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2026.08.17

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スペシャル対談 シドニー五輪女子マラソン金メダリスト・高橋尚子×日本気圧バルク工業・天野紀英社長  酸素がもたらす効果、『O2Room®』のメリットとは―
スペシャル対談 シドニー五輪女子マラソン金メダリスト・高橋尚子×日本気圧バルク工業・天野紀英社長  酸素がもたらす効果、『O2Room®』のメリットとは―

酸素がもたらす効果、『O2Room®』のメリットなどについて語り合った日本気圧バルク工業の天野英紀社長(左)と同社のアンバサダーを務めるシドニー五輪女子マラソン金メダリストの高橋尚子さん

日本気圧バルク工業株式会社が製造・販売する酸素ルーム『O2Room®』は、陸上の長距離をはじめとするスポーツ界のみならず、医療や福祉、さらには一般家庭へとその普及を広げている。同社の天野英紀代表取締役社長と同社のアンバサダーを務めるシドニー五輪女子マラソン金メダリスト・高橋尚子さんの2人が、それぞれの立場から酸素がもたらす効果、『O2Room®』のメリットなどについて語り合った。

「酸素カプセル」から「酸素ルーム」へ発展、業界をリードする日本気圧バルク工業

高橋さんは現役時代、米国コロラド州ボルダー(標高約1600m)を拠点に過酷な高地トレーニングを重ね、2000年のシドニー五輪女子マラソンで金メダルを獲得、2001年のベルリン・マラソンで世界記録(当時)を樹立するなど数々の偉業を成し遂げた。

その過程で欠かせなかったのが〝酸素〟によるリカバリーだったという。

「私は現役時代、大切なレースの前にはアメリカのボルダーにおいて、3ヵ月から6ヵ月の長期に亘って高地トレーニングをしていました。高地でのトレーニングは平地以上に過酷ですから、ボルダーの住居には酸素カプセルを置いて、『今日は疲労が溜まったから明日はちゃんと練習できるかな?』という時や、『ケガではないけど、足が痛みそうだから予防したいな』という時に入っていました。当時は円筒形の酸素カプセルしかなかったので、入ったら横になって寝ているだけでしたが、酸素を取り入れることで睡眠の質が向上し、翌日の練習に向けた心身のリフレッシュには欠かせない存在でした」

日本気圧バルク工業は、高橋さんが世界を目指していた以前から酸素関連機器の販売を開始。当初は酸素カプセルを扱っていたが、世界でも類を見ない〝部屋型〟の酸素ルームを開発して2015年から販売している。天野社長がそのいきさつを語る。

「従来の酸素カプセルでも疲労回復やケガの治癒促進、アンチエイジングといった効果が期待できましたが、同時に『狭くて圧迫感がある、中が暑い、ケガ人が入りにくい』といった課題がありました。これらを解決するために開発したのが、広くて複数人でも同時に入ることができ、出入りが楽で、内部にエアコンを標準装備して快適に過ごせる『酸素ルーム』です。実はこの名称自体も当社が名づけたものです」

酸素カプセルから酸素ルームへの進化は、単なるサイズの拡大にとどまらない。利用者のメンタル面や活用シーンを劇的に変化させた。高橋さんもその居住性の高さに驚きを隠させない様子だ。

「部屋型の酸素ルームになったことで、使い方が大きく広がりました。中でテレビや映画を観ながらリラックスできるのはもちろん、ストレッチやヨガもできます。ただ寝ているだけでなく、酸素濃度の高い環境で身体を動かすことで、筋肉の柔軟性が高まる実感が得られます。これはアスリートだけでなく、健康維持を目的とする一般の方にとっても大きな利点だと思います」

「酸素カプセル」から「酸素ルーム」に発展したことで利用範囲が一気に拡大。エアコンが標準装備された空間は快適で、テレビや映画を観ながらゆっくりくつろげることに高橋さんは感心している

日本気圧バルク工業がこだわる「安心・安全」

部屋型とはいえ、密閉された空間に一定時間入ることに不安を覚える方もいるかもしれない。しかし、「当社の製品は誰もが安心して入れることが大前提」と強調する天野社長は、酸素ルームの安全性に強いこだわりと自信を持っている。

