2026.01.30

山梨学大の上田誠仁顧問の月陸Online特別連載コラム。これまでの経験や感じたこと、想いなど、心のままに綴っていただきます!
第65回「雪中四友に箱根駅伝を重ねて~順大と帝京大の激闘~」
「冬型の気圧配置が次第に強まっており、北日本や北陸山陰地方では雪や雨となる見込みです。夜にかけては北からの季節風が強まる予想です――」と言う気象予報士の解説が的中するほどに冷え込むこの時期である。
まさに野山は冬枯れの季節。ランナーたちにとって早朝練習は、僧侶が滝行をやるくらい覚悟を持ち、玄関のドアを開けねばならないほどであろう。
冬枯れといえども、この厳しい季節だからこそ愛でることのできる花々は「雪中四友(せっちゅうしゆう)」と呼ばれている。古来より中国で冬の画題として好んで描かれてきた4種類の花のことで、梅(ウメ)、蝋梅(ロウバイ)、水仙(スイセン)、山茶花(サザンカ)のことだそうだ。
文字通り雪が降り積もる寒い状況の中にあっても凛として咲く姿は、春に咲く花とは趣が違い心を打つものだ。何も特別な花ではない。街中で散歩や軽くジョギングをしながらでも目にするほど馴染み深い花である。
梅は寒中真っ先に咲くことから「百花の魁」とも呼ばれている。私の座右の銘に「何にも咲かない寒い日は、下へ下へと根を伸ばせ」があるが、まさにその先の実を結び、その実が梅干などになる。まさに見てよし、食べてよしと年間を通して楽しませてくれる。
蝋梅の花は少し下向きに頭を下げるように咲き、感謝を表しているかのような奥ゆかしさを香りとともに鑑賞できる。水仙は「雪中花」とも呼ばれ、ある程度冬の寒さにさらされないと開花できないと言われている。
山茶花は、よく似た椿の花と見間違えられる。椿は花のかたちを崩さずポトリと落ちるが、山茶花は花びらが一枚一枚順に散ってゆく。このように書き進めていると、想いが箱根駅伝までの経過と結果にシンクロしてしまう。
さながら水仙のように厳しい寒さにさらされて開花したチームは、前回はシード圏内(10位)までわずか7秒差に泣いたものの、今回は総合3位と躍進した順大だろうか。
寒い中にも耐えて花びらを一枚ずつ粘り強く散らせてゆくのは、今年の箱根駅伝往路17位と出遅れながらも総合9位でシード権を獲得した「世界一あきらめの悪いチーム」を公言している帝京大ではなかろうかとそれぞれ感じたからだ。
ここで再度「駅伝とは」という問いを立て、暫し自問自答してみた。特に箱根駅伝では、10区を走るアンカーはフィニッシュラインに到達することでチームの順位を決定づける。良くも悪くも10区間の状況を知る“タスキ”をかけてフィニッシュに駆け込む。
ということは、フィニッシュラインを越えて踏み出す一歩は、誰よりも早くチームを代表して次回に向けての第一歩を踏み出す役割を担っているのではなかろうか。チームメイトが待ち受けるところまで駆け寄った時に、すでに次回大会に向けての取り組みや覚悟を届ける役目も担っているとひとりごちた。
第101回箱根駅伝でなんとかシード権を守り切った帝京大(10位)と、4校による争いでシードから弾き出された順大がフィニッシュラインを越えて、タスキをどのように迎え入れ、どのように今回大会に昇華させたのかに俄然興味が湧く。

総合3位でフィニッシュした順大
順大の長門俊介駅伝監督は「昨年も今年もトレーニング内容に大きな変更点はありません。あるとすれば選手の意識の変化ですよ」と淡々と話してくれた。
続けて「101回大会に向けての予選会ではぎりぎりの10位通過。あの時の感覚は心底選手たちが崖っぷちに立たされていることを実感したと思います。実際に101回大会で、その状態からシード権争いを最後まで繰り広げることができました。シード落ちをした悔しさも強烈にあったことと同時に、自分たちが取り組んでいることの確証を得ることができた瞬間でもあったわけです」と内情を語っていただいた。
山梨学大の上田誠仁顧問の月陸Online特別連載コラム。これまでの経験や感じたこと、想いなど、心のままに綴っていただきます!
