2026.09.14
大学駅伝3冠を成し遂げた2010年度以来、早大は三大駅伝の頂点から遠ざかっているが、今季は優勝への機運が高まっている。今季前半戦、早大の選手たちは学生長距離界を席巻した。
「強い選手がきっちり結果を出した。この5年間で一番良かった」
花田勝彦駅伝監督も手応えを口にする。指揮官への就任以来、〝圧倒的な個〟の育成を掲げてきたが、今季は各学年に柱となる存在がおり、試合ごとに代わる代わる主役の座を担った。
大黒柱の工藤はロードを主戦場にトラックでも活躍
最上級生を迎えた〝山の名探偵〟こと工藤慎作(4年)は、3月の東京マラソンで2時間7分34秒(日本人5番目の20位)と快走。初マラソンを経て「すべての能力が上がった」と言い、前半戦からロードを主戦場に活躍した。5月のTokyo:Speed:Race 5kmでは日本記録にあと1秒と迫る13分31秒の好記録で優勝。6月のB.A.A. 10K(米国・ボストン)では世界のトップランナーと競って8位に入った。

ハーフマラソンで現役日本人学生トップの記録(1時間00分06秒)を持つ早稲田の大黒柱・工藤慎作。学生最後の駅伝シーズンではどんな走りを見せるか
成長著しい3年生の山口、「前半戦は自分でも驚く結果が多かった」
3年生の山口竣平は、4月の日本インカレ10000mに27分59秒47の好記録で優勝。7月のホクレンDC千歳大会では5000mで日本人学生歴代4位(留学生も含めた日本学生歴代9位)となる13分17秒19をマークした。
「前半戦は自分の中でも驚く結果が多かった一方で『まだまだいけた』、『まだまだいきたい』という感情もある」と、大きな成長を見せながらも、さらなる飛躍を誓っている。
日本インカレ10000mでは、吉倉ナヤブ直希(3年)も28分13秒07の自己新記録で3位に入っている。

5000m、10000mでチームトップの記録を持つ3年生の山口竣平。箱根駅伝では2区で勝負するつもりだ
2年生の鈴木は日本選手権5000mで2年連続学生最上位
2年生では、鈴木琉胤が5000mで活躍。4月の金栗記念で13分20秒64の自己ベストで7位(日本人2位)となると、6月の日本選手権では4位に入賞し、2年続けて学生最上位となった。さらに、7月のU23アジア選手権(中国・オルドス)では金メダルに輝いた。
「春先は納得のいかないレースから始まりましたが、自分の気持ちや走りを見直して、段々と地力の付いた走りができてきました」と言い、着実に走りを磨いてきた。
U23アジア選手権では、佐々木哲も3000m障害で銀メダルを獲得している。

2年生ホープの鈴木琉胤も着実に力を付け、駅伝シーズンでは昨年度以上の爆発力を発揮しそうだ
Wを勢い付ける強力1年生トリオ
そして、チームを一層活気づけたのが3人のルーキーたちだ。年末の全国高校駅伝の1区(10km)で1位から3位を占めるなど昨年度の高校長距離界を沸かせた増子陽太(学法石川高卒)、新妻遼己(西脇工高卒)、本田桜二郎(鳥取城北高卒)が、入学直後から存在感を示している。
増子は5000mでU20日本記録を2度(13分22秒87、13分20秒35)も更新。日本選手権では7位に入賞した。本田は日本選手権の1500mで2位と活躍。8月のU20世界選手権(米国・ユージン)は2種目に出場し、3000mで銅メダルを獲得した。新妻はなかなか本領を発揮できずにいたが、U20世界選手権では3000mで大幅に自己ベストを更新し、夏を前にエンジンがかかってきた。
ここまでに名前を挙げた選手たちや、駅伝主将の小平敦之(4年)は、今季の駅伝シーズンもチームの軸になるだろう。
「そろそろ区間配置等を考えなければいけない。江本(亘)コーチとは、客観的なデータをもとに、早稲田が勝つために何が必要かを探るためにAIを活用しようという話をしています。ただ、それが正解ではないと思うので、それにプラスして、自分たちの目で見てきたことを踏まえて考えていきたいと思っています」(花田監督)
駅伝シーズンに向けて、少しずつ構想を固めている最中だ。

