2023.11.28
山梨学大の上田誠仁顧問の月陸Online特別連載コラム。これまでの経験や感じたこと、想いなど、心のままに綴っていただきます!
第39回「『駅伝とは……』を真剣に考えてみた」
残暑の厳しさを嘆き、給水の手段を検討していたかと思えば、三段跳の“ホップ・ステップ・ジャンプ”のごとく“残暑→紅葉→落ち葉”と一気に冬を迎え入れた感がする。
四季折々の味覚や風情は季節の移ろいとともに楽しみたいものだが、なんだか今年は気忙しい。
気忙しいからとて、カレンダーのスケジュールは待ったなしに迫ってくる。先月号のコラムを書き上げ、一息ついたと思っているともう月末である。
10月から11月にかけては、出雲駅伝、箱根駅伝予選会、全日本大学女子駅伝、全日本大学駅伝と立て続けに大学関連の駅伝が息つく暇もなく開催され、早送りボタンを押された画像の様に日々が過ぎてゆく。
その間隙となる11月3日、第64回東日本実業団対抗駅伝が彩の国埼玉県庁から熊谷スポーツ公園陸上競技場までの7区間76.9kmで開催された。この大会は翌年の1月1日に開催される全日本実業団対抗駅伝、通称「ニューイヤー駅伝」の予選会でもある。
※マラソン選手育成の配慮として、10月に行われたMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)の参加選手が所属するチームは、選手の負担軽減のためニューイヤー駅伝出場の権利が与えられるルールが新たに導入されている。
今大会では山梨県初の実業団チームである「富士山の銘水」長距離陸上部が初出場。2022年4月に選手3人で発足したばかりだったが、創部2年目で見事11位となり、ニューイヤー駅伝の出場権を獲得した。創部当初は2025年を目途にニューイヤー駅伝の出場権の獲得を目指していただけに、「望みなしと思われることも、あえて行えば成ることしばし有り」とシェイクスピアが語っているが如く成しえたといえる。
私が山梨学院大学の監督として、箱根駅伝に初出場を決めたのが創部2年目の11月3日であったことを思えば、感慨もひとしおである。
チームを率いる高嶋哲監督は、山梨学院大学時代に駅伝主務を務め、卒業後は「もっと陸上競技やコーチングを学びたい」とのことで私の研究室の研修生として1年間在籍した経緯がある。その後、千葉県内の私立高校教員を経て、順天堂大学大学院でスポーツ科学を学び、山形県の南陽市役所で公務員チームとしてニューイヤー駅伝に初出場。同じく山形県のNDソフトでもニューイヤー駅伝に出場した経歴を持つ。今回の初出場も、過去の経験値とスポーツ科学の知見を生かしたコーチングおよびチームマネジメントの成果であったのではないかと感じた。
山梨県の人口は約80万人。関東の各県と比べれば格段に少ない人口ではあるが、サッカーJリーグのヴァンフォーレ甲府が昨年の天皇杯で優勝、女子バレーボールの山梨中央銀行が全日本6人制クラブカップ選手権優勝、女子バスケットボールの山梨クィーンビーズなど県民の声援を背に頑張っている企業チームやクラブチームがある。
地元の声援を受けながらとはいえ、勝負の対象は常に全国レベルであり、個人としてもさらに高みを目指す期待も込められるのが企業スポーツの宿命でもある。
今後はニューイヤー駅伝の常連チームとなり、順位を少しずつでも上げて行くには当然険しい道のりを歩むこととなる。そのことは十分承知の上ではあろうと思うが、今後の活躍がますます楽しみでもある。
晴れがましい初出場を決めた直後の高嶋監督は「山梨県内を拠点に活動する企業チームの存在意義は、地域のみなさんにどれだけ貢献できるかというところにある。今回の結果を受けて、山梨の誇れるものの一つになるためのスタートを切れたのではないかと思う」と語っている。
今年の富士山の銘水チーム構成は、14人中箱根駅伝経験者はわずか4名、平均年齢は24歳以下と若いチームである。
特筆すべきは、チーム最年長28歳の才記壮人選手(筑波大卒)。彼は今季1500mを中心にスピードに磨きをかけ、日本選手権の決勝では3分39秒58の好記録で4位入賞を果たしている。東日本実業団駅伝の1区では先頭から10秒以内で襷をつなぎ(区間7位)、持ち味のスピードを駅伝に生かす走りであった。
このコラムを書きつつ、11月25日に行われた八王子ロングディスタンスのリザルト表示に才記選手が29分13秒68の自己記録を大幅に更新し、28分23秒83をマークしたとの速報が飛び込んできた。今後は1500mを3分35秒前後で走破できる選手が5000m・10000mで高速レースを組み立てて勝負を決する時代となるのではないかと想像を膨らませた。これはあながち妄想ではないかもしれない。
などと思いつつ、12月に入れば全中駅伝、全国高校駅伝、富士山女子駅伝、そして年明けのオープニングを飾るニューイヤー駅伝、お待ちかねの箱根駅伝と、正月三ヶ日は駅伝三昧となる。
駅伝は各区間のコースの特徴や区間距離、さらには予想されるレース展開にいかに対応し持ち味を出し切れるかが焦点となる。
今日もコラムで駅伝を語りつつ、「駅伝とは……」と自分自身に問いを立ててみた。色々思いを巡らせながら、シンプルに「信じる気持ちを未来に届けるチームスポーツである」と思い至った。
駅伝は襷をつながなければならぬ競争であり、決して1人では完結しないチーム競技である。襷とはチームにとって、その駅伝に向けての想いの集積であり、団結と絆の象徴であるはずだ。
襷を作る布は縦糸に対し横糸を織り上げてこそ完成する。ならば縦糸はスタートラインに立つまでにすべてのチームの部員全員に与えられた1年という平等な時間軸である。チームメイトが持つ横糸は、走力や体調それぞれが置かれた状況に関わらず、志と熱量として紡がれてゆかなければならない。
このようにチームとして喜怒哀楽の過程を経て襷の布が織り上がるからこそ、信じる気持ちが育まれる。団結と絆の象徴の襷を掛け、それぞれが信じる気持ちを失わずゴールに向かって懸命に走り抜くのが駅伝であり、その襷の織り上がり方を披露する場が駅伝のレースという舞台ではないだろうか。
実は、自分たちのチーム状況を一番知るのは、代表選手が肩に懸けている襷なのだろう。
100回の信じる気持ちを運んできた箱根駅伝まであと1ヵ月。
※箱根駅伝番組公式サイト「メッセージ~私と箱根駅伝~」にて上田誠仁氏のコラムが掲載!