第65回「雪中四友に箱根駅伝を重ねて~順大と帝京大の激闘~」
「冬型の気圧配置が次第に強まっており、北日本や北陸山陰地方では雪や雨となる見込みです。夜にかけては北からの季節風が強まる予想です――」と言う気象予報士の解説が的中するほどに冷え込むこの時期である。 まさに野山は冬枯れの季節。ランナーたちにとって早朝練習は、僧侶が滝行をやるくらい覚悟を持ち、玄関のドアを開けねばならないほどであろう。 冬枯れといえども、この厳しい季節だからこそ愛でることのできる花々は「雪中四友(せっちゅうしゆう)」と呼ばれている。古来より中国で冬の画題として好んで描かれてきた4種類の花のことで、梅(ウメ)、蝋梅(ロウバイ)、水仙(スイセン)、山茶花(サザンカ)のことだそうだ。 文字通り雪が降り積もる寒い状況の中にあっても凛として咲く姿は、春に咲く花とは趣が違い心を打つものだ。何も特別な花ではない。街中で散歩や軽くジョギングをしながらでも目にするほど馴染み深い花である。 梅は寒中真っ先に咲くことから「百花の魁」とも呼ばれている。私の座右の銘に「何にも咲かない寒い日は、下へ下へと根を伸ばせ」があるが、まさにその先の実を結び、その実が梅干などになる。まさに見てよし、食べてよしと年間を通して楽しませてくれる。 蝋梅の花は少し下向きに頭を下げるように咲き、感謝を表しているかのような奥ゆかしさを香りとともに鑑賞できる。水仙は「雪中花」とも呼ばれ、ある程度冬の寒さにさらされないと開花できないと言われている。 山茶花は、よく似た椿の花と見間違えられる。椿は花のかたちを崩さずポトリと落ちるが、山茶花は花びらが一枚一枚順に散ってゆく。このように書き進めていると、想いが箱根駅伝までの経過と結果にシンクロしてしまう。 さながら水仙のように厳しい寒さにさらされて開花したチームは、前回はシード圏内(10位)までわずか7秒差に泣いたものの、今回は総合3位と躍進した順大だろうか。 寒い中にも耐えて花びらを一枚ずつ粘り強く散らせてゆくのは、今年の箱根駅伝往路17位と出遅れながらも総合9位でシード権を獲得した「世界一あきらめの悪いチーム」を公言している帝京大ではなかろうかとそれぞれ感じたからだ。 ここで再度「駅伝とは」という問いを立て、暫し自問自答してみた。特に箱根駅伝では、10区を走るアンカーはフィニッシュラインに到達することでチームの順位を決定づける。良くも悪くも10区間の状況を知る“タスキ”をかけてフィニッシュに駆け込む。 ということは、フィニッシュラインを越えて踏み出す一歩は、誰よりも早くチームを代表して次回に向けての第一歩を踏み出す役割を担っているのではなかろうか。チームメイトが待ち受けるところまで駆け寄った時に、すでに次回大会に向けての取り組みや覚悟を届ける役目も担っているとひとりごちた。 第101回箱根駅伝でなんとかシード権を守り切った帝京大(10位)と、4校による争いでシードから弾き出された順大がフィニッシュラインを越えて、タスキをどのように迎え入れ、どのように今回大会に昇華させたのかに俄然興味が湧く。 [caption id="attachment_131862" align="alignnone" width="800"]
総合3位でフィニッシュした順大[/caption]
順大の長門俊介駅伝監督は「昨年も今年もトレーニング内容に大きな変更点はありません。あるとすれば選手の意識の変化ですよ」と淡々と話してくれた。
続けて「101回大会に向けての予選会ではぎりぎりの10位通過。あの時の感覚は心底選手たちが崖っぷちに立たされていることを実感したと思います。実際に101回大会で、その状態からシード権争いを最後まで繰り広げることができました。シード落ちをした悔しさも強烈にあったことと同時に、自分たちが取り組んでいることの確証を得ることができた瞬間でもあったわけです」と内情を語っていただいた。
人生経験を指導に生かす
そのチームにさらなる何かを伝えてきたことや実践してきたことはあるのか――を尋ねたところ、「常々語ってきたことは、準備の大切さです。駅伝は想いだけで結果につながるとは思っていません。想定外のことをイメージして対策を練り、想定内のこととして対処できる能力の獲得を目指そうと実践してきたことかもしれませんね」とお答えていただいた。 レースが結果となって完結するまでの「プロセスマネジメント」。その間に起こりうる「リスクマネジメント」。それをアスリートとして解決できる「セルフマネジメント力」の獲得が重要である。 それを監督の思いや言葉としてだけでなく、今井正人コーチや田中秀幸コーチが、自身の経験などフィルターを通して選手たちの共感を生む周波数で語れることもあるのではないかと思った。そのことを告げると、長門監督は「まさにそのフィルターのような役目を担ってくれてとても助かっています」と即座に答えてくれた。それはまさに澤木啓祐監督時代をサポートした金子俊二・小笠原和也コンビを彷彿とさせられた。 帝京大の中野孝行監督は開口一番、「上田さんとはなんだか縁を感じているんですよね!」と切り出した。北海道白糠高2年の時、自宅のラジオの受信状況が悪く、自宅に停めてあった軽トラックの暖房を効かせて箱根駅伝のラジオ中継に聴き入っていたそうだ。 [caption id="attachment_131862" align="alignnone" width="800"]