その一つは、高気圧酸素ルームにおいて、人体に負荷を掛けすぎない環境を採用していること。平地は1気圧、酸素濃度20.9%の環境だが、日本気圧バルク工業の高気圧酸素ルームは1.25~1.3気圧、酸素濃度35~40%の軽度高気圧酸素環境だ。

医療用の高気圧酸素は2気圧で100%酸素を使うが、それでは人体へのリクスもあり、爆発などの危険を回避するために頑丈な設備が必要となる。民間でも医療用に迫る1.5気圧から1.9気圧に設定した酸素ルームを扱っている業者はあるが、体内で活性酸素が過剰に発生して酸素中毒を引き起こす危険性があり、疲労回復のための利用が逆効果になってしまいかねない。

日本気圧バルク工業では京都大学、名古屋大学、神戸大学などの教育・研究機関や医療機関と共同研究を重ね、民間用の高気圧酸素ルームには前述の軽度高気圧酸素が最も適していることがわかり、その環境を『O2Room®』に取り入れているのだ。

もう一つのポイントは、何年経っても正常に動く頑丈な製品であること。それに役立っているのが『O2Room®』の壁面から突起している〝耐圧リブ〟であり、これがあるかないかで強度に雲泥の差が生じるという。

「酸素ルームに1.3気圧をかけると、内部からは外側に向けて約3トンもの強大な圧力が加わります。この力に耐え、気圧漏れを防ぐために耐圧リブは欠かせません。最近では見映えを気にして耐圧リブを省いたり、脆弱な造りでありながら1.5~1.9気圧まで上げてしまう他社製品も見受けられますが、それは非常に危険です。私たちは1.3気圧の製品をお客様に提供していますが、1.5気圧以上の力が加わっても問題がない構造にして30年間無事故を貫いています。それは熟練の職人が自社工場で一貫して製造し、絶対的な強度を確保しているからできることです。見映えが気になる方には、耐圧リブを覆うオーダーメイドの化粧プレートを用意しており、安全性とデザインを両立させた世界に一つだけの酸素ルームを提案しています」

日本気圧バルク工業の高気圧酸素ルームで特徴的な構造の〝耐圧リブ〟。これは「内部から外側にかかる約3トンの圧力に耐え、気圧漏れを防ぐため非常に大事なもの」と天野社長は話す

また、万が一の停電時にも、同社の『O2Room®』は安全性を確保している。
「停電になれば中に閉じ込められる恐怖がありますが、当社の製品は電気が止まると電磁弁(バルブ)が自動的に開き、自然に減圧されるシステムを採用しています。火災が起きた時も自然に機能が停止します。PL法(製造物責任法)に基づき、1名様5億円まで対応する高額な保険にも加入していますが、幸いなことにこの保険を使うような事態は一度も起きていません」

日本気圧バルク工業の「安心・安全」というモットーは、今までも、そしてこれからも揺らぐことはない。

〝本物の高地環境〟を実現する低圧低酸素ルーム

高気圧酸素ルームをリカバリー用の拠点とするなら、『O2Room®』のもう一つの柱である低圧低酸素ルームは、トレーニング用の拠点となる。高橋さんは、初めて日本気圧バルク工業の低圧低酸素ルームを体験した時、大きな衝撃を受けたという。

「わずか15分で平地から標高3000mの環境に到達し、さらに15分で平地の環境に戻れるスピードに驚きました。私は現役時代、10数時間かけて標高1600mのボルダーに行き、そこから2500mや3500m、最高では4300mある高地まで上ってトレーニングをしていました。『当時、こんな低圧低酸素ルームがあったらな』と思わずにはいられませんでした」

日本気圧バルク工業の低圧低酸素ルームは約15分で標高3000mの高地環境をつくり出すように設定。人体に過度な負荷をかけないため、減圧速度は飛行機が離陸する時とほぼ同じにしている

もともと天野社長は「高圧だけでなく、低圧にも耐えられなければいけない」と考え、高気圧酸素ルーム製作段階の耐圧テストを通して低圧低酸素ルームを誕生させた。それが標高の高い高地とほぼ同じ環境であり、持久力向上の効果が期待できると、製品化に踏み切った経緯がある。

