HOME 特集

2026.09.13

「世界一遠くに投げたい」北口榛花 夢のために挑戦と努力を惜しまない“究極”のアスリート
「世界一遠くに投げたい」北口榛花 夢のために挑戦と努力を惜しまない“究極”のアスリート

世界アルティメット選手権のトロフィーに顔を近づける北口

◇世界アルティメット選手権2026(9月11~13日/ハンガリー・ブダペスト)

女子やり投の北口榛花(JAL)が自身の日本記録を3年ぶりに1m54cmも更新する68m92を放ち、『究極=アルティメット』を銘打った第1回の世界大会の初代女王となった。

広告の下にコンテンツが続きます

68m92は、アジア歴代2位、世界歴代10位タイ。これまで23年ブダペスト世界選手権、24年パリ五輪を制したが、「次は記録を」と語っていた北口にとって、まさに世界のやり投史に名を刻む一投だった。

まさに努力の人だ。身長180cmの恵まれた体格と、類い稀な身体能力と柔軟性を兼ね備え、それでいて幼い頃から勉強にも熱心で、今では英語とチェコ語で取材対応できるほどの知性を持つ。だが、その才能を努力と挑戦の日々で磨き続けている。

挫折は何度もある。高校記録保持者として鳴り物入りで日大に進学したが、右肘の故障やコーチ不在の状況に、伸び盛りの時期に3年間も自己記録更新から遠ざかった。一時は食事が喉を通らず体重が激減。日大の先輩たちが気づいてくれてなんとか持ちこたえた。

そうした状況を打破したのがチェコに渡る挑戦。SNSで自ら交渉し、単身チェコのドマジュリツェに渡って前コーチのディヴィッド・セケラック氏のもとに飛び込んだのはよく知られたエピソードだ。

チェコ挑戦1年目に、2度の日本記録更新。世界選手権も初出場した。だが、21年東京五輪では脇腹の肉離れ。一歩間違えれば競技生活を絶たれかねないほどの重傷だった。

それでも22年オレゴン世界選手権で女子トラック&フィールド初のメダルとなる3位。23年ブダペスト、24年パリ五輪と制し、記録も67m38の日本新を樹立して23年の世界リストトップに。ダイヤモンドリーグ・ファイナルも2連覇し、まさにやり投の世界女王に君臨した。

昨年は右肘を痛めて戦線離脱。東京世界選手権にはあと少し間に合わずに予選落ちとなり、涙で国立競技場を後にした。

成功と挫折を繰り返しているが、常に北口は前を向く。そこには、バスケットボールの選手だった母からの「勝つこともあれば、負けることもある」の精神があり、一喜一憂しても成功にも失敗にも引きずられることはない。

世界を2度制しても、北口が見ているのはもっと高い場所。「世界一、遠くにやりを投げたい」「世界中の人に知ってもらいたい」「いつか自分がピットを離れた時に、目標とされる選手になっていたい」。その夢に近づく可能性があるのなら、どんな挑戦もいとわない。

世界を獲ったチームを一新し、25年にトレーナーを代え、そして今年から新たに男子やり投世界記録保持者のヤン・ゼレズニー・コーチを迎えた。

シーズン序盤は成績が安定せず。SNSでは「終わった選手」「指導者を変更したからだ」など、心ない声もあった。自らの不調の一方、中国の新鋭、嚴子怡が台頭。5月のダイヤモンドリーグ・厦門大会では18歳になったばかりの嚴子怡に、目の前でアジア記録71m74を投げられた。

挫折や逆境もある。それらを、努力と挑戦と、そして笑顔とビッグスローでいつも跳ね返すのが北口榛花だ。

「シンプルに投げる」というゼレズニー・コーチのコンセプトのもと、やりを一度下ろして引く動作など、これまでの投てきフォームを一から作り直した。北口自身も「情報量、やることが多すぎる」と苦笑いし、「シーズン序盤は日本記録なんて言える状況ではなかった」とも振り返る。

それでも、ゼレズニー・コーチは「70mを投げる可能性はもちろんある。正しい方向に努力すべき」と語り、「彼女のピークは9月に来る」とまるで予言していたように話していた。

