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2025.10.08

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フレイザー・プライスがグラウンドに別れ ファンに愛された“ポケットロケット”
フレイザー・プライスがグラウンドに別れ ファンに愛された“ポケットロケット”

東京世界選手権4×100mRがラストランとなったフレイザー・プライス

10月7日、女子短距離で数々の偉業を成し遂げてきたシェリー・アン・フレイザー・プライス(ジャマイカ)が自身のSNSで正式に引退を表明した。

フレイザー・プライスは1986年生まれの38歳。貧困地域として知られるキングストンのウォーターハウス地区で育った。小学生の頃から走り始め、ジャマイカのスプリント界の登竜門と呼ばれる「チャンプス」で頭角を現す。大学進学と同時に名門クラブ「MVP」に加入すると、さらに実力を伸ばし、2007年の大阪世界選手権では4×100mリレーで初の世界大会出場を果たした。

21歳で迎えた08年北京五輪では、事前の予想を覆して10秒78の自己新記録で金メダルを獲得。ここからトップスプリンターとしての道を歩み始めた。翌09年のベルリン世界選手権では100mと4×100mリレーの2冠を達成し、12年ロンドン五輪では100m連覇。13年モスクワ世界選手権では200mを加えたスプリント3冠を成し遂げる。

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その後、種子骨炎や膝の故障にも悩み、17年には息子のザイオンを出産。競技を中断するごとに引退説もささやかれたが、その度に世界の頂点へと返り咲いてきた。21年には世界歴代3位の10秒60をマークし、22年のオレゴン世界選手権では史上最年長となる35歳で100m金メダリストにも輝いた。

昨年のパリ五輪では100m予選を通過後に負傷し、準決勝を棄権。不完全燃焼のまま現役生活を終えるかと思われたが、本人は現役続行を宣言する。今年の6月のジャマイカ選手権は苦戦が予想されたものの、伸び盛りの若手ティア・クレイトンが決勝のレース中に脚を痛めるアクシデントもあり、3位で東京世界選手権の出場権を獲得した。

9月の東京世界選手権では、出場するたびにスタンドから大歓声を受け、100mで決勝進出。メダルには届かなかったが11秒03で6位入賞を果たす。そして最終日の4×100mリレーは1走を務めて母国に貢献。最後に手にしたメダルは、奇しくも18年前に大阪で獲得したのと同じ銀メダルだった。

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152cmの小柄な身体から繰り出す鋭いスタートダッシュは「ポケットロケット」とも呼ばれ、最初の数歩で先頭に立ち、フィニッシュまでポジションをキープするスタイルを貫いてきた。世界大会ではレースごとにカラフルなウィッグを着用し、ファンの話題もさらった。

五輪と世界選手権で獲得した金メダルは通算13個。100mでは世界選手権で最多5度の優勝を誇り、五輪では北京、ロンドン、リオ、東京の4大会連続でメダルを獲得するという史上初の快挙を成し遂げた。

男子短距離界のレジェンドのウサイン・ボルト氏は同じ年齢で、世界大会ではジャマイカの最速スプリンターとして語られることもあったが、100m、200mの世界記録を持つボルト氏が先に話題になることがほとんど。それでも17年に31歳で引退したボルト氏に対し、30代後半になっても世界の第一線で活躍するフレイザー・プライスの評価は年々高まっていった。

海外では「史上最も成功した女子スプリンター」と称えられ、23年には“スポーツ界のアカデミー賞”とも呼ばれるローレウス賞の最優秀女子選手に選出。陸上界を超えてその功績が評価された。

また、出産を経てもトップで活躍するアスリートとして前例のない成績を残したことで、女性アスリートのロールモデルとして多大な影響を与えた。母国では初めてユニセフ親善大使に任命されたほか、出身地・ウォーターハウスのコミュニティーセンターを改装するなど慈善事業にも力を注ぐ。近年は「ポケットロケット財団」を設立し、経済的に困窮している高校生アスリートを支援している。

