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2026.08.19

ドキュメント/福井の夏に動いた「1秒」の重み 情熱、継続、挑戦が生み出す奇跡の夜
ドキュメント/福井の夏に動いた「1秒」の重み 情熱、継続、挑戦が生み出す奇跡の夜

9年前の自己記録から1秒短縮した中島ひとみ

またも福井で歴史が動いた。女子100mハードルで、中島ひとみ(長谷川体育施設)が12秒60の日本新を樹立。富士北麓ワールドトライアルで中島自身が12秒62の日本新を打ち立ててから、わずか6日後のことだった。0.02秒の更新。だが、その裏には「9年間」の物語がある――。

2019年に産声を上げたAthlete Night Gamesは8回目を迎えた。会場となる福井県営スタジアム。「9.98スタジアム」の愛称は、タクシーの運転手にも通じるほど、すっかりおなじみになった。

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すべてのきっかけは9年前の2017年。日本インカレの男子100mで、当時・東洋大4年だった桐生祥秀(現・日本生命)が日本人初の10秒切りとなる9秒98をマークしたこと。その熱狂を感じた福井の陸上関係者が、「もう一度、あの興奮を」「海外のようなナイターの競技会を開催したい」と立案した。

初回大会から日本記録が複数誕生し、昨年も男子110mハードルで村竹ラシッド(JAL)が13秒の壁を打ち破る12秒92の日本新。トラック脇に観客を入れ、フィールド種目を間近で観戦できるなど、選手とファンの近さもこの大会の醍醐味だ。

当初から変わらず、クラウドファンディングで運営資金を集め、そのほとんどは選手の招待や賞金に充てられた。それは、日本グランプリシリーズの仲間入りを果たしたり、台風で中止になりそうになったりしても、変わらなかった。

発足当時は敦賀高教員で、現在は教員を辞めてプロジェクトを突き動かす木原靖之氏がその中心。部活の地域移行などを鑑みて一般社団法人GFIアカデミーを立ち上げ、大会の運営をコントロールしている。

木原氏はかねてから、「いろいろなスポーツとコラボをするなど、もっと大きくしていきたい」という思いを持ち続けた。そのために、地元企業をいくつも行脚し、協力者集めに奔走。その情熱にほだされ、看板には有力企業が並ぶ。

昨年、初めて大会と並行してスポーツ・文化交流イベント「Fukui Sprots&Culture Summit」(すぽカル)が開催。野球やサッカー、フットサル、さらにはスポーツチャンバラ、モルック、eスポーツまで、いろいろな団体がブースを出した。昨年はマルシェ、今年は生け花や茶道、三味線など、『文化』との交流を発展させている。

年々、規模も、注目度も大きくなっていく一方で、期待のハードルもどんどんと上がっていく。7月2日の大会に向けた会見では、GFIアカデミーの中山東氏が「日本記録が出るとすれば、女子100mハードルの中島ひとみ選手」と期待を寄せていた。

だが、“当たり前”になると、人々はなかなか動いてくれないもの。クラウドファンディングも1回目ほど注目を浴びにくくなる。福井出身の大久保有梨と上田紗弥花さんを中心に、SNSを活用して大会の発信をし続けた。2人は大会期間中も、何度も汗だくになり着替えてはまたキビキビと動く。現役の大久保はレースにも出場。終わればすぐにスタッフに回った。

大会発足に際し、いの一番に協力を得た、当時・福井陸協会長で、フクビ化学工業の会長を務める八木誠一郎氏の「同じことを同じように続けるだけでは価値が下がる。チャレンジし続けなければいけない」という言葉を、主催者たちは肝に銘じている。

メイン種目の決勝ラッシュ。いつものようにスタジアムDJが盛り上げ、ご当地人気のゆるキャラ「はぴりゅう」も一役買う。男女100mはサッカーのようにエスコートキッズと手をつないで入場。さらに今回は急きょ、三味線と和太鼓を使って選手の呼び込みという新たな演出が加わる。心が震え、選手の表情に気合が入った。

エスコートキッズと入場

チャレンジし続ける精神は、ここにいるアスリートたちも同じ。

9年前。この地で歴史を動かした桐生は、9年経った今も日本のトップを走り続け、またこのスタートラインに立っていた。予選に登場すると、ひときわ大きな歓声を受ける。10秒11(+0.3)をマーク。決勝こそ4位に敗れたが、桐生が走れば人々はワクワクする。

