2026.09.27
9月26日に愛知県名古屋市のパロマ瑞穂スタジアムで行われた名古屋アジア大会陸上4日目の男子マラソンで、山下一貴(三菱重工)が2時間10分49秒で日本勢2大会ぶりの金メダルに輝いた。女子マラソンでは矢田みくに(エディオン)が2時間27分56秒で銅メダルを獲得している。2008年北京五輪5000m、10000m代表の竹澤健介さん(摂南大ヘッドコーチ)に、レースを振り返ってもらった。
◇ ◇ ◇
山下一貴選手の金メダルは、本当に「あっぱれ」の一言に尽きます。一点を見つめて走り続け、42.195kmしっかりと集中力を保ち続けたマラソンだったのではないかと感じました。
序盤から、目線を前の選手の腰あたりに置き、暑さ対策もあるとは思いますが帽子を深くかぶって視線を一定にする。そうすることで姿勢もしっかりと整い、余計な力を使わず省エネの走りが目を引きました。17km付近のペースアップでも、自分のペースを崩さず、実に冷静に対応していたと思います。
ペース的にも余裕がある展開だったのかもしれませんが、湿度が高く、コンディションとしては難しいものがあったでしょう。それでも、常に余裕をもっていい位置をキープしていた流れを作れたことが、勝負に大きく生かされたのではないでしょうか。
32.5kmで一度離された場面も、普通なら焦って追いかけるなど変な動きをしてしまいがちですが、17km付近の時と同様に徐々に差を詰めていき、うまく距離を取りながら勝負所で前に出る。そこからも手を緩めることなく最後まで押し切るという、本当に強いと感じさせるレースでした。
金メダルへのポイントとしては、やはり「冷静さ」を挙げます。常に余裕を持ち、勝負所を見定めて良い位置をキープする。言葉にすると簡単に聞こえるかもしれませんが、簡単にできることではありません。自分のやるべきことにしっかりとフォーカスできたことが、一番大きいと思います。そういった意味で、それをアジア大会という大舞台で体現し、勝ち切ったことの価値は非常に高いと言えます。
夏のマラソンですから、すべてが今後に直結するというわけではないかもしれません。しかし、アスリートは「勝つ」ことで「強さ」を身につけていくもの。自己ベストなど「速さ」は多くの選手が経験できますが、「勝つ」ことは1レースに1人だけ。限られた人にしか得られないないものなので、山下選手にとっては非常に大きな経験となったはずです。勝って成功体験を積み重ねていくことが、世界のトップに近づいていくための重要なステップの一つです。
23年ブダペスト世界選手権では、終盤に一時メダルラインに迫りながらも、そこから脚にケイレンが起きて入賞にあと一歩の11位。そこからケガや不調など苦しい時期が長く続いていました。一度こういった状況に陥ると、そこからもう一度立て直すことは容易なことではありません。その精神力も本当に素晴らしいと思います。
また、三菱重工が持つマラソンへのノウハウもさすがの一言。狙ったレースに、ベストのコンディションで臨むということも簡単なことではないでしょう。その前提として、トレーニングを継続するということが、どんなレースでも結果を残すために欠かせない要素です。
11位だった吉田祐也選手(GMOインターネットグループ)は、「脚が抜ける」症状が出る中で非常に難しいレースだったと思います。
女子については、矢田みくに選手はマラソンランナーとして着実に成長していると感じました。転倒がありながらも集団に戻り、自分で積極的に仕掛ける場面も多く見られました。世界の強豪とはまだ差があるとは思いますが、着実に強さを身につけていると感じます。
佐藤早也伽選手も離れてからもう一度追い上げ、4位に食い込むところは、まとめる力はさすがだと感じました。これは重要な能力。次のステップにつながるレースになったのではないでしょうか。
◎竹澤健介(たけざわ・けんすけ)
摂南大陸上競技部ヘッドコーチ。早大3年時の2007年に大阪世界選手権10000m、同4年時の08年北京五輪5000m、10000mに出場。箱根駅伝では2年時から3年連続区間賞を獲得した。日本選手権はエスビー食品時代の10年に10000mで優勝している。自己ベストは500m13分19秒00、10000m27分45秒59。
RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking
人気記事ランキング
Latest articles 最新の記事
Latest Issue
最新号
2026年10月号 (9月14日発売)
アジア大会総展望
山口全中&日本インカレ
サウェ特集