上田誠仁 Ueda Masahito/1959年生まれ、香川県出身。山梨学院大学スポーツ科学部スポーツ科学科教授。順天堂大学時代に3年連続で箱根駅伝の5区を担い、2年時と3年時に区間賞を獲得。2度の総合優勝に貢献した。卒業後は地元・香川県内の中学・高校教諭を歴任。中学教諭時代の1983年には日本選手権5000mで2位と好成績を収めている。85年に山梨学院大学の陸上競技部監督へ就任し、92年には創部7年、出場6回目にして箱根駅伝総合優勝を達成。以降、出雲駅伝5連覇、箱根総合優勝3回など輝かしい実績を誇るほか、中村祐二や尾方剛、大崎悟史、井上大仁など、のちにマラソンで世界へ羽ばたく選手を多数育成している。2022年4月より山梨学院大学陸上競技部顧問に就任。 |

第39回「『駅伝とは……』を真剣に考えてみた」
残暑の厳しさを嘆き、給水の手段を検討していたかと思えば、三段跳の“ホップ・ステップ・ジャンプ”のごとく“残暑→紅葉→落ち葉”と一気に冬を迎え入れた感がする。 四季折々の味覚や風情は季節の移ろいとともに楽しみたいものだが、なんだか今年は気忙しい。 気忙しいからとて、カレンダーのスケジュールは待ったなしに迫ってくる。先月号のコラムを書き上げ、一息ついたと思っているともう月末である。 10月から11月にかけては、出雲駅伝、箱根駅伝予選会、全日本大学女子駅伝、全日本大学駅伝と立て続けに大学関連の駅伝が息つく暇もなく開催され、早送りボタンを押された画像の様に日々が過ぎてゆく。 その間隙となる11月3日、第64回東日本実業団対抗駅伝が彩の国埼玉県庁から熊谷スポーツ公園陸上競技場までの7区間76.9kmで開催された。この大会は翌年の1月1日に開催される全日本実業団対抗駅伝、通称「ニューイヤー駅伝」の予選会でもある。 ※マラソン選手育成の配慮として、10月に行われたMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)の参加選手が所属するチームは、選手の負担軽減のためニューイヤー駅伝出場の権利が与えられるルールが新たに導入されている。 今大会では山梨県初の実業団チームである「富士山の銘水」長距離陸上部が初出場。2022年4月に選手3人で発足したばかりだったが、創部2年目で見事11位となり、ニューイヤー駅伝の出場権を獲得した。創部当初は2025年を目途にニューイヤー駅伝の出場権の獲得を目指していただけに、「望みなしと思われることも、あえて行えば成ることしばし有り」とシェイクスピアが語っているが如く成しえたといえる。 私が山梨学院大学の監督として、箱根駅伝に初出場を決めたのが創部2年目の11月3日であったことを思えば、感慨もひとしおである。 [caption id="attachment_121305" align="alignnone" width="800"]

上田誠仁 Ueda Masahito/1959年生まれ、香川県出身。山梨学院大学スポーツ科学部スポーツ科学科教授。順天堂大学時代に3年連続で箱根駅伝の5区を担い、2年時と3年時に区間賞を獲得。2度の総合優勝に貢献した。卒業後は地元・香川県内の中学・高校教諭を歴任。中学教諭時代の1983年には日本選手権5000mで2位と好成績を収めている。85年に山梨学院大学の陸上競技部監督へ就任し、92年には創部7年、出場6回目にして箱根駅伝総合優勝を達成。以降、出雲駅伝5連覇、箱根総合優勝3回など輝かしい実績を誇るほか、中村祐二や尾方剛、大崎悟史、井上大仁など、のちにマラソンで世界へ羽ばたく選手を多数育成している。2022年4月より山梨学院大学陸上競技部顧問に就任。 |
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