「低圧低酸素環境に身を置くことで、人体は酸素を運ぶヘモグロビンや赤血球を増やそうとします。これが持久力向上のカギです。世の中には窒素ガスを充填して酸素濃度だけを下げる『常圧低酸素』もありますが、これは自然界には存在しない不自然な環境です。常圧では赤血球に与える影響に懸念があるという研究者もいます。一方で、当社の低圧低酸素ルームは気圧そのものを下げるため、地球上の高地と同じ環境になります。だからこそ〝本物の高地トレーニング〟が可能なのです」

高橋さんは、自身のオリンピックでの金メダル獲得や世界記録樹立に、低圧酸素環境での高地トレーニングがいかに不可欠であったかを解説する。

「高地での練習は本当に過酷です。平地で5000mを15分30秒で走れる選手でも、ボルダーの標高1600mで走れば16分20秒ぐらいかかります。50秒も遅くなるほど心肺に負荷がかかるのです。でも、この負荷を日常的にかけることで、平地に降りてきた時に驚くほど身体が軽く感じます」

今や男子マラソンのトップ選手は2時間を突破し、女子も2時間10分を切った。そうした世界の長距離・マラソン界をリードしているのが、ケニアやエチオピアを中心としたアフリカ勢だ。天野社長は「日本人選手もかなり強くなりましたが、それ以上に強力なアフリカ勢に対抗するには、彼らの生活・トレーニング拠点と同じ低圧低酸素環境に日常的にいるぐらいでないと勝負にならないような気がします」と力説する。

リアルな高地トレーニングの効果延伸も可能に!!

低圧低酸素ルームは、単にトレーニングで強化できること以外にもメリットが多い。たとえばボルダーなど海外の高地合宿を行うとなれば、そこに行くまでの経費と時間、さらに高地の環境に適性があるか否かという高い壁が存在する。高橋さんは、低圧低酸素ルームがその課題を解決すると考える。

「海外合宿には13時間以上の移動と多額の遠征費が必要です。また、どれほど優れた選手でも、高地の環境に身体が合わず体調を崩してしまうケースもある。現地に行ってから『合わない』とわかっても、簡単には帰国できません。そこで低圧低酸素ルームがあれば、出発前に高地への適性を判断でき、効率的なトレーニング計画が立てられます」

しかも、高地トレーニングで得られた効果は、平地に戻ると徐々に失われていく。これは、高地特有の環境によって増えた赤血球やヘモグロビン(赤血球に含まれるタンパク質の一種であり、肺で酸素を受け取り、全身の細胞に届ける役割を担う)が、平地では元の状態に戻ろうとするためだ。高橋さんが続ける。

「人間は順応性があって、高地トレーニングの効果は、平地に降りてから約2週間しかないと言われています。女子よりハイスピードで競う男子は、マラソンのレース前にスピード練習を導入したい選手が多く、試合の1ヵ月前に高地から降りてくることもありますが、そうなると試合当日には高地トレーニングの効果が消えてしまいます。でも、低圧低酸素ルームがあればレース直前まで高地トレーニングの効果も引き延ばす恩恵を受け続けられます」

日本の主要マラソンは冬場に集中しているが、その時期は高地トレーニングがほぼできない。マイナス20度になることもあるというボルダーはもちろん、日本の高地合宿地として知られる長野・菅平や岐阜・御嶽でも冬場は極寒すぎて練習にならないのだ。筋肉が固まり、ケガのリスクも高まる。しかし低圧低酸素ルーム内であれば、いつでも最適な温度管理のもとで高地と同じ環境下のトレーニングができる。

昨今、日本のスポーツ界では「常圧低酸素」を持久力向上のためのトレーニングに使う例が増えている。気圧はそのままで、空気中の窒素の割合を増やして低酸素にする簡易システムだ。それでも酸素が薄いためある程度の効果はあるものの、本格的な実験を行うと「常圧低酸素では不十分」という結果が海外論文でいくつも報告されている。

その一方、低圧低酸素は確かなエビデンスばかりが出ており、真の高地トレーニング効果を得るために、他社製の常圧低酸素設備から日本気圧バルク工業の低圧低酸素ルームに買い替える例が増えているという。

さらに天野社長は、低圧低酸素環境におけるトレーニング以外の効果を解説する。
「標高の高い地域に住む民族は長寿が多く、毛細血管が発達していて、体の隅々まで酸素が行き渡りやすいため健康寿命が延びる傾向にあると言われています。動物実験では数々のエビデンスが出ており、低圧低酸素環境の効果が証明されています」

