Countdown TOKYO2020北口榛花(『月刊陸上競技』2019年7月号誌面転載記事)

Countdown TOKYO2020北口榛花(日大)

あこがれ続けた夢舞台

女子やり投日本記録を樹立した北口榛花(日大)


 高校から始めたやり投で、高校タイトル2年連続3冠、日本人女子投てき種目では国際陸連(IAAF)主催の世界大会初メダルとなる世界ユース選手権優勝を果たした北口榛花(日大)。記録面でも高校記録、U20日本記録と次々と塗り替えてきた。肘のケガや不調を乗り越えた日本陸上界の至宝は、5月の木南記念でついに覚醒し日本記録を更新。これから先、初優勝を狙う日本選手権、そして世界選手権、その先に待つ東京五輪へ、進化を遂げた大器は、どんなアーチを架けていくのだろうか――。

想像以上だった今季序盤での日本新

 5月6日の木南記念で64m36の日本新記録を樹立した1週間後。北口榛花(日大)は再び長居のピットに立っていた。ゴールデングランプリ大阪は60m00で2位。2015年の世界ユース選手権で勝っていた同世代の余玉珍(中国)に敗れて、悔しそうな表情を浮かべた。
「木南記念の後は、これまでにないくらいに身体がグッタリしていました」
 それから4日後。相模原ギオンスタジアムで、カメラを持って撮影したり、強い日差しの下で長時間応援したり、後輩たちにアドバイスを送ったりする〝日本記録保持者〟の姿があった。「毎朝、ちゃんと来ているんですよ」と、したり顔。4年間を通して、関東インカレにやり投で出場することは1度もなかったが、日大の仲間たちと戦い抜いた。
「指導者の方々や先輩方、学校の先生、会う人会う人が、よくやった、おめでとうって言ってくれて、握手しました」
 日本記録の偉業に対する祝福。テレビ取材も増え、反響の大きさにとまどいも少なからずあった。だが、後輩たちの反応だけは少し違っていたようだ。
「結果を出している後輩たちは世界大会でのメダルや日本記録を目指しているから、逆に〝イジって〟くるくらいです」
 誰もが高みを目指す環境に身を置いた北口も、あっという間に最終学年を迎えた。
 世界ユース選手権優勝、高校記録保持者の肩書を持ち、鳴り物入りで日大に進学した北口。日本記録更新は想像していたよりも早かったのか、それとも遅かったのか。
「入学時に思っていたよりは少し時間がかかりました。でも、今シーズンで考えれば、予定よりも少し早いです。毎年、日本記録を投げるチャンスはあったと思いますが、試合を重ねるごとに記録が落ち、シーズン終盤で60
m以上を投げて〝日本記録が出そう〟となっていたんです。今年はこれまで以上にどこかで投げられるという自信がありました」
 それだけ、この冬は充実した時を過ごした。
苦難の時を乗り越え、チェコで成長のきっかけをつかんだ

〝チェコ色〟に染まった1ヵ月で進化

 昨年の11月。日本陸連の派遣で、フィンランドで開催される世界やり投カンファレンスに出席した。フィンランドは高校時代から遠征で訪れている場所。カンファレンスだけでなく、前後に練習できるか交渉し、合宿を兼ねることにしたという。「何かを変えなければいけない」という自発的な思いが、のちに大きなチャンスをつかむことになる。
 現地ではフィンランドとドイツの技術を比べたり、男子のアンドレアス・ホフマン(ドイツ/18年:92m06)、女子のキャスリン・ミッチェル(豪州/ 18年:68m92)を招いて実演が行われたりするなど、「今後、自分のトレーニングの参考になることが多かった」と北口は言う。
 その時の懇親会で、ポーランドとチェコのコーチ4人が談笑しているところに「ちょっとおいで」と手招きされた。
「俺たち、君のこと知っているんだよ。世界ユースも見ていたし、U20世界選手権の時は泣いていたよね」
 そう言うと、動画サイトで北口の投てきを見ながら、「走るのが遅い」などと、すぐさま分析が始まった。練習環境を聞かれると「今は大学生で先輩たちと一緒に練習している」と説明。北口にやり投専門のコーチがいないことを知ると、4人の表情が一変した。
「東京オリンピックもあるのにどうするの?」
「メダル取りたいでしょ?」
「取りたい」
「何メートル投げたいの?」
「68mを投げたい」
「それならコーチが必要だ」
 4人は自分たちのクラブはどこが拠点で、どんなトレーニングをしているか動画や写真で紹介を始めた。「君は68mを投げられる。70mだって夢じゃない」。だからこそ、指導者が必要だと力説した。
「もし私がコーチを頼んだら合宿に行ってもいい?」
 答えは全員「YES」だった。
※この続きは6月14日発売の『月刊陸上競技』7月号をご覧ください。

幼い頃からオリンピックへのあこがれを持っていた北口