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2026.05.18

【高平慎士の視点】際立ったライルズの強さ 桐生ら日本勢に「0.2秒差」埋める奮起を期待/セイコーGGP
【高平慎士の視点】際立ったライルズの強さ 桐生ら日本勢に「0.2秒差」埋める奮起を期待/セイコーGGP

26年セイコーGGP男子100mのレースシーン

5月17日に東京・MUFGスタジアム(国立競技場)で行われたセイコーゴールデングランプリの男子100mは、ノア・ライルズ(米国)が9秒95(+0.6)で優勝し、日本人トップの4位だった桐生祥秀(日本生命)は10秒15でアジア大会派遣設定記録を突破した。2008年北京五輪男子4×100mリレー銀メダリストの高平慎士さん(富士通一般種目ブロック長)に、レースを振り返ってもらった。

◇ ◇ ◇

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ライルズ選手の強さを改めて感じたレースでもあり、日本人選手にとっては彼らのポテンシャルから考えると、チャンスをもう少し生かしてほしかったレースでもありました。

決勝の最初のスタートで、ライルズ選手がわずかに動いたように見えました。その影響か、2度目のスタートは大きく出遅れています。

それでも9秒95にまとめられるのが、ライルズ選手の強さではありますが、スタートで大きく出遅れたことは日本勢にとって大きなチャンスでした。ですから、いかに五輪王者とはいえそれでも0.2秒の差をつけられたという事実は、しっかりと受け止めないといけないでしょう。

桐生選手が10秒15と、アジア大会派遣設定記録を突破したことは一定の評価ができます。しかし、日本勢として期待値の高い選手が集まり、日本でただ1つの世界陸連コンチネンタルツアー・ゴールドの大会である以上は、現段階の仕上がりはどうあれ、ライルズ選手の次には入ってきてほしいというのが正直なところです。

世界との勝負を見据えるなら、今回の決勝は予選のハイレベルの組。そこで3着を取れなければ、準決勝には進めません。厳しい言い方をすれば、だから世界リレーで出場権を獲得できなかったのだ、ということになってしまいます。

もちろん、日本のレベルが下がっているわけではありません。力の発揮の問題で、狙った大会で狙ったことができるということは、すごく大事。日本選手権に合わせているスケジュールの中ではありますが、グレードの高い大会で、世界と勝負する経験を積むことも非常に大切なことと考えます。このレースが「経験できた」と言える内容だったかと問われれば、前日にダイヤモンドリーグで3位に入った男子110mハードルの村竹ラシッド選手(JAL)とはまた違うものと言わざるを得ません。

ライルズ選手の強さは、まずは「やるべきことをやっている」ことで培われています。そのうえで、「最低限これぐらいで走る」という能力が非常に高いと感じています。

また、相手に合わせて「このタイムで勝てる」という走りを常に発揮できるところも彼の特長。おそらく、自分のステージに相手を引き込んでレースをするのが非常にうまいのでしょう。それを世界大会の決勝まで実現させるわけですから、世界の中でも少し格の違う選手と言えます。

技術としては、決まった動きをずっとやり続けられるタイプ。ですから、「ここがうまくいったから記録が出た」というものではなく、スタートからフィニッシュまでの流れがパッケージで見えていて、タイムもその中で見えているのでしょう。100mで大記録を出すイメージはあまり湧きませんが、パッケージのレベルは非常に高いです。ただ、本来の能力としては200mタイプであり、100mではやはり距離が足りずに発揮しきれていないかもしれません。

桐生選手は、今季の100m初戦でしたが、スタート局面を変える取り組みをしています。そういった新たな試みができるというだけで、身体や練習量にある程度自信がある証拠。年齢を重ねてもステップアップするために、また世界の最前線で戦うようになるために、しっかりとプロセスを踏めているように感じます。

スタートの変更は、桐生選手の持ち味である中間疾走の爆発力をより引き出すためのアプローチだと思います。飛行機が離陸するようにスムーズに立ち上がることで、中間の爆発的な回転につなげる。それが彼にとって、100mを速く走ることにつながるのでしょう。昨年9秒台を出したからこそ、こういったトライができるという面もあります。すごくポジティブな流れを作れているのではないでしょうか。

10秒19で5位の飯塚翔太選手(ミズノ)、10秒21で6位の小池祐貴選手(住友電工)、10秒24で6位の山縣亮太選手(セイコー)とキャリアのある選手たちが上位を占めました。彼らの底力はまだまだ健在で、頼もしい限りです。

一方で、若手の台頭が求められることも事実。そういった新陳代謝があってこそ、全体のレベルアップが図られるものです。

今回はライルズ選手が来るということで注目が集まりましたが、本来は日本男子短距離勢の存在で観客を集めないといけない。コンチネンタルツアー・ゴールドの継続、将来的にダイヤモンドリーグの招致などレベルの高い国際大会を日本で開催していくためには、国内のレベルアップは欠かせません。

アジア大会は、世界に対する立ち位置が明確になります。まずはアジアを制するために、日本選手権で高めあってほしいと思います。

◎高平慎士(たかひら・しんじ)
富士通陸上競技部一般種目ブロック長。五輪に3大会連続(2004年アテネ、08年北京、12年ロンドン)で出場し、北京大会では4×100mリレーで銀メダルに輝いた(3走)。自己ベストは100m10秒20、200m20秒22(日本歴代7位)

