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2026.09.28

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【連載】上田誠仁コラム雲外蒼天/第73回「アジア大会と垂涎の“同級生”~ジオラマ鉄道に浮かぶ物語~」


山梨学大陸上競技部元監督の上田誠仁氏による月陸Online特別連載コラム。これまでの経験や感じたこと、想いなど、心のままに綴っていただきます!

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第73回「アジア大会と垂涎の“同級生”~ジオラマ鉄道に浮かぶ物語~」

アジア大会が国内では32年ぶりに、愛知・名古屋で開催されている。4年に1度開催されるアジア地域最大のスポーツイベントだ。日本選手団の奮闘と、アジアトップアスリートのパフォーマンスは随時報道され、一喜一憂の日々である。

PCに向かってこのように打ち込んだところで男女のマラソンレースが始まった。月末の締め切りに大会が重なると、なかなか書き進めず厄介である。

男子は山下一貴選手(三菱重工)が金メダルを獲得した。三菱重工マラソン部としては、2014年仁川大会で現・監督の松村康平氏が銀メダル。18年ジャカルタ大会において井上大仁選手が優勝。現・総監督の黒木純氏が03年に監督に就任以来マラソン選手を育成し、24年に総監督となり現在に至っている。昨年夏の東京世界選手権で近藤亮太選手の力走も記憶に蘇る。

黒木総監督、松村監督、井上選手は山梨学院での学生時代を知るだけに、様々な記憶の旅路を巡らせていると時間はあっという間に過ぎてしまう。その記憶の扉は、52年前まで一気にさかのぼってしまった。

それは私が高校1年の1974年。第7回アジア大会はイランの首都テヘランで開催されている。中東で初の開催ということと、この大会より中国が参加するようになり、アジア大会の歴史的転換点となったことは後に知った。

その後は政治や経済の動向に呼応するかのように、92年のソ連崩壊によってカザフスタン、ウズベキスタン、タジキスタンがアジア大会に参加可能となった。

さらには90年代後半から中長距離の強豪国であるケニア、エチオピア、モロッコから、短距離の強いナイジェリアなどから国籍変更し、カタールやバーレーン代表として出場する選手も登録され始めている。今回も女子の10000mと女子マラソンの優勝は東アフリカからの国籍変更の選手である。

大きな歴史のうねりがあったにせよ、私にとって74年の四国新聞朝刊に掲載された記事は記憶の襞にしっかりと刻み込まれている。

それは、当時高校3年生であった木川泰弘さん(香川・三豊工高/現・観音寺総合高)が、テヘランアジア大会で「5m00(当時高校記録)の跳躍を成功させて金メダル獲得!」との記事であった。

73年の三重インターハイで三豊工高は1位、2位、4位と上位を占めた。翌年の福岡インターハイにおいても木川康弘氏が連覇を達成していたので注目を集めていたとはいえ、シニアの代表が集まるアジア大会での金メダル獲得は驚愕であった。

木川泰弘さんが19年にオープンした鉄道博物館Kトレインワールド。踏切の遮断機がポールになっている(木川さん提供)

インターネットや携帯電話のない時代である。だからこそ同じ郷里の2年先輩の高校生が、海を越えて活躍する記事はあこがれを超え、夢と希望を与えてくれるには十分すぎるほどの刺激であった。

スポーツの持つメッセージ性の凄さは、このように活躍する選手が身近にいることによって自己の競技力向上意欲が感化されるところにあると思う。

山梨学大陸上競技部元監督の上田誠仁氏による月陸Online特別連載コラム。これまでの経験や感じたこと、想いなど、心のままに綴っていただきます!

