2025.12.13
2026年の幕開けを飾る全日本実業団対抗駅伝(通称・ニューイヤー駅伝)は、第70回の記念大会として1月1日、前橋市にある群馬県庁前をスタートし、上州路をぐるりと回って県庁に戻る7区間・総距離100kmのコースで行われる。前回は最終7区まで見応えのある大接戦が繰り広げられた末に、最多優勝を誇る旭化成が26回目の栄冠を手にしたが、旭化成と切磋琢磨しながら日本の長距離界を盛り上げてきたトヨタ自動車、富士通も〝駅伝日本一〟への返り咲きを虎視眈々と狙っている。デサントジャパンのブランド「MoveSport(ムーブスポーツ)」のウエアを着てニューイヤー駅伝に挑む、この強豪3チームの意気込みを紹介する。
【旭化成】 九州大会の悔しさを「連覇」で晴らす
前回のニューイヤー駅伝はライバルチームとの息詰まるデッドヒートの末、アンカーの井川龍人が5年ぶりに優勝テープを切った旭化成だが、11月3日の九州実業団駅伝では苦戦し、区間賞ゼロで8位という結果だった。
東京世界選手権の10000mに出場した葛西潤が、脚に違和感を抱えて調整が間に合わず、大六野秀畝は直前のアクシデントで出走を見合わせた。三木弘監督は「今組めるベストメンバーでしたが、結果を出すことができなかった」と話す。
予選会では結果が出なかったとしても、ディフェンディング・チャンピオンとして本番では〝2連覇〟が目標。「そう簡単に勝てないことはわかっています。危機感もあります。でも、あせりは禁物だと思うので、しっかり準備して臨みます」と三木監督。
幸い、葛西の調子は上がってきており、前回は故障でメンバー外だった相澤晃が、9月にベルリン・マラソンを走ったにも関わらず九州大会で6区を務め、本番も2年ぶりの出走を見据えている。九州大会で相澤からタスキを受けた茂木圭次郞は、脚の状態が思わしくなく区間11位と振るわなかったが、その後練習を再開。主力に故障者はいなくなった。
前回、アンカー決戦を華麗に決めて、ラスト1kmを切ってからスパートを放った井川は、2025年の日本選手権5000mチャンピオン。好記録が続出した11月22日の八王子ロングディスタンス10000mでは、井川も27分台(27分52秒61)で走っている。本人は「全然ダメでした」と言うものの、三木監督は「途中5000mを13分38秒で通過しても、最後に崩れずまとめた」ことを評価。
前回に続いて区間賞を狙う井川は走りたい区間を決めており、「しっかり力をつけて臨みたい」と静かに燃えている。
【トヨタ自動車】 若手の戦力が充実、鈴木の10000m日本新でさらに活気
2連覇が懸かった前回のニューイヤー駅伝は区間賞を誰も取れず、優勝した旭化成から1分余遅れての3位に甘んじたトヨタ自動車が、優勝旗奪還に向けて勢いづいている。
八王子ロングディスタンス10000mで、鈴木芽吹が27分05秒92の日本新。さらに吉居大和は27分21秒45、湯浅仁は自己記録を一気に20秒も更新する27分47秒89と、前回ルーキーとしてニューイヤー駅伝を経験した入社2年目組が、チームに勢いをつける快走を見せた。
〝トヨタ自動車、強し!〟のアピールは、これだけにとどまらない。八王子では2022年オレゴン、23年ブダペスト両世界選手権代表の田澤廉が2年ぶりに10000mを走り、27分31秒90でメンバー入りにメドをつけ、サムエル・キバティも全体でトップとなる27分01秒70をマーク。熊本剛監督は「中部実業団駅伝で2位に甘んじましたけど、ここに来て活気を取り戻せたかな」と、まずはホッとした口ぶりだ。
熊本監督が「駅伝の主力に成長しつつある」という湯浅は、自分の持ち味を「後半粘れるところ」と話し、前回6区で区間2位だったニューイヤー駅伝では「任された区間で、今度はしっかり区間賞を取りたい」ときっぱり。
春のトラックレースで転倒し、右肩を痛めた後レースから遠ざかっている太田智樹も欠かせないピースで、「何とか間に合わせようと調整中です」と熊本監督。12月初めのマラソンに出場した西山雄介、野中優志あたりが若手に交じってメンバー入りをうかがう。
2年ぶり5回目の優勝が懸かるトヨタ自動車は「2区、3区あたりで先頭に立てれば……」という熊本監督の目論見。第60回の記念大会に続き、70回大会も「もちろん(優勝を)狙います」と言い切った。
【富士通】 前半で遅れず、3年ぶりトップ3へ