「勝てなかったのは悔しいですが、予選も良いレースができました。次につながります」

レースの後は、たくさんのファンに対応。サインも入ったカードなどが手渡された。ここは桐生にとって人生が変わった特別な場所。大会の中で、桐生が発案したプロジェクト「Sprint 50」も以前実施している。

「あの時に(Sprint 50を)走ったという子どもが高2になっていたんです。それに、9秒98を見ていたという方も来てくれました。本当に大事にしていきたいです」

9年前、同じく日本インカレを戦っていた、洛南高時代からの親友・山川夏輝(当時・日大、Team SSP)は、3年ぶりに8mジャンプを見せて優勝。9年経ち、2人はともに父親になった。あの頃とは違うものを背負いながら、自らを鼓舞している。

ひときわ大きな声援を浴びる桐生祥秀

走幅跳で優勝した山川夏輝

その9年前の日本インカレの100mハードルで、5位に入賞していたのが中島ひとみだった。桐生らと同学年で、当時・園田学園女大の4年。高2の日本ユースで日本一になってから、長くその光景にたどり着けず、大学での引退も考えた時期もあった。

「もうちょっと陸上を頑張ってみよう」。今ほど光を浴びる存在ではなかったが、準決勝で当時自己記録となる13秒60をマーク。自分だけの“歴史”を動かし、もうちょっとだけ頑張ってみよう、とその心が動いた。

それから9年かけ、中島はその記録をちょうど1秒短縮した。「12秒5台に入れば1秒更新だなと思っていたんです」。この9年の歩みに、思わず涙が浮かび「日本記録を作るよりもこの過程を大切に思う」と誇った。立ち止まらず、継続し、チャレンジし続けた証だった。

12秒60の日本新を樹立した中島ひとみ

ファンの行列が途切れず、なかなかトラックを離れられなかった桐生祥秀。「足が速いうちはここに出られるようにしたいです!」。まだまだこの舞台を走り続けるだろう。

観客は過去最多の約4000人(主催者発表)。クラウドファンディングでは463万円が集まった。中島の記録はこの大会で誕生した6個目の日本記録だった。関係者はあと2年に迫った「10回目」を強く意識する。メモリアルな大会に向けて、アスリート同様に進化の足を止めない。福井の夏を彩ってきた奇跡の夜。来年以降も大きな花火が打ち上がりそうだ。

