の男子100mで日本人初のファイナル進出を果たして7位となったサニブラウン・アブデル・ハキーム(タンブルウィードTC)。まだ23歳だが、すでに日本スプリント界にとって数々の金字塔を打ち立ててきた。
2015年、当時高2で挑んだ世界ユース選手権では、ウサイン・ボルト(ジャマイカ)の大会記録を塗り替えて2冠。同年の北京世界選手権200mでは最年少で準決勝に進出した。高校卒業後は米国のフロリダ大へ進学。17年ロンドン世界選手権200mでは最年少ファイナリストに。19年には100mで9秒97の日本記録(当時)を樹立。同年のドーハ世界選手権、そして21年の東京五輪にも出場した。
2019年秋からはプロアスリートとなり、ボルトと同じプーマとパートナーシップ契約。高校時代から常に思い描いてきた「世界一」への道を歩き出した。そして今年のオレゴン世界選手権で、夢に一歩近づく100mファイナル進出。しかし、ここ2年は腰のヘルニアもあって苦しい日々を過ごしてきたという。
シーズン終了後に休養し、一時帰国したサニブラウン。改めてオレゴン世界選手権を振り返るとともに、プロになって海外トップ選手と過ごす上で感じたこと、若きアスリートたちへの思いを聞いた。
部屋に戻るまで時間がかかるほどの負荷
――オレゴン世界選手権の100m決勝進出、おめでとうございます。反響はいかがでしたか。
大会後から最近まで日本に帰っていなかったので、大会が終わった直後の“熱”を感じることはなかったのですが、高校時代の友達や先輩たちもメッセージをくれました。米国のチームメイトからは21年の状態を見てくれていたので、「おめでとう」「よく走ったな」と言われましたね。
――レース自体は「覚えていない」ということでした。どんな心境でしたか。
独特の緊張感で、ものすごく緊張する自分と、その中でもなんとか冷静に行こうという自分と2人いました。ただ、普段から世界大会の決勝を戦ったり、メダルを取ったりする選手と練習しているので、過度な緊張ではなかったと思います。
――出し切ったという言葉が印象的でした。
いやー、もう相当にきつかったですよ。予選、準決勝、決勝と3本を全力で走ることってあまりないので。身体にガタが来ていて、疲れ過ぎて部屋に戻るまでものすごく時間がかかったくらいです。いっぱい、いっぱいでしたね。
――先ほど「21年の状態」とありましたが、腰のヘルニアに苦しまれました。状態としては?
結構、ひどかったと思います。神経痛があって腰からくるぶしくらいまで痛みやしびれがありました。今でもものすごい疲労があると神経痛が出ます。まだ身体の状態にも気をつけながらのトレーニングでしたし、他の選手より強度も少ない。まずは身体を100%まで戻して、それ以上に強化していきたいと思っています。

オレゴン世界選手権100mの決勝を駆け抜けるサニブラウン
プロアスリートに揉まれて感じたこととは
――2019年にプロ宣言。タンブルウィードTCのチームメイトには世界選手権100m銀・銅メダルのマーヴィン・ブレイシー選手とトレイヴォン・ブロメル選手(ともに米国)がいます。
メダルを取る選手を日頃から間近で見ていて、やっぱりこういう人が結果を出すんだなと思います。私生活や練習に取り組む姿勢が違います。結果に対するハングリーさがあるんです。プロ選手として人生が懸かっているし、執念がすごい。
――例えばどんな場面で違いを感じますか。
どうすれば速くなるか、ということしか考えていないんです。陸上を中心に置いて生活をしています。だからこそ、練習でも自分からコーチに「今の走りはこうしてみたんだけど、変えたらこうなるかな?」など、自発的に行動することが本当に多い。コーチとのキャッチボールが大切だというのは、そういう選手を見ていて一番に感じました。
振り返ると高校、大学は部活動の延長で、もちろん勝ちたい、速くなりたいという気持ちはありましたが、その中でも「楽しく終われれば」というのが少なからずあったと思います。でも、与えられているものだけをこなすだけだと、そこで終わり。コーチも選手が何をしたいかはわかりませんし、自分から行動しないといけません。
――サニブラウン選手もプロアスリートとなってそこが大きく変化したのですね。
プロになると結果がすべてで、もっともっと求められる。それに応えるためにはメンタルもそうだし、フィジカルにもより気を遣っていきます。1試合、1試合で結果を出す。安定したパフォーマンスを発揮するためには、日頃の積み重ねしかないんです。プロになったから結果が出せたのは間違いありません。
――プロになってから、あのボルトと同じプーマとパートナーシップ契約を締結されました。スパイクへのこだわりは?