5月17日に東京・MUFGスタジアム(国立競技場)で行われたセイコーゴールデングランプリの男子100mは、ノア・ライルズ(米国)が9秒95(+0.6)で優勝し、日本人トップの4位だった桐生祥秀(日本生命)は10秒15でアジア大会派遣設定記録を突破した。2008年北京五輪男子4×100mリレー銀メダリストの高平慎士さん(富士通一般種目ブロック長)に、レースを振り返ってもらった。 ◇ ◇ ◇ ライルズ選手の強さを改めて感じたレースでもあり、日本人選手にとっては彼らのポテンシャルから考えると、チャンスをもう少し生かしてほしかったレースでもありました。 決勝の最初のスタートで、ライルズ選手がわずかに動いたように見えました。その影響か、2度目のスタートは大きく出遅れています。 それでも9秒95にまとめられるのが、ライルズ選手の強さではありますが、スタートで大きく出遅れたことは日本勢にとって大きなチャンスでした。ですから、いかに五輪王者とはいえそれでも0.2秒の差をつけられたという事実は、しっかりと受け止めないといけないでしょう。 桐生選手が10秒15と、アジア大会派遣設定記録を突破したことは一定の評価ができます。しかし、日本勢として期待値の高い選手が集まり、日本でただ1つの世界陸連コンチネンタルツアー・ゴールドの大会である以上は、現段階の仕上がりはどうあれ、ライルズ選手の次には入ってきてほしいというのが正直なところです。 世界との勝負を見据えるなら、今回の決勝は予選のハイレベルの組。そこで3着を取れなければ、準決勝には進めません。厳しい言い方をすれば、だから世界リレーで出場権を獲得できなかったのだ、ということになってしまいます。 もちろん、日本のレベルが下がっているわけではありません。力の発揮の問題で、狙った大会で狙ったことができるということは、すごく大事。日本選手権に合わせているスケジュールの中ではありますが、グレードの高い大会で、世界と勝負する経験を積むことも非常に大切なことと考えます。このレースが「経験できた」と言える内容だったかと問われれば、前日にダイヤモンドリーグで3位に入った男子110mハードルの村竹ラシッド選手(JAL)とはまた違うものと言わざるを得ません。 ライルズ選手の強さは、まずは「やるべきことをやっている」ことで培われています。そのうえで、「最低限これぐらいで走る」という能力が非常に高いと感じています。 また、相手に合わせて「このタイムで勝てる」という走りを常に発揮できるところも彼の特長。おそらく、自分のステージに相手を引き込んでレースをするのが非常にうまいのでしょう。それを世界大会の決勝まで実現させるわけですから、世界の中でも少し格の違う選手と言えます。 技術としては、決まった動きをずっとやり続けられるタイプ。ですから、「ここがうまくいったから記録が出た」というものではなく、スタートからフィニッシュまでの流れがパッケージで見えていて、タイムもその中で見えているのでしょう。100mで大記録を出すイメージはあまり湧きませんが、パッケージのレベルは非常に高いです。ただ、本来の能力としては200mタイプであり、100mではやはり距離が足りずに発揮しきれていないかもしれません。 桐生選手は、今季の100m初戦でしたが、スタート局面を変える取り組みをしています。そういった新たな試みができるというだけで、身体や練習量にある程度自信がある証拠。年齢を重ねてもステップアップするために、また世界の最前線で戦うようになるために、しっかりとプロセスを踏めているように感じます。 スタートの変更は、桐生選手の持ち味である中間疾走の爆発力をより引き出すためのアプローチだと思います。飛行機が離陸するようにスムーズに立ち上がることで、中間の爆発的な回転につなげる。それが彼にとって、100mを速く走ることにつながるのでしょう。昨年9秒台を出したからこそ、こういったトライができるという面もあります。すごくポジティブな流れを作れているのではないでしょうか。 10秒19で5位の飯塚翔太選手(ミズノ)、10秒21で6位の小池祐貴選手(住友電工)、10秒24で6位の山縣亮太選手(セイコー)とキャリアのある選手たちが上位を占めました。彼らの底力はまだまだ健在で、頼もしい限りです。 一方で、若手の台頭が求められることも事実。そういった新陳代謝があってこそ、全体のレベルアップが図られるものです。 今回はライルズ選手が来るということで注目が集まりましたが、本来は日本男子短距離勢の存在で観客を集めないといけない。コンチネンタルツアー・ゴールドの継続、将来的にダイヤモンドリーグの招致などレベルの高い国際大会を日本で開催していくためには、国内のレベルアップは欠かせません。 アジア大会は、世界に対する立ち位置が明確になります。まずはアジアを制するために、日本選手権で高めあってほしいと思います。 ◎高平慎士(たかひら・しんじ) 富士通陸上競技部一般種目ブロック長。五輪に3大会連続(2004年アテネ、08年北京、12年ロンドン)で出場し、北京大会では4×100mリレーで銀メダルに輝いた(3走)。自己ベストは100m10秒20、200m20秒22(日本歴代7位)

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