東日本実業団駅伝で7位にとどまった富士通は、高橋健一監督が「試したいこともあったので」と、2人のルーキーを起用。駒大出身の篠原倖太朗は3区区間3位で走り、「良くもなく悪くもなく」の評価を得た。
八王子ロングディスタンス10000mでは28分06秒04で走り、主要区間でのニューイヤー駅伝デビューがあるかもしれない。
ベルリン・マラソンで5位(2時間7分35秒)に入っている浦野雄平も、八王子の10000mを28分12秒05にまとめ、「ニューイヤー(駅伝)に向けては悪くない」と高橋監督。
あとは、駅伝に欠かせない横手健が、本番までにどこまで上げてこられるか。夏合宿で足首を捻挫したのがきっかけで、しばらくレースから遠ざかっている。入社5年目の塩澤稀夕も、前回は1区を担った人材だ。
そして、富士通の要になるのが、塩尻和也。東日本大会は4区を務め、チームで唯一の区間賞を獲得したが、気掛かりなのがニューイヤー駅伝はここ2年、区間20番台と、まったく力を発揮できずにいること。
高橋監督は「2回とも、差し込みがきてるんですよね」と、途中で体調に異変があったことを明かす。本人も、そこは「出走させていただきながら、満足な結果を出せず悔しいです」と言いつつ、「自分に求められているものは区間賞だと思うので、区間賞を目指して走りたい」と、エースとしての覚悟を改めて口にした。
八王子ロングディスタンスで〝10000m日本記録保持者〟の座は譲ったが、29歳になった塩尻の本領発揮となればチームに流れを引き寄せられる。
過去3回優勝している富士通だが、今回は2023年(2位)以来3年ぶりの〝トップ3入り〟が目標。「そのためには1~3区で絶対に遅れないこと」と高橋監督。それを裏付けるオーダー編成が待たれる。
※この記事は『月刊陸上競技』2026年1月号に掲載しています

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【旭化成】 九州大会の悔しさを「連覇」で晴らす
前回のニューイヤー駅伝はライバルチームとの息詰まるデッドヒートの末、アンカーの井川龍人が5年ぶりに優勝テープを切った旭化成だが、11月3日の九州実業団駅伝では苦戦し、区間賞ゼロで8位という結果だった。 東京世界選手権の10000mに出場した葛西潤が、脚に違和感を抱えて調整が間に合わず、大六野秀畝は直前のアクシデントで出走を見合わせた。三木弘監督は「今組めるベストメンバーでしたが、結果を出すことができなかった」と話す。 予選会では結果が出なかったとしても、ディフェンディング・チャンピオンとして本番では〝2連覇〟が目標。「そう簡単に勝てないことはわかっています。危機感もあります。でも、あせりは禁物だと思うので、しっかり準備して臨みます」と三木監督。 [caption id="attachment_192458" align="alignnone" width="800"]
26回の最多優勝を誇る旭化成は〝2連覇〟を目指す[/caption]
幸い、葛西の調子は上がってきており、前回は故障でメンバー外だった相澤晃が、9月にベルリン・マラソンを走ったにも関わらず九州大会で6区を務め、本番も2年ぶりの出走を見据えている。九州大会で相澤からタスキを受けた茂木圭次郞は、脚の状態が思わしくなく区間11位と振るわなかったが、その後練習を再開。主力に故障者はいなくなった。
前回、アンカー決戦を華麗に決めて、ラスト1kmを切ってからスパートを放った井川は、2025年の日本選手権5000mチャンピオン。好記録が続出した11月22日の八王子ロングディスタンス10000mでは、井川も27分台(27分52秒61)で走っている。本人は「全然ダメでした」と言うものの、三木監督は「途中5000mを13分38秒で通過しても、最後に崩れずまとめた」ことを評価。
前回に続いて区間賞を狙う井川は走りたい区間を決めており、「しっかり力をつけて臨みたい」と静かに燃えている。
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前回のニューイヤー駅伝で息詰まるアンカー決戦を制した旭化成の井川龍人[/caption]
【トヨタ自動車】 若手の戦力が充実、鈴木の10000m日本新でさらに活気