文/向永拓史

福井ナイトゲームズは過去最多の入場者数となった

またも福井で歴史が動いた。女子100mハードルで、中島ひとみ(長谷川体育施設)が12秒60の日本新を樹立。富士北麓ワールドトライアルで中島自身が12秒62の日本新を打ち立ててから、わずか6日後のことだった。0.02秒の更新。だが、その裏には「9年間」の物語がある――。2019年に産声を上げたAthlete Night Gamesは8回目を迎えた。会場となる福井県営スタジアム。「9.98スタジアム」の愛称は、タクシーの運転手にも通じるほど、すっかりおなじみになった。すべてのきっかけは9年前の2017年。日本インカレの男子100mで、当時・東洋大4年だった桐生祥秀(現・日本生命)が日本人初の10秒切りとなる9秒98をマークしたこと。その熱狂を感じた福井の陸上関係者が、「もう一度、あの興奮を」「海外のようなナイターの競技会を開催したい」と立案した。初回大会から日本記録が複数誕生し、昨年も男子110mハードルで村竹ラシッド(JAL)が13秒の壁を打ち破る12秒92の日本新。トラック脇に観客を入れ、フィールド種目を間近で観戦できるなど、選手とファンの近さもこの大会の醍醐味だ。当初から変わらず、クラウドファンディングで運営資金を集め、そのほとんどは選手の招待や賞金に充てられた。それは、日本グランプリシリーズの仲間入りを果たしたり、台風で中止になりそうになったりしても、変わらなかった。発足当時は敦賀高教員で、現在は教員を辞めてプロジェクトを突き動かす木原靖之氏がその中心。部活の地域移行などを鑑みて一般社団法人GFIアカデミーを立ち上げ、大会の運営をコントロールしている。木原氏はかねてから、「いろいろなスポーツとコラボをするなど、もっと大きくしていきたい」という思いを持ち続けた。そのために、地元企業をいくつも行脚し、協力者集めに奔走。その情熱にほだされ、看板には有力企業が並ぶ。昨年、初めて大会と並行してスポーツ・文化交流イベント「Fukui Sprots&Culture Summit」(すぽカル)が開催。野球やサッカー、フットサル、さらにはスポーツチャンバラ、モルック、eスポーツまで、いろいろな団体がブースを出した。昨年はマルシェ、今年は生け花や茶道、三味線など、『文化』との交流を発展させている。年々、規模も、注目度も大きくなっていく一方で、期待のハードルもどんどんと上がっていく。7月2日の大会に向けた会見では、GFIアカデミーの中山東氏が「日本記録が出るとすれば、女子100mハードルの中島ひとみ選手」と期待を寄せていた。だが、“当たり前”になると、人々はなかなか動いてくれないもの。クラウドファンディングも1回目ほど注目を浴びにくくなる。福井出身の大久保有梨と上田紗弥花さんを中心に、SNSを活用して大会の発信をし続けた。2人は大会期間中も、何度も汗だくになり着替えてはまたキビキビと動く。現役の大久保はレースにも出場。終わればすぐにスタッフに回った。大会発足に際し、いの一番に協力を得た、当時・福井陸協会長で、フクビ化学工業の会長を務める八木誠一郎氏の「同じことを同じように続けるだけでは価値が下がる。チャレンジし続けなければいけない」という言葉を、主催者たちは肝に銘じている。メイン種目の決勝ラッシュ。いつものようにスタジアムDJが盛り上げ、ご当地人気のゆるキャラ「はぴりゅう」も一役買う。男女100mはサッカーのようにエスコートキッズと手をつないで入場。さらに今回は急きょ、三味線と和太鼓を使って選手の呼び込みという新たな演出が加わる。心が震え、選手の表情に気合が入った。[caption id="attachment_214575" align="alignnone" width="800"] エスコートキッズと入場[/caption]チャレンジし続ける精神は、ここにいるアスリートたちも同じ。9年前。この地で歴史を動かした桐生は、9年経った今も日本のトップを走り続け、またこのスタートラインに立っていた。予選に登場すると、ひときわ大きな歓声を受ける。10秒11(+0.3)をマーク。決勝こそ4位に敗れたが、桐生が走れば人々はワクワクする。「勝てなかったのは悔しいですが、予選も良いレースができました。次につながります」レースの後は、たくさんのファンに対応。サインも入ったカードなどが手渡された。ここは桐生にとって人生が変わった特別な場所。大会の中で、桐生が発案したプロジェクト「Sprint 50」も以前実施している。「あの時に(Sprint 50を)走ったという子どもが高2になっていたんです。それに、9秒98を見ていたという方も来てくれました。本当に大事にしていきたいです」9年前、同じく日本インカレを戦っていた、洛南高時代からの親友・山川夏輝(当時・日大、Team SSP)は、3年ぶりに8mジャンプを見せて優勝。9年経ち、2人はともに父親になった。あの頃とは違うものを背負いながら、自らを鼓舞している。[caption id="attachment_214572" align="alignnone" width="800"] ひときわ大きな声援を浴びる桐生祥秀[/caption][caption id="attachment_214570" align="alignnone" width="800"] 走幅跳で優勝した山川夏輝[/caption]その9年前の日本インカレの100mハードルで、5位に入賞していたのが中島ひとみだった。桐生らと同学年で、当時・園田学園女大の4年。高2の日本ユースで日本一になってから、長くその光景にたどり着けず、大学での引退も考えた時期もあった。「もうちょっと陸上を頑張ってみよう」。今ほど光を浴びる存在ではなかったが、準決勝で当時自己記録となる13秒60をマーク。自分だけの“歴史”を動かし、もうちょっとだけ頑張ってみよう、とその心が動いた。それから9年かけ、中島はその記録をちょうど1秒短縮した。「12秒5台に入れば1秒更新だなと思っていたんです」。この9年の歩みに、思わず涙が浮かび「日本記録を作るよりもこの過程を大切に思う」と誇った。立ち止まらず、継続し、チャレンジし続けた証だった。[caption id="attachment_214574" align="alignnone" width="800"] 12秒60の日本新を樹立した中島ひとみ[/caption]ファンの行列が途切れず、なかなかトラックを離れられなかった桐生祥秀。「足が速いうちはここに出られるようにしたいです!」。まだまだこの舞台を走り続けるだろう。観客は過去最多の約4000人(主催者発表)。クラウドファンディングでは463万円が集まった。中島の記録はこの大会で誕生した6個目の日本記録だった。関係者はあと2年に迫った「10回目」を強く意識する。メモリアルな大会に向けて、アスリート同様に進化の足を止めない。福井の夏を彩ってきた奇跡の夜。来年以降も大きな花火が打ち上がりそうだ。文/向永拓史 [caption id="attachment_214573" align="alignnone" width="800"] 福井ナイトゲームズは過去最多の入場者数となった[/caption]

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