早大の戦力を一気に上昇させた強力1年生トリオの(左から)新妻遼己、増子陽太、本田桜二郎。このうち増子と本田は、2年生の鈴木とともに9月19日、20日の世界ロードランニング選手権(デンマーク・コペンハーゲン)を経て駅伝シーズンに挑む
〝全員が主役のチーム〟を理想に掲げる小平駅伝主将
「チームで勝ちたい」という思いが今季の早大は強く、花田監督も箱根駅伝後の学生たちの意識の高まりを感じている。
前回の箱根駅伝では、5区の終盤まで先頭を走りながらも青学大に逆転されて往路優勝を逃した。さらに、最終盤まで3位争いを繰り広げたが、結局、総合4位に終わっている。目標にしていた〝先頭の景色〟を目にすることはできたが、味わった悔しさもまた大きかった。
チーム力という観点では、今季の駅伝主将を務める小平の存在が大きい。
「『自分の強みをチームに還元しよう』と、みんなに話をしています。例えば、合宿の時であれば、長い距離を得意とする選手が練習を引っ張るとか」
こう話すように、小平は〝全員が主役のチーム〟を理想に掲げている。
また、駅伝主務の髙尾啓太朗(4年)とともに定期的に個人面談を行い、さらに、学生ミーティングの際には『お互いの良いところを褒め合う企画』を実施するなどチームの雰囲気づくりに力を注いできた。その甲斐あって、なかなかスポットライトが当たらずともモチベーションを保ち、着々と力を蓄えてきた選手は多い。
「小平が『チームで強くなる』ということを気にかけてくれて、下のほうの選手のレベルもすごく上がっています」と花田監督が言うように、底上げも着実に進んでいる。

チームをまとめる駅伝主将の小平敦之
確実に底上げが進み、チーム内競争も激化
8月中旬に行われた妙高合宿(新潟)は22人ほどが参加したが、ボーダーライン付近の選手が多く、誰を選抜すべきか、花田監督も頭を悩ませたほどだった。
その中で、選抜されたメンバーはきっちりと存在感を示した。ルーキーの上杉敦史はタフな練習で強さを見せ、斉藤天紀(2年)や和田寛(1年)といった下級生の一般組(指定校推薦や一般入試、または附属校・系属校から進学した選手)も必死に上級生に食らいつき、時には集団を引っ張る場面もあった。

若手の力も確実に上昇し、チーム内競争が激しくなっている
「優勝を目指すためにはチーム力のもう1ランクアップを」
ただ、三大駅伝の優勝という高い目標を掲げているだけに、「去年のレベルよりは上ですが、優勝を目指すチームであれば、もう1ランク上がらないと」と、花田監督はさらなるレベルアップを求めている。
「周りからは『今年は早稲田が優勝だ』と言われますが、昨年度はトップ3に入ったのは出雲だけ(2位)です。全日本は5番、箱根は4番ですから。もちろん優勝という目標を持って三大駅伝に臨みますが、まずは、いつ走ってもトップ3に入れるようなチーム状況を作ることかなと思います」
前半戦の充実ぶりにも、花田監督が手綱を緩めることはない。主軸や中堅だけでなく、駅伝メンバー入りのボーダーラインになりそうな選手たちを含めたチームの総合力をさらに高めていくことが課題だ。
夏合宿は7月末の長野・菅平から始まり、群馬・尾瀬岩鞍(全体)、新潟・妙高と起伏のあるところで走り込んだ。8月下旬は北海道・紋別に場所を移し、より実戦的な練習を積み上げた。9月に再び菅平で選抜合宿を行い、いよいよ実りの秋を迎える。
前半戦に続き、後半戦の駅伝シーズンも臙脂のWが席巻しそうな予感がする。

