2023.10.23
女子4×100mリレー代表で、200mU20日本記録保持者の齋藤愛美(大阪成蹊AC)が今季限りでの引退を決めた。
齋藤は岡山県出身の24歳。小2から陸上クラブに通いながら、サッカーやバレーボールも経験した。高梁中時代に200mで全中8位と頭角を現わす。名門・倉敷中央高に進学すると、森定照広先生のもとで大きく成長。1年時には岡山県大会で24秒17(当時・高1歴代6位)をマークして世界ユース選手権に出場し、準決勝に進出した。
インターハイに出場すると、200mであこがれの先輩・三宅真里奈とともに決勝に進み、ケガを抱えながら8位入賞を果たし、4×100mリレーでも3位入賞した。秋には国体、日本ユースと100mで2冠を獲得している。
圧巻だったのが高2シーズン。織田記念、静岡国際でシニア交じって結果を残すと、リオ五輪を目指すリレーメンバーで代表入り。セイコーゴールデングランプリで1走を務めた。日本選手権の200mでは23秒46をマーク。当時“不滅”と言われていた中村宝子(浜松西高)のU20日本記録(23秒48)を10年ぶりに更新した。100m、200mともに福島千里に次ぐ2位と躍進。一躍ブレークを果たす。
そうして迎えたのが地元・岡山インターハイ。向かい風に記録は阻まれたが、インターハイ史上5人目となる女子100m、200m、4×100mリレーとの3冠を達成し、大会最優秀選手にも選ばれた。秋には国体100mを11秒57(当時・高2歴代2位)で制すと、日本ユース選手権では100m・200m・4×100mリレーで優勝。日本ユース200mでは自身のU20日本記録を0.01秒塗り替える23秒45を叩き出した。この記録は今もU20・U18・高校記録として残る。
高3時はプレッシャーやケガに泣いたがU20日本選手権100mのタイトルをゲット。卒業前ラストレースだった日本室内60mでは土井杏南(埼玉栄高、現・JAL)が持っていたU20日本室内記録を0.01秒塗り替える7秒39で優勝するなど、同学年の兒玉芽生(大分雄城台高、現・ミズノ)とともに世代を牽引した。
大阪成蹊大に進学し、瀧谷賢司監督の指導を受けると、高校時代の実績からくる重圧に悩まされながらも2年時に日本選手権200m3位、日本インカレ100m3位・200m優勝と復活を遂げる。4年時には世界リレーで3走を務めて4位となり東京五輪の出場権獲得に貢献すると、日本選手権で100m4位・200m3位となり、東京五輪代表に選出。夢だったオリンピックの舞台に立ち、盟友・兒玉とバトンをつないで43秒44をマークした。秋には日本インカレ200mを2年ぶりに制している。
大阪成蹊大の職員として競技を続けてきたが、試合になるとなかなか本来の走りができず腰の痛みもあって苦しい日々を過ごした。今年の日本選手権は100m、200mともに決勝に進めず。10月21、22日に地元で開かれた岡山カーニバルをラストレースと決め、100m5位、200m2位だった。
齋藤は「たくさん考えて現役引退を決めました。やりきりました。短いですが、幸せな競技人生でした。感謝の気持ちを走りで伝えられたらと思っていたので、地元をラストレースに選んで良かったです」とコメントを寄せた。
「目立つのが苦手」が口癖だった少女は、日の丸を背負って地元五輪に出場し、過去の自分に何度跳ね返されても立ち向かい走り続けてきた。100m、200mともに高2の偉大な記録はついに破ることはできなかったが、その記録以上に、あきらめずに走り続けた姿は女子スプリンターたちに決して小さくない影響を与えてきた。
倉敷中央高のスローガンの通り、『夢 叶う』を体現した齋藤愛美。何度も駆け抜け、インターハイでその名を刻んだ岡山県総合グラウンド(シティライトスタジアム)で、大好きな仲間や先生たち、家族に見守られながらスパイクを脱いだ。
文/向永拓史
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