帝京大は2区を終えて最下位から巻き返してシードを守った[/caption]
「上田さんが順大4年、大会直前の事故で足首を痛めた状態で山上りの5区を担当し、日体大のエース・大塚正美選手と白熱のトップ争いをしていましたよね。白糠の冬は寒く暖房もそれほど効かない車の中だったけど、当時のアナウンサーの情景描写が素晴らしく、箱根駅伝の臨場感が伝わってきたことを昨日のように思い出しますよ」と、思い出を辿るように話していただいた。
さらに「私は大学4年の時に2区を走り、ラスト3kmで目の前を走っていたNHKの第2中継車で上田さんが解説をしていましたよね。弟の政文がその年の4月に山梨学大の進学を決めていたので、兄貴の走りをしっかりと伝えてもらいたくて、必死にもがいてラストで1人抜くことができたんですよ」と、話がどんどんつながっていった。
中野監督は国士大時代に箱根駅伝を4回出走。卒業後は実業団の雪印乳業で10年間選手として活動した。引退後は1995年から女子の実業団チーム三田工業でコーチを務めるも会社の倒産により1998年に解雇。千葉の特別支援学級の支援職員を務めた後、1999年8月にNECのコーチとなるも、2003年春に再びチームが廃部となる。
その後はNECの特例子会社に転籍。特別支援学級での経験から同社の障害者ジョブコーチとして勤務した。42歳で帝京大に勤務することとなり、現在に至っている。
私は香川で非常勤講師として三豊工高で1年間と、瀬戸内の島(本島中)で3年間学級担任をしながら勤務した経験がその後の指導者人生に役立ってきたと実感している。中野監督も同じく人生体験を指導に生かしているとするならば、凄まじいほどの実体験を重ねて来られ、数々の難局を持ち前の粘り強さと逆境から学ぶ姿勢を身に纏って来られたのだと確信した。
最初に“日本一諦めの悪いチーム”とのキャッチフレーズを掲げたのは実は学生だそうだ。90回大会を走って卒業した蛯名聡勝さん(7区区間4位)と小山司さん(3年連続5区)が卒業式でこのフレーズを布に書いてチームに伝えたという。
彼ら自身が指導を受けてきた中で、実際に感じた自分たちの強みを示したところに真価がある。そこに中野監督のコーチングスキルの真骨頂が窺える。
卒業生を送り出し、新キャプテンが任命され新たなスローガンが発表されたりもするのがこの時期である。スローガン倒れにならぬよう、どのチームも試行錯誤の中頑張っておられることに疑う余地はない。
今は“世界一諦めの悪いチーム”に進化させているが、これこそが我々のアイデンティティーであると公言し、なおかつここ一番で体現することは簡単ではない。
その理由として中野監督は「高校時代のランキング上のエリート選手でなくとも、我がチームにおいて“我慢のエリート”・“努力のエリート”として成長を遂げることは誰もが可能だと信じているのです。選手の可能性をひたすら信じ続けるだけです」と言葉を結んだ。
実業団で倒産や廃部を経験する中で、自分ではどうすることもできない現実と向き合ってきている。それでも諦めないで、今できることに全力を注いできた歴史を刻んできた。それだけに、選手たちの心に届く“言葉の周波数”をお持ちなんだろうと話を聞き終えて納得した。
さて、寒空ではあるけれども“雪中四友”花々を見つけにジョギングにでも出かけよう。この原稿を書きつつ心が幾分温まっているので。
| 上田誠仁 Ueda Masahito/1959年生まれ、香川県出身。山梨学院大学スポーツ科学部スポーツ科学科教授。順天堂大学時代に3年連続で箱根駅伝の5区を担い、2年時と3年時に区間賞を獲得。2度の総合優勝に貢献した。卒業後は地元・香川県内の中学・高校教諭を歴任。中学教諭時代の1983年には日本選手権5000mで2位と好成績を収めている。85年に山梨学院大学の陸上競技部監督へ就任し、92年には創部7年、出場6回目にして箱根駅伝総合優勝を達成。以降、出雲駅伝5連覇、箱根総合優勝3回など輝かしい実績を誇るほか、中村祐二や尾方剛、大崎悟史、井上大仁など、のちにマラソンで世界へ羽ばたく選手を多数育成している。2022年4月より山梨学院大学陸上競技部顧問に就任。 |
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