学生三大駅伝の優勝に向けて「チーム力を1ランクアップさせたい」と話す花田勝彦駅伝監督
●文/和田悟志、撮影/石井啓祐
ハーフマラソンで現役日本人学生トップの記録(1時間00分06秒)を持つ早稲田の大黒柱・工藤慎作。学生最後の駅伝シーズンではどんな走りを見せるか[/caption]成長著しい3年生の山口、「前半戦は自分でも驚く結果が多かった」3年生の山口竣平は、4月の日本インカレ10000mに27分59秒47の好記録で優勝。7月のホクレンDC千歳大会では5000mで日本人学生歴代4位(留学生も含めた日本学生歴代9位)となる13分17秒19をマークした。「前半戦は自分の中でも驚く結果が多かった一方で『まだまだいけた』、『まだまだいきたい』という感情もある」と、大きな成長を見せながらも、さらなる飛躍を誓っている。日本インカレ10000mでは、吉倉ナヤブ直希(3年)も28分13秒07の自己新記録で3位に入っている。[caption id="attachment_215504" align="alignnone" width="800"]
5000m、10000mでチームトップの記録を持つ3年生の山口竣平。箱根駅伝では2区で勝負するつもりだ[/caption]2年生の鈴木は日本選手権5000mで2年連続学生最上位2年生では、鈴木琉胤が5000mで活躍。4月の金栗記念で13分20秒64の自己ベストで7位(日本人2位)となると、6月の日本選手権では4位に入賞し、2年続けて学生最上位となった。さらに、7月のU23アジア選手権(中国・オルドス)では金メダルに輝いた。「春先は納得のいかないレースから始まりましたが、自分の気持ちや走りを見直して、段々と地力の付いた走りができてきました」と言い、着実に走りを磨いてきた。U23アジア選手権では、佐々木哲も3000m障害で銀メダルを獲得している。[caption id="attachment_215506" align="alignnone" width="800"]
2年生ホープの鈴木琉胤も着実に力を付け、駅伝シーズンでは昨年度以上の爆発力を発揮しそうだ[/caption]Wを勢い付ける強力1年生トリオそして、チームを一層活気づけたのが3人のルーキーたちだ。年末の全国高校駅伝の1区(10km)で1位から3位を占めるなど昨年度の高校長距離界を沸かせた増子陽太(学法石川高卒)、新妻遼己(西脇工高卒)、本田桜二郎(鳥取城北高卒)が、入学直後から存在感を示している。増子は5000mでU20日本記録を2度(13分22秒87、13分20秒35)も更新。日本選手権では7位に入賞した。本田は日本選手権の1500mで2位と活躍。8月のU20世界選手権(米国・ユージン)は2種目に出場し、3000mで銅メダルを獲得した。新妻はなかなか本領を発揮できずにいたが、U20世界選手権では3000mで大幅に自己ベストを更新し、夏を前にエンジンがかかってきた。ここまでに名前を挙げた選手たちや、駅伝主将の小平敦之(4年)は、今季の駅伝シーズンもチームの軸になるだろう。「そろそろ区間配置等を考えなければいけない。江本(亘)コーチとは、客観的なデータをもとに、早稲田が勝つために何が必要かを探るためにAIを活用しようという話をしています。ただ、それが正解ではないと思うので、それにプラスして、自分たちの目で見てきたことを踏まえて考えていきたいと思っています」(花田監督)駅伝シーズンに向けて、少しずつ構想を固めている最中だ。[caption id="attachment_215540" align="alignnone" width="800"]