数え切れないほどの栄冠を手にし、世界中のファンに愛されたスプリンター、フレイザー・プライス。彼女が残したレガシーはこれからも語り継がれるであろう。

10月7日、女子短距離で数々の偉業を成し遂げてきたシェリー・アン・フレイザー・プライス(ジャマイカ)が自身のSNSで正式に引退を表明した。 フレイザー・プライスは1986年生まれの38歳。貧困地域として知られるキングストンのウォーターハウス地区で育った。小学生の頃から走り始め、ジャマイカのスプリント界の登竜門と呼ばれる「チャンプス」で頭角を現す。大学進学と同時に名門クラブ「MVP」に加入すると、さらに実力を伸ばし、2007年の大阪世界選手権では4×100mリレーで初の世界大会出場を果たした。 21歳で迎えた08年北京五輪では、事前の予想を覆して10秒78の自己新記録で金メダルを獲得。ここからトップスプリンターとしての道を歩み始めた。翌09年のベルリン世界選手権では100mと4×100mリレーの2冠を達成し、12年ロンドン五輪では100m連覇。13年モスクワ世界選手権では200mを加えたスプリント3冠を成し遂げる。 その後、種子骨炎や膝の故障にも悩み、17年には息子のザイオンを出産。競技を中断するごとに引退説もささやかれたが、その度に世界の頂点へと返り咲いてきた。21年には世界歴代3位の10秒60をマークし、22年のオレゴン世界選手権では史上最年長となる35歳で100m金メダリストにも輝いた。 昨年のパリ五輪では100m予選を通過後に負傷し、準決勝を棄権。不完全燃焼のまま現役生活を終えるかと思われたが、本人は現役続行を宣言する。今年の6月のジャマイカ選手権は苦戦が予想されたものの、伸び盛りの若手ティア・クレイトンが決勝のレース中に脚を痛めるアクシデントもあり、3位で東京世界選手権の出場権を獲得した。 9月の東京世界選手権では、出場するたびにスタンドから大歓声を受け、100mで決勝進出。メダルには届かなかったが11秒03で6位入賞を果たす。そして最終日の4×100mリレーは1走を務めて母国に貢献。最後に手にしたメダルは、奇しくも18年前に大阪で獲得したのと同じ銀メダルだった。 152cmの小柄な身体から繰り出す鋭いスタートダッシュは「ポケットロケット」とも呼ばれ、最初の数歩で先頭に立ち、フィニッシュまでポジションをキープするスタイルを貫いてきた。世界大会ではレースごとにカラフルなウィッグを着用し、ファンの話題もさらった。 五輪と世界選手権で獲得した金メダルは通算13個。100mでは世界選手権で最多5度の優勝を誇り、五輪では北京、ロンドン、リオ、東京の4大会連続でメダルを獲得するという史上初の快挙を成し遂げた。 男子短距離界のレジェンドのウサイン・ボルト氏は同じ年齢で、世界大会ではジャマイカの最速スプリンターとして語られることもあったが、100m、200mの世界記録を持つボルト氏が先に話題になることがほとんど。それでも17年に31歳で引退したボルト氏に対し、30代後半になっても世界の第一線で活躍するフレイザー・プライスの評価は年々高まっていった。 海外では「史上最も成功した女子スプリンター」と称えられ、23年には“スポーツ界のアカデミー賞”とも呼ばれるローレウス賞の最優秀女子選手に選出。陸上界を超えてその功績が評価された。 また、出産を経てもトップで活躍するアスリートとして前例のない成績を残したことで、女性アスリートのロールモデルとして多大な影響を与えた。母国では初めてユニセフ親善大使に任命されたほか、出身地・ウォーターハウスのコミュニティーセンターを改装するなど慈善事業にも力を注ぐ。近年は「ポケットロケット財団」を設立し、経済的に困窮している高校生アスリートを支援している。 数え切れないほどの栄冠を手にし、世界中のファンに愛されたスプリンター、フレイザー・プライス。彼女が残したレガシーはこれからも語り継がれるであろう。

フレイザー・プライスの世界大会獲得メダル

五輪 08年北京  100m金 12年ロンドン100m金、200m銀、4×100mR銀 16年リオ  100m銅、4×100mR銀 21年東京  100m銀、4×100mR金 世界選手権 07年大阪  4×100mR銀 09年ベルリン100m金、4×100mR金 11年テグ  4×100mR銀 13年モスクワ100m金、200m金、4×100mR金 15年北京  100m金、4×100mR金 19年ドーハ 100m金、4×100mR金 22年オレゴン100m金、200m銀、4×100mR銀 23年ブダペスト100m銅、4×100mR銀 25年東京  4×100mR銀 [adinserter block="4"] 自己ベスト 60m 6秒98 100m 10秒60(世界歴代3位) 200m 21秒79 13年国際陸連最優秀女子選手 23年ローレウス賞年間最優秀女子選手

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