2連覇が懸かった前回のニューイヤー駅伝は区間賞を誰も取れず、優勝した旭化成から1分余遅れての3位に甘んじたトヨタ自動車が、優勝旗奪還に向けて勢いづいている。 八王子ロングディスタンス10000mで、鈴木芽吹が27分05秒92の日本新。さらに吉居大和は27分21秒45、湯浅仁は自己記録を一気に20秒も更新する27分47秒89と、前回ルーキーとしてニューイヤー駅伝を経験した入社2年目組が、チームに勢いをつける快走を見せた。 〝トヨタ自動車、強し!〟のアピールは、これだけにとどまらない。八王子では2022年オレゴン、23年ブダペスト両世界選手権代表の田澤廉が2年ぶりに10000mを走り、27分31秒90でメンバー入りにメドをつけ、サムエル・キバティも全体でトップとなる27分01秒70をマーク。熊本剛監督は「中部実業団駅伝で2位に甘んじましたけど、ここに来て活気を取り戻せたかな」と、まずはホッとした口ぶりだ。 [caption id="attachment_192460" align="alignnone" width="800"]
2年ぶり5回目の優勝が懸かるトヨタ自動車[/caption]
熊本監督が「駅伝の主力に成長しつつある」という湯浅は、自分の持ち味を「後半粘れるところ」と話し、前回6区で区間2位だったニューイヤー駅伝では「任された区間で、今度はしっかり区間賞を取りたい」ときっぱり。
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トヨタ自動車は入社2年目の湯浅仁も成長株の一人[/caption]
春のトラックレースで転倒し、右肩を痛めた後レースから遠ざかっている太田智樹も欠かせないピースで、「何とか間に合わせようと調整中です」と熊本監督。12月初めのマラソンに出場した西山雄介、野中優志あたりが若手に交じってメンバー入りをうかがう。
2年ぶり5回目の優勝が懸かるトヨタ自動車は「2区、3区あたりで先頭に立てれば……」という熊本監督の目論見。第60回の記念大会に続き、70回大会も「もちろん(優勝を)狙います」と言い切った。
【富士通】 前半で遅れず、3年ぶりトップ3へ
東日本実業団駅伝で7位にとどまった富士通は、高橋健一監督が「試したいこともあったので」と、2人のルーキーを起用。駒大出身の篠原倖太朗は3区区間3位で走り、「良くもなく悪くもなく」の評価を得た。 八王子ロングディスタンス10000mでは28分06秒04で走り、主要区間でのニューイヤー駅伝デビューがあるかもしれない。 ベルリン・マラソンで5位(2時間7分35秒)に入っている浦野雄平も、八王子の10000mを28分12秒05にまとめ、「ニューイヤー(駅伝)に向けては悪くない」と高橋監督。 [caption id="attachment_192462" align="alignnone" width="800"]
2023年(2位)以来3年ぶりの〝トップ3入り〟が目標の富士通[/caption]
あとは、駅伝に欠かせない横手健が、本番までにどこまで上げてこられるか。夏合宿で足首を捻挫したのがきっかけで、しばらくレースから遠ざかっている。入社5年目の塩澤稀夕も、前回は1区を担った人材だ。
そして、富士通の要になるのが、塩尻和也。東日本大会は4区を務め、チームで唯一の区間賞を獲得したが、気掛かりなのがニューイヤー駅伝はここ2年、区間20番台と、まったく力を発揮できずにいること。
高橋監督は「2回とも、差し込みがきてるんですよね」と、途中で体調に異変があったことを明かす。本人も、そこは「出走させていただきながら、満足な結果を出せず悔しいです」と言いつつ、「自分に求められているものは区間賞だと思うので、区間賞を目指して走りたい」と、エースとしての覚悟を改めて口にした。
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富士通の要は東日本実業団駅伝でチーム唯一の区間賞を獲得して気を吐いた塩尻和也[/caption]
八王子ロングディスタンスで〝10000m日本記録保持者〟の座は譲ったが、29歳になった塩尻の本領発揮となればチームに流れを引き寄せられる。
過去3回優勝している富士通だが、今回は2023年(2位)以来3年ぶりの〝トップ3入り〟が目標。「そのためには1~3区で絶対に遅れないこと」と高橋監督。それを裏付けるオーダー編成が待たれる。
※この記事は『月刊陸上競技』2026年1月号に掲載しています
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