2024.12.26
新春の風物詩・第101回箱根駅伝に挑む出場全21チームの選手やチームを取り上げる「箱根駅伝Stories」。新たな100年への第一歩を踏み出す大会に向かうそれぞれの歩みを紹介する。
苦しんだ前半戦
苦しさは、人を大きく成長させる。自分と向き合い、ライバルと向き合い、現状を受け入れ、やるべきことに集中する。この1年で選手としてだけではなく、人としてもひと回り大きくなったのが、中大の吉居駿恭(3年)だ。
藤原正和駅伝監督は「必ず、大きな花を咲かせてくれると思います」と期待を寄せる。「苦い経験があったからこそ、ここまで強くなれる。そうやって成長していける選手だと思っていますし、今は目の色変えて練習をしてくれています。一生懸命練習に取り組み続けていけば、箱根本戦でもかなり面白い走りができるのではないかと思ってます」。
2024年の前半戦を振り返ると、吉居本人も「思うような練習も積めず、思うようなレースもできず、精神的にも苦しいというか、いらだちとか焦りが多いシーズンでした」と正直な気持ちを吐露する。
ここまで苦しめられた大きな要因は、パリ五輪。2023年に13分22秒01の自己新をマークし、上り調子であった吉居は、ワールドランキングによる代表入りを見据えていた。
前回の箱根駅伝では体調不良者が続出した影響もあり、チームは総合13位に沈むも、吉居自身は7区区間賞。2月に行われたイラン・テヘランでのアジア室内選手権に出場し、3000mで5位入賞を果たす。
勢いづいた吉居は、条件は厳しいながらもパリへの挑戦を続ける。4月の金栗記念に始まり、織田記念、セイコーゴールデングランプリと、ポイントを稼ぐために連戦。織田記念こそ13分24秒06で優勝を果たしたが、ほかの結果は振るわず。6月の日本選手権では13分50秒01の22位に終わり、吉居のチャレンジはここで終わりを迎えた。
「五輪を見据えたレベルの高い練習を組んでいただいていたのですが、それをこなせない日々が続いてしまいました。思い返すと、レースを入れ過ぎてしまいました。走りや結果の振り返りができないままレースが続いて、とにかく目の前のレースに向けて練習を繰り返すような落ち着かない日々でした。落ち着いて、一つひとつの結果を分析できなかったことが、力を出し切れなかった大きな原因だったと思います」
夏合宿から駅伝に走りを切り替えていきたいところだったが、トラックでの不調が吉居のリズムを狂わせた。軽快な走りも崩れていたばかりか、持久力も落ちてしまっていた。「でも、ここで立ち止まって自分を振り返ることができたので、慌てずじっくり練習に取り組めました。なので、夏合宿以降は徐々に調子も上がってきていました」と話す。
箱根駅伝予選会は、予定通りに回避。2週間後の全日本大学駅伝で連続シードを獲得すべく、チームのキーマンとして調整を続けていた。しかしながら、結果は7区で区間14位と振るわなかった。
「春先からずっと5000mの練習とレースをしてきた中で、夏から少しずつ距離に対応できるように練習してきましたが、いざロードでスタートしてみると、ちょっと感覚が違うな、と感じてしまったんです」
走り出しから思うようなペースを刻めなかったことで、17kmという距離に対する不安が早々に襲ってきたという。「なので、前半から平常心でいられなくなって、もう最初から精神的にも身体的にもすごくキツい状態になってしまいました」と振り返る。
前半にずれが生じた歯車はすぐには戻せず、そのまま後半に失速。箱根に向けて良いステップにしたかった全日本だったが、最後までペースをつかめないままで終わってしまったのだ。
苦しんだ前半戦
苦しさは、人を大きく成長させる。自分と向き合い、ライバルと向き合い、現状を受け入れ、やるべきことに集中する。この1年で選手としてだけではなく、人としてもひと回り大きくなったのが、中大の吉居駿恭(3年)だ。 藤原正和駅伝監督は「必ず、大きな花を咲かせてくれると思います」と期待を寄せる。「苦い経験があったからこそ、ここまで強くなれる。そうやって成長していける選手だと思っていますし、今は目の色変えて練習をしてくれています。一生懸命練習に取り組み続けていけば、箱根本戦でもかなり面白い走りができるのではないかと思ってます」。 2024年の前半戦を振り返ると、吉居本人も「思うような練習も積めず、思うようなレースもできず、精神的にも苦しいというか、いらだちとか焦りが多いシーズンでした」と正直な気持ちを吐露する。 ここまで苦しめられた大きな要因は、パリ五輪。2023年に13分22秒01の自己新をマークし、上り調子であった吉居は、ワールドランキングによる代表入りを見据えていた。 前回の箱根駅伝では体調不良者が続出した影響もあり、チームは総合13位に沈むも、吉居自身は7区区間賞。