第73回「アジア大会と垂涎の“同級生”~ジオラマ鉄道に浮かぶ物語~」

アジア大会が国内では32年ぶりに、愛知・名古屋で開催されている。4年に1度開催されるアジア地域最大のスポーツイベントだ。日本選手団の奮闘と、アジアトップアスリートのパフォーマンスは随時報道され、一喜一憂の日々である。 PCに向かってこのように打ち込んだところで男女のマラソンレースが始まった。月末の締め切りに大会が重なると、なかなか書き進めず厄介である。 男子は山下一貴選手(三菱重工)が金メダルを獲得した。三菱重工マラソン部としては、2014年仁川大会で現・監督の松村康平氏が銀メダル。18年ジャカルタ大会において井上大仁選手が優勝。現・総監督の黒木純氏が03年に監督に就任以来マラソン選手を育成し、24年に総監督となり現在に至っている。昨年夏の東京世界選手権で近藤亮太選手の力走も記憶に蘇る。 黒木総監督、松村監督、井上選手は山梨学院での学生時代を知るだけに、様々な記憶の旅路を巡らせていると時間はあっという間に過ぎてしまう。その記憶の扉は、52年前まで一気にさかのぼってしまった。 それは私が高校1年の1974年。第7回アジア大会はイランの首都テヘランで開催されている。中東で初の開催ということと、この大会より中国が参加するようになり、アジア大会の歴史的転換点となったことは後に知った。 その後は政治や経済の動向に呼応するかのように、92年のソ連崩壊によってカザフスタン、ウズベキスタン、タジキスタンがアジア大会に参加可能となった。 さらには90年代後半から中長距離の強豪国であるケニア、エチオピア、モロッコから、短距離の強いナイジェリアなどから国籍変更し、カタールやバーレーン代表として出場する選手も登録され始めている。今回も女子の10000mと女子マラソンの優勝は東アフリカからの国籍変更の選手である。 大きな歴史のうねりがあったにせよ、私にとって74年の四国新聞朝刊に掲載された記事は記憶の襞にしっかりと刻み込まれている。 それは、当時高校3年生であった木川泰弘さん(香川・三豊工高/現・観音寺総合高)が、テヘランアジア大会で「5m00(当時高校記録)の跳躍を成功させて金メダル獲得!」との記事であった。 73年の三重インターハイで三豊工高は1位、2位、4位と上位を占めた。翌年の福岡インターハイにおいても木川康弘氏が連覇を達成していたので注目を集めていたとはいえ、シニアの代表が集まるアジア大会での金メダル獲得は驚愕であった。 [caption id="attachment_131366" align="alignnone" width="800"] 木川泰弘さんが19年にオープンした鉄道博物館Kトレインワールド。踏切の遮断機がポールになっている(木川さん提供)[/caption] インターネットや携帯電話のない時代である。だからこそ同じ郷里の2年先輩の高校生が、海を越えて活躍する記事はあこがれを超え、夢と希望を与えてくれるには十分すぎるほどの刺激であった。 スポーツの持つメッセージ性の凄さは、このように活躍する選手が身近にいることによって自己の競技力向上意欲が感化されるところにあると思う。