限られた選手だけが出場できる、この世界アルティメット選手権。主催する世界陸連(WA)は「究極のナンバーワンを決める」というのがテーマの大会で、優勝賞金は150,000ドル、およそ2300万円だ。「1回目の世界大会というのはなかなかない。やっぱり勝ちたい」。選ばれし者だけが手にするトロフィーを見つめ、静かに額に近づけた。

世界歴代10位タイの記録で、北口がずっと目標にしていた呂會會(中国)の前アジア記録67m98をついに超えた。

思い出深いブダペストで、つかんだ3度目の世界タイトル。「自分ならできると思って信じてやってきました。素晴らしい思い出がまたこのスタジアムでできました」。夢に向かい、惜しみない努力と挑戦をでつかみ取った姿は、まさに“究極”のアスリート像だった。

文/向永拓史

◇世界アルティメット選手権2026(9月11~13日/ハンガリー・ブダペスト)女子やり投の北口榛花(JAL)が自身の日本記録を3年ぶりに1m54cmも更新する68m92を放ち、『究極=アルティメット』を銘打った第1回の世界大会の初代女王となった。68m92は、アジア歴代2位、世界歴代10位タイ。これまで23年ブダペスト世界選手権、24年パリ五輪を制したが、「次は記録を」と語っていた北口にとって、まさに世界のやり投史に名を刻む一投だった。まさに努力の人だ。身長180cmの恵まれた体格と、類い稀な身体能力と柔軟性を兼ね備え、それでいて幼い頃から勉強にも熱心で、今では英語とチェコ語で取材対応できるほどの知性を持つ。だが、その才能を努力と挑戦の日々で磨き続けている。挫折は何度もある。高校記録保持者として鳴り物入りで日大に進学したが、右肘の故障やコーチ不在の状況に、伸び盛りの時期に3年間も自己記録更新から遠ざかった。一時は食事が喉を通らず体重が激減。日大の先輩たちが気づいてくれてなんとか持ちこたえた。そうした状況を打破したのがチェコに渡る挑戦。SNSで自ら交渉し、単身チェコのドマジュリツェに渡って前コーチのディヴィッド・セケラック氏のもとに飛び込んだのはよく知られたエピソードだ。チェコ挑戦1年目に、2度の日本記録更新。世界選手権も初出場した。だが、21年東京五輪では脇腹の肉離れ。一歩間違えれば競技生活を絶たれかねないほどの重傷だった。それでも22年オレゴン世界選手権で女子トラック&フィールド初のメダルとなる3位。23年ブダペスト、24年パリ五輪と制し、記録も67m38の日本新を樹立して23年の世界リストトップに。ダイヤモンドリーグ・ファイナルも2連覇し、まさにやり投の世界女王に君臨した。昨年は右肘を痛めて戦線離脱。東京世界選手権にはあと少し間に合わずに予選落ちとなり、涙で国立競技場を後にした。成功と挫折を繰り返しているが、常に北口は前を向く。そこには、バスケットボールの選手だった母からの「勝つこともあれば、負けることもある」の精神があり、一喜一憂しても成功にも失敗にも引きずられることはない。世界を2度制しても、北口が見ているのはもっと高い場所。「世界一、遠くにやりを投げたい」「世界中の人に知ってもらいたい」「いつか自分がピットを離れた時に、目標とされる選手になっていたい」。その夢に近づく可能性があるのなら、どんな挑戦もいとわない。世界を獲ったチームを一新し、25年にトレーナーを代え、そして今年から新たに男子やり投世界記録保持者のヤン・ゼレズニー・コーチを迎えた。シーズン序盤は成績が安定せず。SNSでは「終わった選手」「指導者を変更したからだ」など、心ない声もあった。自らの不調の一方、中国の新鋭、嚴子怡が台頭。5月のダイヤモンドリーグ・厦門大会では18歳になったばかりの嚴子怡に、目の前でアジア記録71m74を投げられた。挫折や逆境もある。それらを、努力と挑戦と、そして笑顔とビッグスローでいつも跳ね返すのが北口榛花だ。「シンプルに投げる」というゼレズニー・コーチのコンセプトのもと、やりを一度下ろして引く動作など、これまでの投てきフォームを一から作り直した。北口自身も「情報量、やることが多すぎる」と苦笑いし、「シーズン序盤は日本記録なんて言える状況ではなかった」とも振り返る。それでも、ゼレズニー・コーチは「70mを投げる可能性はもちろんある。正しい方向に努力すべき」と語り、「彼女のピークは9月に来る」とまるで予言していたように話していた。限られた選手だけが出場できる、この世界アルティメット選手権。主催する世界陸連(WA)は「究極のナンバーワンを決める」というのがテーマの大会で、優勝賞金は150,000ドル、およそ2300万円だ。「1回目の世界大会というのはなかなかない。やっぱり勝ちたい」。選ばれし者だけが手にするトロフィーを見つめ、静かに額に近づけた。世界歴代10位タイの記録で、北口がずっと目標にしていた呂會會(中国)の前アジア記録67m98をついに超えた。思い出深いブダペストで、つかんだ3度目の世界タイトル。「自分ならできると思って信じてやってきました。素晴らしい思い出がまたこのスタジアムでできました」。夢に向かい、惜しみない努力と挑戦をでつかみ取った姿は、まさに“究極”のアスリート像だった。文/向永拓史

