2025.08.08

私は、日本オリンピック委員会が数年前から提唱している、フランス語で〝アスリートを取り巻く、選手と関わるすべての人々〟を表現する「アスリート・アントラージュ」の横の連携を深める活動に興味を持ち、昨年はパリ五輪で活躍するであろうヨーロッパ各国の代表が競うヨーロッパ陸上競技選手権が開催されたローマ(イタリア)への観戦ツアーを企画し、男女10名の参加者と五輪前のトップ選手の活躍やヨーロッパの競技運営、観客の様子を研修も含めて堪能してきた。

プラハの象徴、プラハ城、そしてヴォルタヴァ(モルダウ)川にかかるカレル橋

筆者(左)と20年来の友人であるランチェック社CEOのカロル・カパルボ氏(世界陸連のロードランニング委員長を務めた経験を持つ)
ランチェック社のポリシーである「ALL RUNNERS ARE BEAUTIFUL~すべてのランナーは美しい~」の意味は、誰でも素晴らしいランニングの世界にはウェルカムであり、そこには人種、年齢、体型、走力も関係なく、純粋に走ることを楽しむ、愛する姿があるだけで、楽しく友情を育むものとしている。
ランチェック社はそれまで市民ロードレースのなかったチェコで1995年から大会を開催。年間12大会まで増やし、30年間に150万人近くの参加者を生み、コロナ禍でも厳重な管理下で規模を縮小したレースを開催し続けた。
インターネットが何でも答えを出してくれる世の中にあって、さまざまなカテゴリーの参加者がランニングを通して触れ合い、一緒に楽しむことで、それぞれの人生を豊かにしていく活動に取り組んできた。
今回のツアーにご参加いただいた方々の特徴からランチェック社との関係を私なりにイメージし、皆さんの希望するものにできたらいいなと考えていた。
スポーツ関連の仕事に属されている方々には、ランチェック社のスポーツに対する姿勢、人とのつながりの優しさを具体的にスタッフから直接話を聞いてもらう。

ツアーメンバーとランチェック社スタッフとの会食

オロモウツハーフマラソンの前日記者会見、市長(右か2名目)も出席し、招待選手とツアーメンバーの新井氏(右から3名目)が最年長参加者として招待された

ランチェックのポリシーを示す「ALL RUNNNERS ARE BEAUTIFUL」のボードに参加者が思い思いのサインをする
ツアー一行は6月12日、ヘルシンキ経由で早朝にプラハへ到着。早速、ランチェック社本部ビルで朝食、そしてプラハ城、カレル橋などの一番の名所を観光、チェコ名物ピルスナービールレストランでのランチ、日本大使館訪問と順調に観光を楽しむ。
翌日プラハから快適なヨーロッパ特急電車に乗車し、2時間ほどでオロモウツへ。オロモウツはプラハに並びユネスコ世界遺産の街として聖三位一体柱やルネッサンス期のゴシック様式の天文時計を持つ市庁舎があり、その市庁舎で市長も参加の記者会見に参加した。日本からの参加者として我々の同行メンバーが80歳の参加者最高齢として招待選手と共に紹介される場面もあった。
6月14日のレース当日、まだ夕陽前の明るさが残る19時にメインのハーフマラソンがスタートとなるが、午前中に競技ナンバーカードを受け取りにエキスポ会場に向かう。こじんまりとした体育館がその会場であり、入り口前にはランチェックのポリシーである「ALL RUNNERS ARE BEAUTIFUL」の標語と共に、参加者が自由にサインできる壁のようなボードがあり、ナンバーカードを受け取る前のスペースには参加者全員の名前がプリントされているボードがあり、参加者はみな自分の名前を指さし、記念写真を撮っていた。