人の全身の血管(動脈、静脈、細小動脈、毛細血管)のうち、毛細血管は全体の99%を占めるという。それだけ重要な毛細血管だが、寝たきりの状態などで運動をしないと一気に減少してしまうデータがある。ただし、低圧低酸素の環境にいるだけで毛細血管の著しい減少が防げるという研究が進んでおり、ケガをした方や高齢者の健康維持・増進に向けても低圧低酸素は大いに注目されていきそうだ。

「研究データこそ当社製品の最大の価値」という天野社長の言葉に高橋さんは感銘していた

高気圧&低圧の両環境を作り出せる『2way酸素ルーム』

日本気圧バルク工業の技術力の結晶と言えるのが、1台で高気圧酸素と低圧低酸素の環境を作り出せる『2way酸素ルーム』だろう。高橋さんも「トレーニング用の低圧と、回復用の高気圧。この2つを1台で、スイッチ1つで切り替えられるなんて、アスリートにとっては夢のような話。私も現役の時に欲しかったです」と目を輝かせる。

実際、実業団や大学の強豪駅伝チームをはじめ、他のスポーツ名門チーム、アスリートのパフォーマンスアップをサポートするケア施設、医療機関などが次々に『2way酸素ルーム』を導入している。天野社長もその点に確かな手応えを感じつつ、製品の信頼性の高さを改めて訴える。

「当社では気圧の異なる2つの環境を併用できる『2way酸素ルーム』で特許を取得しており、低圧低酸素ルームの風で減圧するブロア式という減圧システムも特許技術です。これら当社の製品は一般の家庭用電源(100V)で稼働するため、ランニングコストも非常に低く抑えられるのが特長です。低い電圧で稼働する機器のため物理的に大きなトラブルにつながりませんから、30年間無事故を続けることができています」

科学的エビデンスの追究とものづくりのポリシー

日本気圧バルク工業のすべての製品が数々の大学や医療機関との共同研究で得られた多数のエビデンスを基に製造されている。その徹底があるからこそ、「酸素ルームと言えば、日本気圧バルク工業」という流れになり、選ばれ続けているに違いない。高橋さんも「天野社長のお話を伺っていると、本当にデータを大切にされているのがわかります」と過去の経験談を持ち出す。

「私が体験した際も、低圧低酸素ルームに15分入っただけでヘモグロビン検査の数値が10.5g/dlから12.2g/dlに上昇しました。私は値が低いのですが、この数値が1.7g/dlも上がるのはすごいことで、全身への酸素供給量が劇的に改善したことになります。私の体感だけでなく数値として証明された変化だったので、とても説得力がありました」

注: 一般人の血液中のヘモグロビン(Hb)の基準値は、成人男性で13.0~17.0g/dl、成人女性は12.0~16.0g/dl。

しかも日本気圧バルク工業では、大学や医療機関との共同研究を任せっぱなしにはしない姿勢を貫く。

「私たちは多くの大学や医療機関と共同研究を行っています。単にデータを取ってもらうだけでなく、私たち自身も研究に加わり、学会にも所属して毎年論文を発表しています。酸素濃度や血流の変化、ヘモグロビン値の推移など、すべてを数値化し、オーバーな営業トークではなく、事実に基づいた提案をしています。お客様には〝気圧のプロ〟として正しい知識を持って製品を届ける。これが私たちの責任です」

最後に高橋さんが酸素ルームへの期待を次のように締めくくった。

「ひと昔前のような『酸素ルームはスポーツのトップ選手だけのもの』という時代ではなくなりました。リースもやっているので、家族や会社、チームで利用すれば、比較的安価で済みます。スポーツをする人はどんなレベルであれパフォーマンスを上げるために、スポーツをあまりしない人でも日々の健康のために。『O2Room®』が挑戦し続けるみなさんのパートナーになれば本当にうれしいです」

科学と情熱が融合しながら進化を続ける日本気圧バルク工業の酸素ルーム『O2Room®』は、これからも限界に挑むアスリートや健康増進を願うすべての人々を支え、日本の健康・スポーツ文化を底上げしていく。