米国にあるラボから練習場によく来てくださって、フィッティングのセッションを繰り返しています。履き心地が良くて機能性もある。地面に伝わった反発をしっかりもらえるんです。特にオレゴンでも着用したスパイクはすごいですよ。
接地する前足部にクッション性の高いフォーム材(ニトロフォーム)があることで、より反発が返ってくる上に、楽にフォームを保って刻んでいけます。後半までフォームを維持できますし、本数を重ねても崩れません。履いたらビックリすると思います。
――練習でスパイクはどう使い分けていますか。
レース用のスパイクは負荷が大きいのでトップスピードを出す練習で使用することが多いです。それ以外では「エヴォスピード トーキョー フューチャー4」というスパイクを履いています。これもカーボンプレートが入っているので反発がもらえて、スタート練習や負荷をかける練習、少し長い距離を走る時に使っていますよ。
――サニブラウン選手が練習で使用しているスパイクがこの秋に発売。世界選手権で着用したスパイクと同じカラーリングで映えますね。
この2つも十分にスプリントで使えると思います。最近はシンプルな色使いのスパイクが多いように思いますが、オレンジ色は目立って良いですね。ひと味違うのがプーマの持ち味。やっぱり100mのスタートラインに立った時に「ハキームのスパイクかっこいいな」って思われると良いですよね。

サニブラウンが実際に練習でも履いている「エヴォスピード トーキョー ブラッシュ 4」が10月19日に、「エヴォスピード トーキョー フューチャー 4」が11月中旬発売予定。いずれ世界選手権で着用したスパイクと同じカラーリングだ
ここからが本当のスタート
――来年はブダペスト世界選手権、以降はパリ五輪、東京世界選手権と毎年世界大会が続きます。来季に向けてのプランは?
今は1ヵ月ほどの休養期間で、これからのプランはコーチと相談して決めていきます。身体の調子などを見ながら、どう組み立てていくかアメリカに戻ってコーチとお茶でもしながら考えていきたいです。
――改めて世界選手権を終えて感じたことは。
達成感は一瞬だけで、メダルは近いようで遠かったです。出し切ったという思いもありましが、一番は「悔しかった」という思いが残りました。やはり9秒8を出さないとメダルを取れません。3本目の決勝で、疲労がある中で100%以上のパフォーマンスをしないといけないです。
――今回の経験がこれからの世界大会に大きく生きてきそうですね。
特に準決勝から決勝までの過ごし方。今まで経験したことのなかったものをすべて経験できました。次は身体がどういう反応をするか、どういう雰囲気かがわかるので、心の準備ができます。一連の流れを経験できたのは次につながります。
――オレゴンでの100mもそうですが、これまで「日本人初」という偉業がたくさんあります。
それを意図しているわけではないですが、目指しているものが大きいからこそ結果的に「日本初」というものを達成しているのだと思いますその背中を見て若いアスリートがやる気を出してくれればいいですし、自分の名前で「日本初」が更新できていくのはうれしいです。

――サニブラウン選手の影響もあって、高校卒業後に海外へ渡ったり、留学したいと言う高校生が増えたりしています。アドバイスはありますか。
チャレンジ精神を大切にしてほしいです。海外では自分からどんどん行かないと何も得られません。毎回、成功するわけではないし、失敗はするもの。その失敗から学ぶのが大事なんです。失敗したらなぜ失敗したか考えて生かしていく。それが重要です。
――最後にこれからの目標について聞かせてください。
世界選手権の決勝に行けましたが、競技人生はまだまだこれからだと感じました。世界大会でさらに結果を出すために日々練習していきます。メダルライン、金メダル、世界記録に向かっていきます。そのためには、やらなければいけないことがたくさんあります。ここからが本当のスタートです。

サニブラウン・アブデル・ハキーム/1999年3月6日生まれ、23歳。東京・城西中、城西高時代から全国トップで活躍。高2の世界ユース選手権では100mと200mを大会新で2冠した。昨年の東京五輪には200mで出場。世界選手権には15、17、19、21年と4大会で代表入りし、今年のオレゴンでは100mで日本人初のファイナル進出を果たして7位入賞した。自己ベストは100m9秒97、200m20秒08(いずれも日本歴代2位)
技術面などより詳しいインタビュー完全版は11月14日発売の「月刊陸上競技」12月号に掲載予定!