参加者全員の名前をプリントされたボード

ツアーメンバーも自分の名前を指さし記念写真

大会のエキスポは参加選手だけでなく、地元の人々の楽しみでもあり、普段の活動の発表の場にもなっている(地元の体操選手の演技披露)
エキスポ会場内はスポーツ関連のグッズ販売が中心であるが、地元の子供たちの体操の演技なども紹介され、微笑ましい。大会ポスターには大会ごとのイメージアニマルがファンタジーで親しみのある特徴を生み出し、子供から大会への興味づけを目指している姿勢が伺われる。デザイナーからは足の遅い動物を選び、一生懸命走る姿が微笑ましく感じるようにしているとのことで採用している動物はコアラ、ウミガメ、像、ペンギン、ナマケモノなどなど。
ランチェック社は30年以上ロードレースを通じてチェコのスポーツ振興に寄与しているが、市民のスポーツ活動ばかりではなく、ヨーロッパ選手の競技力向上にも貢献している。
主催大会でも世界記録、ヨーロッパ記録を更新しており、2024年からはヨーロッパ選手を対象としてヨーロッパ陸連も支援するチェコ国内ランチェック社主催の4つのハーフマラソンからヨーロッパハーフマラソンのチャンピオンを決めるユーロヒーロー、ヨーロッパ6つ国のハーフマラソンを連携し、すべてのレースをクリアしていく国を超えた大会参加を促すスーパーハーフを展開している。

ヨーロッパ長距離選手の強化を目標にしたランチェック社主催ハーフマラソン4大会に出場し、チャンピョンを決定するハーフマラソンシリーズのユーロ―ヒーロー
これらのアイデアは同様に世界のメジャーマラソンにも波及。日本でもMGCシリーズや東京マラソンレガシーハーフ、丸亀国際ハーフなど6大会が連携するジャパンプレミアハーフシリーズが来年から始まる。
ランチェック社のあるスタッフは「チェコという小さな国で人口も少ない中、精一杯の努力を継続。毎回工夫をし、考え考え考えて新しい挑戦を提供している。日本のランニング人口は膨大であり、さまざまのチャンスがある。競技力も素晴らしいく、チェコ、ヨーロッパは少しでも日本に追いつくように努力している。是非、日本との連携ができればうれしい」と語っていた。

2000名が参加したファミリーラン(1600m)、すべてのカテゴリーに参加Tシャツがあり、色もデザインも違う
ランチェック社主催レースでは、チェコの第2国歌として愛されているスメタナの連作交響詩『ヴォルタヴァ(モルダウ)』が必ずスタート地点で流れている。荘厳な曲と共にヴォルタヴァ(モルダウ)川の流れのように6000名のランナーは石畳のコースに出て行く。
コースはいくつもの折り返しの中、市街地、田園風景、自然公園の中を通り、随所にMUSICスポットがあり、アップテンポの生バンドがランナーを励ましてくれる。日本のレースと同じように、地元住民が家の前での応援、ハイタッチをしてランナーを迎え、スタート地点のゴールの聖三位一体柱に戻ってくる。

大会シンボルのコアラのパネル。記念写真コーナーになっていた

5kmレースの表彰。男女の1位から3位を一緒に表彰。ちょっとしたことだが、フレンドリーな雰囲気と受賞者、関係者同士が交流できるアイデア

オロモウツの美しい田園風景のコースを市民の応援、日差しを浴びながら走り抜けた
ハーフマラソンの制限時間は3時間だが、私もご夫婦でこのツアーに参加された方も3時間を超えることになることがわかっている。20km地点、ゴールした多くのランナーたちも、まだ走っているレース出場者を応援してくれている。制限時間は過ぎているのに、ゴール付近は明るく、ゴールラインの時計も動いている。私やご夫婦での参加者は、沿道の市民やすでにゴールしたランナー、ランチェックのスタッフらに笑顔で迎えられ、最後尾でランナーを管理する自転車スタッフにも励まされ感動のゴール。
ランチェック社CEOのカパルボ氏は3時間ゴール地点に立ち続けていた。彼はゴール地点ですべてのレースを見守り、出場者を励ましながら最終ランナーを見届けていた。まさに「ALL RUNNERS ARE BEAUTIFUL」を肌で感じた。
フィニッシャーのメダルを胸に全員で表彰台を借りて記念写真。大急ぎでホテルに戻ってシャワーを浴びて、23時からのランチェック社スタッフの大会打ち上げ慰労会に参加した。40名ほどのスタッフが三三五五、後片付けづけを終えて続々とパブに集合。一つのイベントをやり遂げた充実感でいっぱいのお楽しみタイムは、反省会も兼ねた情報交換の場となり、それぞれの生の感想が次回の大会の構想に向けられていた。