自社開発・自社製造が持ち味である日本気圧バルク工業の『O2Room®』は大きさ、内装・外装の色やデザインまで自由自在にオーダーメイドできるのが大きな特長だ

●構成/小野哲史、撮影/船越陽一郎

※この記事は『月刊陸上競技』2026年9月号にも掲載しています

日本気圧バルク工業株式会社が製造・販売する酸素ルーム『O2Room®』は、陸上の長距離をはじめとするスポーツ界のみならず、医療や福祉、さらには一般家庭へとその普及を広げている。同社の天野英紀代表取締役社長と同社のアンバサダーを務めるシドニー五輪女子マラソン金メダリスト・高橋尚子さんの2人が、それぞれの立場から酸素がもたらす効果、『O2Room®』のメリットなどについて語り合った。 「酸素カプセル」から「酸素ルーム」へ発展、業界をリードする日本気圧バルク工業 高橋さんは現役時代、米国コロラド州ボルダー(標高約1600m)を拠点に過酷な高地トレーニングを重ね、2000年のシドニー五輪女子マラソンで金メダルを獲得、2001年のベルリン・マラソンで世界記録(当時)を樹立するなど数々の偉業を成し遂げた。 その過程で欠かせなかったのが〝酸素〟によるリカバリーだったという。 「私は現役時代、大切なレースの前にはアメリカのボルダーにおいて、3ヵ月から6ヵ月の長期に亘って高地トレーニングをしていました。高地でのトレーニングは平地以上に過酷ですから、ボルダーの住居には酸素カプセルを置いて、『今日は疲労が溜まったから明日はちゃんと練習できるかな?』という時や、『ケガではないけど、足が痛みそうだから予防したいな』という時に入っていました。当時は円筒形の酸素カプセルしかなかったので、入ったら横になって寝ているだけでしたが、酸素を取り入れることで睡眠の質が向上し、翌日の練習に向けた心身のリフレッシュには欠かせない存在でした」 日本気圧バルク工業は、高橋さんが世界を目指していた以前から酸素関連機器の販売を開始。当初は酸素カプセルを扱っていたが、世界でも類を見ない〝部屋型〟の酸素ルームを開発して2015年から販売している。天野社長がそのいきさつを語る。 「従来の酸素カプセルでも疲労回復やケガの治癒促進、アンチエイジングといった効果が期待できましたが、同時に『狭くて圧迫感がある、中が暑い、ケガ人が入りにくい』といった課題がありました。これらを解決するために開発したのが、広くて複数人でも同時に入ることができ、出入りが楽で、内部にエアコンを標準装備して快適に過ごせる『酸素ルーム』です。実はこの名称自体も当社が名づけたものです」 酸素カプセルから酸素ルームへの進化は、単なるサイズの拡大にとどまらない。利用者のメンタル面や活用シーンを劇的に変化させた。高橋さんもその居住性の高さに驚きを隠させない様子だ。 「部屋型の酸素ルームになったことで、使い方が大きく広がりました。中でテレビや映画を観ながらリラックスできるのはもちろん、ストレッチやヨガもできます。ただ寝ているだけでなく、酸素濃度の高い環境で身体を動かすことで、筋肉の柔軟性が高まる実感が得られます。これはアスリートだけでなく、健康維持を目的とする一般の方にとっても大きな利点だと思います」 [caption id="attachment_213418" align="alignnone" width="800"] 「酸素カプセル」から「酸素ルーム」に発展したことで利用範囲が一気に拡大。エアコンが標準装備された空間は快適で、テレビや映画を観ながらゆっくりくつろげることに高橋さんは感心している[/caption] 日本気圧バルク工業がこだわる「安心・安全」 部屋型とはいえ、密閉された空間に一定時間入ることに不安を覚える方もいるかもしれない。しかし、「当社の製品は誰もが安心して入れることが大前提」と強調する天野社長は、酸素ルームの安全性に強いこだわりと自信を持っている。 その一つは、高気圧酸素ルームにおいて、人体に負荷を掛けすぎない環境を採用していること。平地は1気圧、酸素濃度20.9%の環境だが、日本気圧バルク工業の高気圧酸素ルームは1.25~1.3気圧、酸素濃度35~40%の軽度高気圧酸素環境だ。 医療用の高気圧酸素は2気圧で100%酸素を使うが、それでは人体へのリクスもあり、爆発などの危険を回避するために頑丈な設備が必要となる。