構成/向永拓史 撮影/小川和行
部屋に戻るまで時間がかかるほどの負荷
――オレゴン世界選手権の100m決勝進出、おめでとうございます。反響はいかがでしたか。大会後から最近まで日本に帰っていなかったので、大会が終わった直後の“熱”を感じることはなかったのですが、高校時代の友達や先輩たちもメッセージをくれました。米国のチームメイトからは21年の状態を見てくれていたので、「おめでとう」「よく走ったな」と言われましたね。――レース自体は「覚えていない」ということでした。どんな心境でしたか。独特の緊張感で、ものすごく緊張する自分と、その中でもなんとか冷静に行こうという自分と2人いました。ただ、普段から世界大会の決勝を戦ったり、メダルを取ったりする選手と練習しているので、過度な緊張ではなかったと思います。――出し切ったという言葉が印象的でした。いやー、もう相当にきつかったですよ。予選、準決勝、決勝と3本を全力で走ることってあまりないので。身体にガタが来ていて、疲れ過ぎて部屋に戻るまでものすごく時間がかかったくらいです。いっぱい、いっぱいでしたね。――先ほど「21年の状態」とありましたが、腰のヘルニアに苦しまれました。状態としては?結構、ひどかったと思います。神経痛があって腰からくるぶしくらいまで痛みやしびれがありました。今でもものすごい疲労があると神経痛が出ます。まだ身体の状態にも気をつけながらのトレーニングでしたし、他の選手より強度も少ない。まずは身体を100%まで戻して、それ以上に強化していきたいと思っています。
オレゴン世界選手権100mの決勝を駆け抜けるサニブラウンプロアスリートに揉まれて感じたこととは
――2019年にプロ宣言。タンブルウィードTCのチームメイトには世界選手権100m銀・銅メダルのマーヴィン・ブレイシー選手とトレイヴォン・ブロメル選手(ともに米国)がいます。メダルを取る選手を日頃から間近で見ていて、やっぱりこういう人が結果を出すんだなと思います。私生活や練習に取り組む姿勢が違います。結果に対するハングリーさがあるんです。プロ選手として人生が懸かっているし、執念がすごい。――例えばどんな場面で違いを感じますか。どうすれば速くなるか、ということしか考えていないんです。陸上を中心に置いて生活をしています。だからこそ、練習でも自分からコーチに「今の走りはこうしてみたんだけど、変えたらこうなるかな?」など、自発的に行動することが本当に多い。コーチとのキャッチボールが大切だというのは、そういう選手を見ていて一番に感じました。振り返ると高校、大学は部活動の延長で、もちろん勝ちたい、速くなりたいという気持ちはありましたが、その中でも「楽しく終われれば」というのが少なからずあったと思います。でも、与えられているものだけをこなすだけだと、そこで終わり。コーチも選手が何をしたいかはわかりませんし、自分から行動しないといけません。――サニブラウン選手もプロアスリートとなってそこが大きく変化したのですね。プロになると結果がすべてで、もっともっと求められる。それに応えるためにはメンタルもそうだし、フィジカルにもより気を遣っていきます。1試合、1試合で結果を出す。安定したパフォーマンスを発揮するためには、日頃の積み重ねしかないんです。プロになったから結果が出せたのは間違いありません。――プロになってから、あのボルトと同じプーマとパートナーシップ契約を締結されました。スパイクへのこだわりは?米国にあるラボから練習場によく来てくださって、フィッティングのセッションを繰り返しています。履き心地が良くて機能性もある。地面に伝わった反発をしっかりもらえるんです。特にオレゴンでも着用したスパイクはすごいですよ。接地する前足部にクッション性の高いフォーム材(ニトロフォーム)があることで、より反発が返ってくる上に、楽にフォームを保って刻んでいけます。後半までフォームを維持できますし、本数を重ねても崩れません。履いたらビックリすると思います。――練習でスパイクはどう使い分けていますか。レース用のスパイクは負荷が大きいのでトップスピードを出す練習で使用することが多いです。