ツアーメンバー全員でゴール後の記念写真
ランチェック社にはヨーロッパ数ヵ国から研修やフルタイムで働く若者が集まってきている。まさしくインターナショナルな組織であり、彼らは将来、自国のスポーツ振興に寄与する人材になる。
日本からのツアー参加者は、翌日もオロモウツ観光。次の日はプラハに戻り、同市内を1日観光した。
スポーツだけでなく文化的体験も今回のツアーのテーマ。1928年のアムステルダム五輪に日本人女子選手として初出場し、800mで銀メダルを獲得した日本陸上界のレジェンド・人見絹枝さんが、プラハでの女性世界大会でも活躍したことから、プラハにはその功績を称える記念碑が建てられている。我々はその記念碑のある場所を訪れ、地元の方々と同じように造花の花束、ろうそくを備えた。

人見絹枝さんの記念碑。大会を終えて、地元の方々と同じように造花、ろうそく、そしてフィシャーメダルをかけて大会のご報告をした
創立100周年の日本陸連において初の女性会長になった有森さんには日本陸上界のさらなる発展に向けた舵取りが期待されるが、9月に控える世界陸上東京大会に臨む日本チームや有森会長の活躍を一歩早く、プラハの記念碑の前で祈念した。
次に訪問したのはチェコ代表の画家、アルフォンス・ムシャの美術館。ここでもランチェックの手配でムシャのお孫さんのお出迎えを受け、詳細に作品の説明を聞く。
ツアーの最後はランチェック社オフィスの見学だ。大会翌々の月曜日でも、スタッフは朝からオロモウツ大会で使用した器具の片付け、記録の整理をてきぱきとこなしていた。オフィスの1階から4階まで、ランナーに必要な設備や情報が蓄積されている。ランチェックは独自にランニングクラブを持ち、自国、他国の選手がトレーニングでプラハを訪れた場合、サービスを提供している。簡単な合宿なら宿泊も近くのホテルがあり、簡単にできる。

ランチェック本社の1階はランナーの必要なグッズが揃い、カフェコーナーもある

ランチェック創始者であるカパルボ氏が一緒にランニング文化を育てたチェコの崇拝するレジェンドのエミール・ザトペック(右)と、友人であるイタリアのジェリンド・ボルディンの写真。ザトペックは1952年ヘルシンキ五輪で5000m、10000m、マラソンの3冠を獲得して「人間機関車」と呼ばれた偉大なランナーで、ボルディンは1988年ソウル五輪マラソン金メダリスト
すべて予定を終了し、早朝のフライトで帰国するまで、ツアーを支えてくれたランチェック社のスタッフに感謝し、ツアーメンバーも次回の再会を約束して羽田空港で解散となった。

ランチェック社のビルはランニングを愛する人たちのオアシスとして自由に立ち寄れる雰囲気をもっている

ツアー最後の晩餐はランチェック社スタッフ行きつけのレストラン。ガーデンテラスでツアー、大会のことを語り尽くした

プラハ空港内の出発ゲート先にもランチェック社の広告ボード(カレル橋を走るランナー)が見送ってくれた
本年7月にはこのランチェック社にワーキングホリデーを利用して1年半、デザイナーのインターンとして、また棒高跳選手としてトレーニングも兼ねて所属しはじめた我々の仲間の日本人女性アスリートがいる。今や国内、国外という区別も概念もなく、いつでも誰でも世界と結びついていく時代である。ヨーロッパ各国の若者がスタッフとして働くランチェック社、きっとNEW Japanese としてさまざまなエッセンスを吸収してきてくれることだろう。既成概念に捉われることなく、自由な発想を持って新しい挑戦に踏み出して姿勢が頼もしい。海外に行くだけではなく、いつもの考え方に変化を加えることも必要ではないかと感じている。




















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