2026.09.26
9月25日に愛知県名古屋市のパロマ瑞穂スタジアムで行われた名古屋アジア大会の男子100mは、プリポル・ブーンソン(タイ)が9秒90(+0.1)で優勝を飾った。日本は多田修平、小池祐貴(ともに住友電工)が出場したが、いずれも準決勝で敗退している。2008年北京五輪男子4×100mリレー銀メダリストの高平慎士さん(富士通一般種目ブロック長)に、レースを振り返ってもらった。
◇ ◇ ◇
今大会はプリポル・ブーンソン選手の強さが際立った大会となりました。
前日の予選で9秒95(-0.2)、19時33分からの準決勝で大会新の9秒91(+0.1)、そして約3時間弱のインターバルで迎えた決勝で9秒90。世界大会よりも準決勝と決勝の間はやや長いですが、ほぼ同じと言えるスケジュールの中でこの水準のタイムを連発したということは、世界のファイナルに行く可能性を大いに示した結果と言えます。
18歳だった24年のU20世界選手権で銀メダル。同年のパリ五輪、昨年の東京世界選手権では準決勝に進出。昨年12月にはアジア歴代3位の9秒94をマークと、その強さにはすでに注目が集まっていました。
その中で今回、3本をそろえる世界基準の戦い方を示しました。予選のタイムが来年の北京世界選手権の参加標準記録。今後はあれがワールドスタンダードとなるわけで、世界との“物差し”となります。そのタイムを悠々と出したわけですから、今のアジアの中では別格の存在だという印象を強く持ちました。
100mにおけるレースの流れ、フォームなどに関しては、1984年ロサンゼルス、1991年ソウルと五輪連覇を飾るなど一時代を築いたカール・ルイスをほうふつとさせます。これは、私自身がルイスを指導したトム・テレツ氏の門下だったことからより感じるのかもしれません。今の選手で言えば、9月の世界アルティメット選手権100m、200m2冠のケネス・ベドナレク(米国)のようなイメージです。
立ち上がりからしっかりとスピードに乗せていき、最大スピードを出してから最後まで走り抜けていく流れなど。力感なく、それでもグングンと進んでいく。実現させようとしてもなかなかできないスタイルで、本当にセンスの良さと能力の高さを感じさせます。
恐らく、明日の200m決勝でも自身初の19秒台は間違いないのではないでしょうか。条件次第では謝震業選手(中国)の持つ19秒88のアジア記録更新はもちろん、19秒7台、19秒6台が出てもおかしくありません。
まだ20歳とはいえ、つかめるチャンスを逃すと、次があるとは限りません。旬なタイミングで迎える北京世界選手権、28年のロサンゼルス五輪で勝負するということを大事にしてほしいと思います。
日本勢は、5年ぶりに日本選手権を制した多田修平選手、3大会連続出場だった小池祐貴選手がともに準決勝敗退となりました。日本勢として2大会連続でファイナルに残れない結果は、しっかりと受け止めるべきでしょう。
ブーンソン選手、決勝で10秒04、10秒11の自己新をマークして銀、銅メダルを獲得したオマーンのアリ・アル・バルシ、マイハム・アル・バルシ両選手など、アジア大会におけるレベルの高さを改めて感じました。また、今の日本勢の課題でもある「決勝にしっかりとタイムを上げてくる」点では、ほぼ同水準のタイムでまとめた4位、5位の韓国勢も含めて上位選手たちはさすがと言えます。
とはいえ、決勝進出の最低記録は10秒25、プラス通過のラインは10秒24。日本で開催された大会で、しかも日本選手権を経験している2人にとっては、決して難しくはないタイムです。
もちろん、世界アルティメット選手権であったり、ダイヤモンドリーグ・ファイナルなどをターゲットに置く選手もいますが、日本にとっては32年ぶり地元開催のこのアジア大会は今季最大の目標。そこでなぜ戦えなったのか。これは選手だけではなく、日本全体として危機感を持ち、その原因を検証をすべきだと感じています。
200m、400m、リレーとスプリント陣には巻き返しの場があります。日本代表としての責任、プライドを持って、アジアの強豪たちと戦い抜いてほしいと思います。
◎高平慎士(たかひら・しんじ)
富士通陸上競技部一般種目ブロック長。五輪に3大会連続(2004年アテネ、08年北京、12年ロンドン)で出場し、北京大会では4×100mリレーで銀メダルに輝いた(3走)。自己ベストは100m10秒20、200m20秒22(日本歴代7位)
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