民間でも医療用に迫る1.5気圧から1.9気圧に設定した酸素ルームを扱っている業者はあるが、体内で活性酸素が過剰に発生して酸素中毒を引き起こす危険性があり、疲労回復のための利用が逆効果になってしまいかねない。 日本気圧バルク工業では京都大学、名古屋大学、神戸大学などの教育・研究機関や医療機関と共同研究を重ね、民間用の高気圧酸素ルームには前述の軽度高気圧酸素が最も適していることがわかり、その環境を『O2Room®』に取り入れているのだ。 もう一つのポイントは、何年経っても正常に動く頑丈な製品であること。それに役立っているのが『O2Room®』の壁面から突起している〝耐圧リブ〟であり、これがあるかないかで強度に雲泥の差が生じるという。 「酸素ルームに1.3気圧をかけると、内部からは外側に向けて約3トンもの強大な圧力が加わります。この力に耐え、気圧漏れを防ぐために耐圧リブは欠かせません。最近では見映えを気にして耐圧リブを省いたり、脆弱な造りでありながら1.5~1.9気圧まで上げてしまう他社製品も見受けられますが、それは非常に危険です。私たちは1.3気圧の製品をお客様に提供していますが、1.5気圧以上の力が加わっても問題がない構造にして30年間無事故を貫いています。それは熟練の職人が自社工場で一貫して製造し、絶対的な強度を確保しているからできることです。見映えが気になる方には、耐圧リブを覆うオーダーメイドの化粧プレートを用意しており、安全性とデザインを両立させた世界に一つだけの酸素ルームを提案しています」 [caption id="attachment_213420" align="alignnone" width="800"] 日本気圧バルク工業の高気圧酸素ルームで特徴的な構造の〝耐圧リブ〟。これは「内部から外側にかかる約3トンの圧力に耐え、気圧漏れを防ぐため非常に大事なもの」と天野社長は話す[/caption] また、万が一の停電時にも、同社の『O2Room®』は安全性を確保している。 「停電になれば中に閉じ込められる恐怖がありますが、当社の製品は電気が止まると電磁弁(バルブ)が自動的に開き、自然に減圧されるシステムを採用しています。火災が起きた時も自然に機能が停止します。PL法(製造物責任法)に基づき、1名様5億円まで対応する高額な保険にも加入していますが、幸いなことにこの保険を使うような事態は一度も起きていません」 日本気圧バルク工業の「安心・安全」というモットーは、今までも、そしてこれからも揺らぐことはない。 〝本物の高地環境〟を実現する低圧低酸素ルーム 高気圧酸素ルームをリカバリー用の拠点とするなら、『O2Room®』のもう一つの柱である低圧低酸素ルームは、トレーニング用の拠点となる。高橋さんは、初めて日本気圧バルク工業の低圧低酸素ルームを体験した時、大きな衝撃を受けたという。 「わずか15分で平地から標高3000mの環境に到達し、さらに15分で平地の環境に戻れるスピードに驚きました。私は現役時代、10数時間かけて標高1600mのボルダーに行き、そこから2500mや3500m、最高では4300mある高地まで上ってトレーニングをしていました。『当時、こんな低圧低酸素ルームがあったらな』と思わずにはいられませんでした」 [caption id="attachment_213422" align="alignnone" width="800"] 日本気圧バルク工業の低圧低酸素ルームは約15分で標高3000mの高地環境をつくり出すように設定。人体に過度な負荷をかけないため、減圧速度は飛行機が離陸する時とほぼ同じにしている[/caption] もともと天野社長は「高圧だけでなく、低圧にも耐えられなければいけない」と考え、高気圧酸素ルーム製作段階の耐圧テストを通して低圧低酸素ルームを誕生させた。それが標高の高い高地とほぼ同じ環境であり、持久力向上の効果が期待できると、製品化に踏み切った経緯がある。 「低圧低酸素環境に身を置くことで、人体は酸素を運ぶヘモグロビンや赤血球を増やそうとします。これが持久力向上のカギです。世の中には窒素ガスを充填して酸素濃度だけを下げる『常圧低酸素』もありますが、これは自然界には存在しない不自然な環境です。常圧では赤血球に与える影響に懸念があるという研究者もいます。一方で、当社の低圧低酸素ルームは気圧そのものを下げるため、地球上の高地と同じ環境になります。