早大の戦力を一気に上昇させた強力1年生トリオの(左から)新妻遼己、増子陽太、本田桜二郎。このうち増子と本田は、2年生の鈴木とともに9月19日、20日の世界ロードランニング選手権(デンマーク・コペンハーゲン)を経て駅伝シーズンに挑む[/caption]〝全員が主役のチーム〟を理想に掲げる小平駅伝主将「チームで勝ちたい」という思いが今季の早大は強く、花田監督も箱根駅伝後の学生たちの意識の高まりを感じている。前回の箱根駅伝では、5区の終盤まで先頭を走りながらも青学大に逆転されて往路優勝を逃した。さらに、最終盤まで3位争いを繰り広げたが、結局、総合4位に終わっている。目標にしていた〝先頭の景色〟を目にすることはできたが、味わった悔しさもまた大きかった。チーム力という観点では、今季の駅伝主将を務める小平の存在が大きい。
「『自分の強みをチームに還元しよう』と、みんなに話をしています。例えば、合宿の時であれば、長い距離を得意とする選手が練習を引っ張るとか」こう話すように、小平は〝全員が主役のチーム〟を理想に掲げている。また、駅伝主務の髙尾啓太朗(4年)とともに定期的に個人面談を行い、さらに、学生ミーティングの際には『お互いの良いところを褒め合う企画』を実施するなどチームの雰囲気づくりに力を注いできた。その甲斐あって、なかなかスポットライトが当たらずともモチベーションを保ち、着々と力を蓄えてきた選手は多い。「小平が『チームで強くなる』ということを気にかけてくれて、下のほうの選手のレベルもすごく上がっています」と花田監督が言うように、底上げも着実に進んでいる。[caption id="attachment_215542" align="alignnone" width="800"]
チームをまとめる駅伝主将の小平敦之[/caption]確実に底上げが進み、チーム内競争も激化8月中旬に行われた妙高合宿(新潟)は22人ほどが参加したが、ボーダーライン付近の選手が多く、誰を選抜すべきか、花田監督も頭を悩ませたほどだった。その中で、選抜されたメンバーはきっちりと存在感を示した。ルーキーの上杉敦史はタフな練習で強さを見せ、斉藤天紀(2年)や和田寛(1年)といった下級生の一般組(指定校推薦や一般入試、または附属校・系属校から進学した選手)も必死に上級生に食らいつき、時には集団を引っ張る場面もあった。[caption id="attachment_215512" align="alignnone" width="800"]
若手の力も確実に上昇し、チーム内競争が激しくなっている[/caption]「優勝を目指すためにはチーム力のもう1ランクアップを」ただ、三大駅伝の優勝という高い目標を掲げているだけに、「去年のレベルよりは上ですが、優勝を目指すチームであれば、もう1ランク上がらないと」と、花田監督はさらなるレベルアップを求めている。「周りからは『今年は早稲田が優勝だ』と言われますが、昨年度はトップ3に入ったのは出雲だけ(2位)です。全日本は5番、箱根は4番ですから。もちろん優勝という目標を持って三大駅伝に臨みますが、まずは、いつ走ってもトップ3に入れるようなチーム状況を作ることかなと思います」前半戦の充実ぶりにも、花田監督が手綱を緩めることはない。主軸や中堅だけでなく、駅伝メンバー入りのボーダーラインになりそうな選手たちを含めたチームの総合力をさらに高めていくことが課題だ。夏合宿は7月末の長野・菅平から始まり、群馬・尾瀬岩鞍(全体)、新潟・妙高と起伏のあるところで走り込んだ。8月下旬は北海道・紋別に場所を移し、より実戦的な練習を積み上げた。9月に再び菅平で選抜合宿を行い、いよいよ実りの秋を迎える。前半戦に続き、後半戦の駅伝シーズンも臙脂のWが席巻しそうな予感がする。[caption id="attachment_215513" align="alignnone" width="800"]
学生三大駅伝の優勝に向けて「チーム力を1ランクアップさせたい」と話す花田勝彦駅伝監督[/caption]●文/和田悟志、撮影/石井啓祐RECOMMENDED おすすめの記事
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