それ以外では「エヴォスピード トーキョー フューチャー4」というスパイクを履いています。これもカーボンプレートが入っているので反発がもらえて、スタート練習や負荷をかける練習、少し長い距離を走る時に使っていますよ。――サニブラウン選手が練習で使用しているスパイクがこの秋に発売。世界選手権で着用したスパイクと同じカラーリングで映えますね。この2つも十分にスプリントで使えると思います。最近はシンプルな色使いのスパイクが多いように思いますが、オレンジ色は目立って良いですね。ひと味違うのがプーマの持ち味。やっぱり100mのスタートラインに立った時に「ハキームのスパイクかっこいいな」って思われると良いですよね。
サニブラウンが実際に練習でも履いている「エヴォスピード トーキョー ブラッシュ 4」が10月19日に、「エヴォスピード トーキョー フューチャー 4」が11月中旬発売予定。いずれ世界選手権で着用したスパイクと同じカラーリングだここからが本当のスタート
――来年はブダペスト世界選手権、以降はパリ五輪、東京世界選手権と毎年世界大会が続きます。来季に向けてのプランは?今は1ヵ月ほどの休養期間で、これからのプランはコーチと相談して決めていきます。身体の調子などを見ながら、どう組み立てていくかアメリカに戻ってコーチとお茶でもしながら考えていきたいです。――改めて世界選手権を終えて感じたことは。達成感は一瞬だけで、メダルは近いようで遠かったです。出し切ったという思いもありましが、一番は「悔しかった」という思いが残りました。やはり9秒8を出さないとメダルを取れません。3本目の決勝で、疲労がある中で100%以上のパフォーマンスをしないといけないです。――今回の経験がこれからの世界大会に大きく生きてきそうですね。特に準決勝から決勝までの過ごし方。今まで経験したことのなかったものをすべて経験できました。次は身体がどういう反応をするか、どういう雰囲気かがわかるので、心の準備ができます。一連の流れを経験できたのは次につながります。――オレゴンでの100mもそうですが、これまで「日本人初」という偉業がたくさんあります。それを意図しているわけではないですが、目指しているものが大きいからこそ結果的に「日本初」というものを達成しているのだと思いますその背中を見て若いアスリートがやる気を出してくれればいいですし、自分の名前で「日本初」が更新できていくのはうれしいです。
――サニブラウン選手の影響もあって、高校卒業後に海外へ渡ったり、留学したいと言う高校生が増えたりしています。アドバイスはありますか。チャレンジ精神を大切にしてほしいです。海外では自分からどんどん行かないと何も得られません。毎回、成功するわけではないし、失敗はするもの。その失敗から学ぶのが大事なんです。失敗したらなぜ失敗したか考えて生かしていく。それが重要です。――最後にこれからの目標について聞かせてください。世界選手権の決勝に行けましたが、競技人生はまだまだこれからだと感じました。世界大会でさらに結果を出すために日々練習していきます。メダルライン、金メダル、世界記録に向かっていきます。そのためには、やらなければいけないことがたくさんあります。ここからが本当のスタートです。
サニブラウン・アブデル・ハキーム/1999年3月6日生まれ、23歳。東京・城西中、城西高時代から全国トップで活躍。高2の世界ユース選手権では100mと200mを大会新で2冠した。昨年の東京五輪には200mで出場。世界選手権には15、17、19、21年と4大会で代表入りし、今年のオレゴンでは100mで日本人初のファイナル進出を果たして7位入賞した。自己ベストは100m9秒97、200m20秒08(いずれも日本歴代2位)技術面などより詳しいインタビュー完全版は11月14日発売の「月刊陸上競技」12月号に掲載予定!構成/向永拓史 撮影/小川和行RECOMMENDED おすすめの記事
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