だからこそ〝本物の高地トレーニング〟が可能なのです」 高橋さんは、自身のオリンピックでの金メダル獲得や世界記録樹立に、低圧酸素環境での高地トレーニングがいかに不可欠であったかを解説する。 「高地での練習は本当に過酷です。平地で5000mを15分30秒で走れる選手でも、ボルダーの標高1600mで走れば16分20秒ぐらいかかります。50秒も遅くなるほど心肺に負荷がかかるのです。でも、この負荷を日常的にかけることで、平地に降りてきた時に驚くほど身体が軽く感じます」 今や男子マラソンのトップ選手は2時間を突破し、女子も2時間10分を切った。そうした世界の長距離・マラソン界をリードしているのが、ケニアやエチオピアを中心としたアフリカ勢だ。天野社長は「日本人選手もかなり強くなりましたが、それ以上に強力なアフリカ勢に対抗するには、彼らの生活・トレーニング拠点と同じ低圧低酸素環境に日常的にいるぐらいでないと勝負にならないような気がします」と力説する。 リアルな高地トレーニングの効果延伸も可能に!! 低圧低酸素ルームは、単にトレーニングで強化できること以外にもメリットが多い。たとえばボルダーなど海外の高地合宿を行うとなれば、そこに行くまでの経費と時間、さらに高地の環境に適性があるか否かという高い壁が存在する。高橋さんは、低圧低酸素ルームがその課題を解決すると考える。 「海外合宿には13時間以上の移動と多額の遠征費が必要です。また、どれほど優れた選手でも、高地の環境に身体が合わず体調を崩してしまうケースもある。現地に行ってから『合わない』とわかっても、簡単には帰国できません。そこで低圧低酸素ルームがあれば、出発前に高地への適性を判断でき、効率的なトレーニング計画が立てられます」 しかも、高地トレーニングで得られた効果は、平地に戻ると徐々に失われていく。これは、高地特有の環境によって増えた赤血球やヘモグロビン(赤血球に含まれるタンパク質の一種であり、肺で酸素を受け取り、全身の細胞に届ける役割を担う)が、平地では元の状態に戻ろうとするためだ。高橋さんが続ける。 「人間は順応性があって、高地トレーニングの効果は、平地に降りてから約2週間しかないと言われています。女子よりハイスピードで競う男子は、マラソンのレース前にスピード練習を導入したい選手が多く、試合の1ヵ月前に高地から降りてくることもありますが、そうなると試合当日には高地トレーニングの効果が消えてしまいます。でも、低圧低酸素ルームがあればレース直前まで高地トレーニングの効果も引き延ばす恩恵を受け続けられます」 日本の主要マラソンは冬場に集中しているが、その時期は高地トレーニングがほぼできない。マイナス20度になることもあるというボルダーはもちろん、日本の高地合宿地として知られる長野・菅平や岐阜・御嶽でも冬場は極寒すぎて練習にならないのだ。筋肉が固まり、ケガのリスクも高まる。しかし低圧低酸素ルーム内であれば、いつでも最適な温度管理のもとで高地と同じ環境下のトレーニングができる。 昨今、日本のスポーツ界では「常圧低酸素」を持久力向上のためのトレーニングに使う例が増えている。気圧はそのままで、空気中の窒素の割合を増やして低酸素にする簡易システムだ。それでも酸素が薄いためある程度の効果はあるものの、本格的な実験を行うと「常圧低酸素では不十分」という結果が海外論文でいくつも報告されている。 その一方、低圧低酸素は確かなエビデンスばかりが出ており、真の高地トレーニング効果を得るために、他社製の常圧低酸素設備から日本気圧バルク工業の低圧低酸素ルームに買い替える例が増えているという。 さらに天野社長は、低圧低酸素環境におけるトレーニング以外の効果を解説する。 「標高の高い地域に住む民族は長寿が多く、毛細血管が発達していて、体の隅々まで酸素が行き渡りやすいため健康寿命が延びる傾向にあると言われています。動物実験では数々のエビデンスが出ており、低圧低酸素環境の効果が証明されています」 人の全身の血管(動脈、静脈、細小動脈、毛細血管)のうち、毛細血管は全体の99%を占めるという。それだけ重要な毛細血管だが、寝たきりの状態などで運動をしないと一気に減少してしまうデータがある。ただし、低圧低酸素の環境にいるだけで毛細血管の著しい減少が防げるという研究が進んでおり、ケガをした方や高齢者の健康維持・増進に向けても低圧低酸素は大いに注目されていきそうだ。 [caption id="attachment_213424" align="alignnone" width="800"] 「研究データこそ当社製品の最大の価値」という天野社長の言葉に高橋さんは感銘していた[/caption] 高気圧&低圧の両環境を作り出せる『2way酸素ルーム』 日本気圧バルク工業の技術力の結晶と言えるのが、1台で高気圧酸素と低圧低酸素の環境を作り出せる『2way酸素ルーム』だろう。高橋さんも「トレーニング用の低圧と、回復用の高気圧。この2つを1台で、スイッチ1つで切り替えられるなんて、アスリートにとっては夢のような話。私も現役の時に欲しかったです」と目を輝かせる。 実際、実業団や大学の強豪駅伝チームをはじめ、他のスポーツ名門チーム、アスリートのパフォーマンスアップをサポートするケア施設、医療機関などが次々に『2way酸素ルーム』を導入している。天野社長もその点に確かな手応えを感じつつ、製品の信頼性の高さを改めて訴える。 「当社では気圧の異なる2つの環境を併用できる『2way酸素ルーム』で特許を取得しており、低圧低酸素ルームの風で減圧するブロア式という減圧システムも特許技術です。これら当社の製品は一般の家庭用電源(100V)で稼働するため、ランニングコストも非常に低く抑えられるのが特長です。低い電圧で稼働する機器のため物理的に大きなトラブルにつながりませんから、30年間無事故を続けることができています」 科学的エビデンスの追究とものづくりのポリシー 日本気圧バルク工業のすべての製品が数々の大学や医療機関との共同研究で得られた多数のエビデンスを基に製造されている。その徹底があるからこそ、「酸素ルームと言えば、日本気圧バルク工業」という流れになり、選ばれ続けているに違いない。高橋さんも「天野社長のお話を伺っていると、本当にデータを大切にされているのがわかります」と過去の経験談を持ち出す。 「私が体験した際も、低圧低酸素ルームに15分入っただけでヘモグロビン検査の数値が10.5g/dlから12.2g/dlに上昇しました。私は値が低いのですが、この数値が1.7g/dlも上がるのはすごいことで、全身への酸素供給量が劇的に改善したことになります。私の体感だけでなく数値として証明された変化だったので、とても説得力がありました」 注: 一般人の血液中のヘモグロビン(Hb)の基準値は、成人男性で13.0~17.0g/dl、成人女性は12.0~16.0g/dl。 しかも日本気圧バルク工業では、大学や医療機関との共同研究を任せっぱなしにはしない姿勢を貫く。 「私たちは多くの大学や医療機関と共同研究を行っています。単にデータを取ってもらうだけでなく、私たち自身も研究に加わり、学会にも所属して毎年論文を発表しています。酸素濃度や血流の変化、ヘモグロビン値の推移など、すべてを数値化し、オーバーな営業トークではなく、事実に基づいた提案をしています。お客様には〝気圧のプロ〟として正しい知識を持って製品を届ける。これが私たちの責任です」 最後に高橋さんが酸素ルームへの期待を次のように締めくくった。 「ひと昔前のような『酸素ルームはスポーツのトップ選手だけのもの』という時代ではなくなりました。リースもやっているので、家族や会社、チームで利用すれば、比較的安価で済みます。スポーツをする人はどんなレベルであれパフォーマンスを上げるために、スポーツをあまりしない人でも日々の健康のために。『O2Room®』が挑戦し続けるみなさんのパートナーになれば本当にうれしいです」 科学と情熱が融合しながら進化を続ける日本気圧バルク工業の酸素ルーム『O2Room®』は、これからも限界に挑むアスリートや健康増進を願うすべての人々を支え、日本の健康・スポーツ文化を底上げしていく。 [caption id="attachment_213426" align="alignnone" width="800"] 自社開発・自社製造が持ち味である日本気圧バルク工業の『O2Room®』は大きさ、内装・外装の色やデザインまで自由自在にオーダーメイドできるのが大きな特長だ[/caption] ●構成/小野哲史、撮影/船越陽一郎 ※この記事は『月刊陸上競技』2026年9月号にも掲載しています

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