あこがれの先輩とまさかの同期に

75年から日本陸連の派遣で2年間の米国・南カルフォルニア大への留学に、木川氏とともに走幅跳で7m58の記録を高校2年で樹立している大山雅人(鹿児島南高)が派遣されている。そして時を同じくして、瀬古俊彦氏も早大入学までの1年間、この留学に同行している。 残念ながら木川氏も大山氏も故障で苦しみ、苦難の留学生活であったらしい。木川氏とお話を聞いていても口調が重くなってきて、異国の地で期待に応えようともがいていた日々が伝わってくる。 77年の順大入学式ではなんと、私と同学年としてスタートを切る姿があった。2年先輩で垂涎のアスリートが、この日を境に同級生となることの喜びと戸惑いが交錯したことを昨日のことのように思い出す。「木川さん」と呼んでいた過去からいきなり「木川さ~」とか、後に着いたニックネームで「きーさん」と呼べるようになるまでしばらく時間を要したものだ。 木川氏は大学でも日本インカレ1年から3連覇するなど活躍し、78年のバンコクアジア大会では3位。79年の東京アジア選手権でも3位と活躍している。しかしながら4年時はまたも故障に苦しみ失意の1年間を過ごしている。卒業後は郷里の香川県中学教員として指導に当たり、全中の入賞者を10人以上も育て上げている。 同じ年に卒業した私は、木川氏の母校・三豊工高で非常勤教諭として教員の道を歩み始めた。棒高跳の指導で全国的に名を馳せた詫間茂先生の薫陶を授かるという運命の出会いも経験できたことは忘れぬことのできぬエピソードである。 長年親しんだ棒高跳のポールが、今では鉄道踏切の遮断機となっている──と書けばみなさんは「……?……」となると思う。 実はかねてからの鉄道ファンとしても知られており、関連グッズをコツコツ集めていたのが高じて、19年に鉄道博物館KトレインワールドをJR予讃線比地大駅に資材を投じてオープンさせている。 室内には成功に再現されたジオラマ鉄道模型や、貴重な鉄道部品と資料の展示。屋外には実際に走行乗車可能並みに鉄道が併設されており、その一角の踏切にポールが使用されているのである。子供から高齢者でにぎわうようになったこの敷地を利用して、オリンピックイヤーの21年3月にストリート棒高跳が開催されている。 [caption id="attachment_131366" align="alignnone" width="800"] 室内ではジオラマ模型が展示されている(木川さん提供)[/caption] 東京のビルの谷間で時折開催されているストリートのイメージからは程遠い、ローカル色の強い地方の駅横で開催されたこのイベントではある。しかしながら、地元出身でリオデジャネイロ五輪代表の萩田大樹さんらを招いて迫力ある跳躍を披露し、地元の小中学生たちを対象にした棒高跳の体験指導なども行われている。 クラウドファンディングで費用を募り、やっとの思いで開催にこぎつけたそうだ。敷地に棒高跳の助走路を敷設し、マットや支柱を設置。終了後の撤収作業を含めてことのほか骨が折れたそうだ。それでも無事開催できたことに地元の方々や陸上関係者の熱意に感謝の言葉を聞かせていただいた。 木川氏は控えめに自分の競技人生を振り返り、自嘲気味に期待を背負いながらも故障やけがなどで何も恩返しができず情けない限りだと語ってくれた。後悔を背負いつつも棒高跳を深く愛し続けてきたことは、トレインワールドのジオラマ鉄道の一角に目を凝らすと理解できた。棒高跳のピットで跳躍をするミニチュアが、いとおしさを讃えているかのように木川氏の手作りで作成されている。 そのジオラマの小さなミニチュアがバーを越えようとする初々しい姿は、中学時代の木川氏にしか見えない。自身のジュニア時代を振り返ってもらった。 「観音寺中学時代はすでにお亡くなりになられて残念なのですが、佐川信秋先生にはひたすら基本からしっかりと指導していただいたことですね。高校では詫間先生を信頼し、信じて頑張ってきた日々が今でもかけがえがない思い出です」との言葉がジオラマとリンクして物語が沸き上がる。 スポーツを“する・みる・支える”という視点で俯瞰してきたつもりであったが、新たな視点が込められていることに気づかされた。
上田誠仁 Ueda Masahito/1959年生まれ、香川県出身。山梨学院大学名誉教授。順天堂大学時代に3年連続で箱根駅伝の5区を担い、2年時と3年時に区間賞を獲得。2度の総合優勝に貢献した。卒業後は地元・香川県内の中学・高校教諭を歴任。中学教諭時代の1983年には日本選手権5000mで2位と好成績を収めている。85年に山梨学院大学の陸上競技部監督へ就任し、92年には創部7年、出場6回目にして箱根駅伝総合優勝を達成。以降、出雲駅伝5連覇、箱根総合優勝3回など輝かしい実績を誇るほか、中村祐二や尾方剛、大崎悟史、井上大仁など、のちにマラソンで世界へ羽ばたく選手を多数育成している。2022年4月より山梨学院大学陸上競技部顧問に就任し、26年3月に退任。

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