次ページ:

       

RECOMMENDED おすすめの記事

    

Ranking 人気記事ランキング 人気記事ランキング

Latest articles 最新の記事

2026.10.23

U18・16大会が今日から伊勢で開幕! 次代を担うスターが今年最後の全国に挑む

◇第20回U18・第57回U16陸上競技大会(2026年10月23日~25日/三重交通Gスポーツの杜伊勢陸上競技場) U18大会ならびにU16大会は10月23日から3日間の日程で開催される。 広告の下にコンテンツが続きま […]

NEWS 関西実業団駅伝と中国実業団駅伝のエントリー発表! SGH・山口智規、住友電工・青木瑠郁、中国電力・菊地駿弥らが登録

2026.10.23

関西実業団駅伝と中国実業団駅伝のエントリー発表! SGH・山口智規、住友電工・青木瑠郁、中国電力・菊地駿弥らが登録

関西実業団陸上競技連盟は10月22日、第69回関西実業団対抗駅伝のエントリーを発表した。 来年元日に行われる全日本実業団対抗駅伝(ニューイヤー駅伝)の予選を兼ねた大会にはクラブチーム、オープン参加を含め18チームがエント […]

NEWS 埼玉栄が4年連続男女V、男子は大会新で10連覇! 岩手は女子が花巻東5年連続、男子は一関学院3年連続の全国へ/高校駅伝都道府県大会

2026.10.22

埼玉栄が4年連続男女V、男子は大会新で10連覇! 岩手は女子が花巻東5年連続、男子は一関学院3年連続の全国へ/高校駅伝都道府県大会

全国高校駅伝の出場権を懸けた埼玉県高校駅伝と岩手県高校駅伝が10月21日に行われた。埼玉では埼玉栄が4年連続の男女優勝を達成。岩手では女子の花巻東が5連覇、男子の一関学院が3連覇を達成し、それぞれ全国大会への切符を手にし […]

NEWS HOKAが「駅伝」に宿る情熱と努力に敬意を表したカプセルコレクション『虎視眈々/KOSHI TAN -TAN』を11月5日より発売!

2026.10.22

HOKAが「駅伝」に宿る情熱と努力に敬意を表したカプセルコレクション『虎視眈々/KOSHI TAN -TAN』を11月5日より発売!

HOKAは10月22日、「駅伝」の精神と目標に向かって挑み続けるランナーの絶え間ない努力に敬意を表したカプセルコレクション『虎視眈々/KOSHI TAN-TAN』を11月5日よりHOKA公式サイト、HOKA直営店、全国の […]

NEWS 後藤大樹が再び300mHに挑戦! IH、全中で活躍のトップ選手が今季最後の全国大会に臨む/U18・16大会

2026.10.21

後藤大樹が再び300mHに挑戦! IH、全中で活躍のトップ選手が今季最後の全国大会に臨む/U18・16大会

U18・U16陸上大会が10月23日から25日まで、三重県伊勢市の三重交通Gスポーツの杜伊勢陸上競技場で開催される。 U18大会は2025年12月31日時点の16歳、17歳が対象で高校3年生の早生まれと高校2年生、1年生 […]

    SNS

    Latest Issue 最新号最新号

    2026年11月号 (10月14日発売)

    2026年11月号 (10月14日発売)

    アジア大会総特集
    駅伝プレビュー

    page top