8月1日~11日の日程で開催されているパリ五輪の陸上競技。その男子4×100mリレー決勝が日本時間8月10日午前2時47分に行われ、日本は日本歴代4位タイの37秒78で5位に入り、2大会ぶりの入賞を果たした。2008年北京五輪男子4×100mリレー銀メダリストの高平慎士さん(富士通一般種目ブロック長)に、レースを振り返ったもらった。
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今、できることをやり尽くした。日本の男子4×100mリレーにとって、そんなパリ五輪だったと思います。
予選は1走からサニブラウン・アブデル・ハキーム選手(東レ)、栁田大輝選手(東洋大)、桐生祥秀選手(日本生命)、上山紘輝選手(住友電工)のオーダーで、38秒06で4着。全体4位のタイムで決勝進出を決めました。ただ、プラス通過だったことでインレーンに割り当てられたことで、メダルを狙うには苦しい状況になったと思います。
決勝は1走に坂井隆一郎選手(大阪ガス)を起用し、サニブラウン選手を2走にコンバートしました。アンカーの上山選手にトップでバトンを渡し、37秒78で5位。シーズンベストだったことが、今できることをやれた証拠です。タイム的にはメダルを取ってもおかしくない水準まで引き上げられました。日本の伝統をしっかりと示したレースと言えるでしょう。
個々の走りを見ると、やはりサニブラウン選手の強さが際立ちます。世界陸連発表の記録には区間タイムが「8秒88」と出ていますが、米国にバトンパス失敗があったとはいえ全体のトップ。各国のエースを相手に、2走がストロングポイントになれたことは、今後の日本の強みとなるでしょう。
坂井選手の走りも悪くなかったですし、桐生選手も予選(9秒25)から9秒18へと短縮。上山選手は予選(9秒18)から決勝(9秒33)でタイムを落としていますが、厳しい流れの中では粘りを見せてくれました。
ただ、日本の男子4継が求めるところが「それでいいのか」というのは、選手たちが一番よくわかっていると思います。ですから、「及第点」という言葉は、選手たちに失礼かもしれないですね。補欠メンバーも含めて「金メダル」を目指す彼らは、その責任と覚悟を持って臨んでいます。
だからこそ、来年の東京世界選手権、4年後のロサンゼルス五輪を考えると、課題は山積していると思います。
選手層は確かに厚くなっていますが、「走る場所」の層をもっと厚くする必要があるでしょう。日本選手権100mで2連覇を誇る坂井選手は、1走しか選択肢がないのか。桐生選手の3走を脅かす選手が、上山選手以外にいなかったのか。
適材適所も確かに必要ですが、「ここじゃないとダメ」ではなく、選択肢の幅をもっと広げていくことはとても重要だと感じます。どこでも走れる選手が、どこでもいけるという状況を作る。そうった流れが生まれてほしいと思います。
加えて走力面では、サニブラウン選手以外の成長がカギを握るでしょう。サニブラウン選手が決勝の2走で出した区間タイムは、整合性が取れているかは別として、ある程度限界値に近いものです。もちろん、選手自身はこれを上回ることを目指していきますが、それができれば“ウサイン・ボルト級”です。
そうであるならば、やはり他の3人のレベルを上げる必要があります。ただ、それは補欠としてサポートした栁田選手、東田旺洋選手(関彰商事)、飯塚翔太選手(ミズノ)も含め、選手それぞれが感じていること。そして、その思いを持っている限りは、日本の4継は大丈夫です。
カナダの優勝タイムが37秒50。リレーに関しては、そこまでレベルが上がっているわけではありません。だからこそ、余計に悔しいのですが、カナダのような勝負強さを求めていってもらいたいです
東京世界選手権も、ロサンゼルス五輪も、目標は変わりません。誰に何と言われようと「金メダル」を目指して、「目標は金メダル」と言い続けられるチームになっていってほしいと思います。
◎高平慎士(たかひら・しんじ)
富士通陸上競技部一般種目ブロック長。五輪に3大会連続(2004年アテネ、08年北京、12年ロンドン)で出場し、北京大会では4×100mリレーで銀メダルに輝いた(3走)。自己ベストは100m10秒20、200m20秒22(日本歴代7位)
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