2月に行われたイラン・テヘランでのアジア室内選手権に出場し、3000mで5位入賞を果たす。 勢いづいた吉居は、条件は厳しいながらもパリへの挑戦を続ける。4月の金栗記念に始まり、織田記念、セイコーゴールデングランプリと、ポイントを稼ぐために連戦。織田記念こそ13分24秒06で優勝を果たしたが、ほかの結果は振るわず。6月の日本選手権では13分50秒01の22位に終わり、吉居のチャレンジはここで終わりを迎えた。 「五輪を見据えたレベルの高い練習を組んでいただいていたのですが、それをこなせない日々が続いてしまいました。思い返すと、レースを入れ過ぎてしまいました。走りや結果の振り返りができないままレースが続いて、とにかく目の前のレースに向けて練習を繰り返すような落ち着かない日々でした。落ち着いて、一つひとつの結果を分析できなかったことが、力を出し切れなかった大きな原因だったと思います」 夏合宿から駅伝に走りを切り替えていきたいところだったが、トラックでの不調が吉居のリズムを狂わせた。軽快な走りも崩れていたばかりか、持久力も落ちてしまっていた。「でも、ここで立ち止まって自分を振り返ることができたので、慌てずじっくり練習に取り組めました。なので、夏合宿以降は徐々に調子も上がってきていました」と話す。 箱根駅伝予選会は、予定通りに回避。2週間後の全日本大学駅伝で連続シードを獲得すべく、チームのキーマンとして調整を続けていた。しかしながら、結果は7区で区間14位と振るわなかった。 「春先からずっと5000mの練習とレースをしてきた中で、夏から少しずつ距離に対応できるように練習してきましたが、いざロードでスタートしてみると、ちょっと感覚が違うな、と感じてしまったんです」 走り出しから思うようなペースを刻めなかったことで、17kmという距離に対する不安が早々に襲ってきたという。「なので、前半から平常心でいられなくなって、もう最初から精神的にも身体的にもすごくキツい状態になってしまいました」と振り返る。 前半にずれが生じた歯車はすぐには戻せず、そのまま後半に失速。箱根に向けて良いステップにしたかった全日本だったが、最後までペースをつかめないままで終わってしまったのだ。失敗から学び、そして努力を
ここまで結果が出せなかった経験は、はじめてと言っても過言ではない。宮城・仙台育英高時代からトラックでも記録を伸ばし、高校駅伝は1年時に優勝を経験。2、3年時は1区を走ってメダルを獲得するなど、毎年結果を残してきた。 中大に進学後も、1、2年と連続して三大駅伝を走ってきたし、トラックでも自己新を出し続けてきた。しかし、ここに来て記録が止まっただけではなく、ロードでも結果が出せなくなってしまった。 その要因は、ハッキリしていた。1年時も2年時も、とにかく必死で走ってきた。レースで不安を感じる余裕すらないほど、何も考えず、とにかく目の前の練習に取り組み、走るだけだった。それで記録が伸びていたが、3年になってパリに向けて何をクリアしなければならないのかが明確になった。ただ走るだけでは強くなれない、結果が残せないことを知ったのである。 「結構考え込んでしまうタイプ」と自分を評する吉居は、この1年間、考え込み続けてきた。練習は間違っていないし、確実にこなせているはずなのに、なぜか結果が出せない。ひたすら考え抜いた結果、一つひとつ、不調の原因を追い求めていく。 やみくもにたくさん大会に出場するよりも、出場レースを絞るほうが自分に合っている。春先の質を追い求めたトレーニングから距離を踏む練習へと切り替えたことで、スピードから持久系への走りへの動きの変化に身体が対応できていなかったことに気づいた。 全日本の失敗からは、単純に距離を踏むだけではなく、レースを想定しながらトレーニングをしなければロードでは走れないことを学んだ。その学び、そして積み重ねた努力がようやく実を結ぶ。11月23日、MARCH対抗戦2024に出場した吉居は、10000mで中大記録となる27分44秒48を叩き出したのである。 「自分を支えてくれたり携わってくれたりした人たちに良い姿を見せられるというか、喜んでもらえる舞台が箱根だと思います。今シーズン、調子が悪いなかでもたくさんの人たちが応援してくれましたし、藤原監督もすごく支えてくれました。箱根の予選会も、チームのみんなが力を合わせて突破してくれました。次は、僕の番。選手として結果を出して、たくさんいろいろなものをいただいた恩をしっかり箱根で返したいと思います」 大きな壁を乗り越えた吉居。伝統ある深紅のタスキを携えた『エース』としての箱根がいよいよ始まる。 [caption id="attachment_123595" align="alignnone" width="800"]
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